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生物多様性セミナー 2002年3月

多様性はなぜ偶然に変動しないのか?

吉田勝彦(群集動態研究チーム)


地質学的な時間スケールにおける多様性変動に影響する要因を明らかにするために、確率モデル(系内の種数が増えるか減るかを、さいころを振るようにして確率的に決めるモデル)、食うー食われるモデル(種の進化に伴って構築された種同士の食うー食われるの関係を介して種数が増減するモデル)、攪乱モデル(食うー食われるモデルに確率的な攪乱を加えるモデル)の3つのモデルのコンピューターシミュレーションを行った。その結果、確率モデルよりも食うー食われるモデルの方が、実際の化石記録に見られる多様性変動パターンに近い挙動を示すことが明らかとなった。また、攪乱モデルではかなり激しい攪乱を加えたが、その結果は確率モデルの結果よりも食うー食われるモデルの結果に非常に近かった。この結果は、種の進化に伴って構築された種同士の食うー食われるの関係は攪乱に対して非常に強いことを示している。実際の化石記録に見られる多様性変動が食うー食われる関係に強く影響されているように見えるのはこのためだと思われる。


質疑応答

(1) モデルはLotka-Volterra方程式を用いているが、Lotka-Volterra式が正しいことはどうやったらわかるのか?

(答え) 生物群集のモデル化には、Lotka-Volterra式などの微分方程式を用いるものと、個体ベースモデルという、二つのパラダイムがある。どちらが正しいか、または別のパラダイムがあるのか、を明らかにするためにはデータを積み重ねていくしかない。

(2) バイオマスの変化を計算しているのはなぜか?なぜ個体数ではないのか?

(答え)Lotka-Volterra式で個体数の増減を計算するのなら、全ての生物の個体が同じ大きさであるという仮定が必要であるが、その仮定は適当ではない。

(追加コメント)象1匹と蚊100万匹を比べたとき、バイオマスとしては象の方が大きいだろうが、蚊100万匹の方が絶滅しにくいように思われるので、バイオマスをベースにした議論は不適当なのではないか?

(答え)実際どちらが絶滅しやすいかは、難しい問題である。また、各種には「1個体分の生物量」という変数を与えており、種全体の生物量がその種1個体分の生物量を下回ったときに絶滅する、としているので、一応指摘された点はモデルに既に含まれている。

(3) 攪乱モデルの設定の中で、それぞれの種に独立に攪乱が加わり、一定量のバイオマスが減少させられる、という仮定は不自然なのではないか。何を想定した攪乱なのかはっきりしない。

(答え)攪乱の加え方の生物学的な妥当性については今後の検討が必要である。今回は「食うー食われるモデル」に対して、「確率モデル」の挙動にわざと近づけるような攪乱の加え方をして、その挙動がどの程度確率モデルに近づくかを明らかにすることを目的としていたので、このような設定にした。

(更にコメント)人間による攪乱というイメージならば納得しやすい。

(4) 検出力が低い。実際に見られるパターンを再現しているとは言えないのではないか?

(答え)化石記録に基づいて、精度の高いデータを得ることはほぼ不可能である。そのため、実際に化石記録に見られる多様性変動のパターンとシミュレーションの結果との比較は定性的に近いものとなり、決め手を欠く。そこで、食うー食われるモデルに攪乱を加えても、その挙動は攪乱のない場合とあまり変わらないことを示すことによって、実際の多様性変動が、食うー食われるの関係を介した変動に必然的に近づくことを示した。

(更にコメント)最近数十年にわたって蓄積された、比較的詳細で正確な生態学的データを検証に使えるような、短い時間軸の現象を扱うモデルを構築するべきではないか?