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生物多様性セミナー 2002年6月

化学農薬のリスクと生物農薬のリスク

五箇公一(侵入生物研究チーム)


近年我が国では天敵農薬や花粉媒介昆虫などの農業用生物資材の利用が脚光を 浴び始めている。これらの生物資材は化学農薬依存型の現在の農業生産体系から 脱却して環境保全型農業を推し進める上での重要なツールと考えられている。 すでにオランダやベルギーなどのヨーロッパ諸国では農業用生物資材の開発・ 販売がビジネスとして成立し、化学農薬の使用量をこの10年間で半減させることに 成功している。化学農薬の消費量がアメリカ合衆国と首位を争う我が国においても 今後その利用拡大が農水省によって目指されている。

しかし、これらの生物資材の多くが外国産種の輸入商品であることから多くの 生態学者が将来、商品生物が侵入生物と化して在来の生態系に悪影響を 及ぼすのではないかと危惧している。実際、我が国には生物資材の生態影響評価に 関する法規制もテストガイドラインも存在せず、ほとんどの商品が何の検疫も受けずに 成田に空輸され、全国に配送されている。こうした生態学者の意見に対して 推進派からは決まって「では、化学農薬の時代に逆行するつもりか?」という 反論がかえってくる。このロジックは一見極めて強固な正当論にも見えるが、 では果たして現在の化学農薬のリスクというものを彼らは正しく評価しているので あろうか?また何を持って生物農薬あるいは生物資材のほうが「リスクが低い」 と言えるのであろうか?

演者はここ国立環境研究所に移籍するまで約7年間に渡り化学農薬メーカーで殺虫剤の 研究開発に携わってきた。そして現職に就いてからは化学物質の生態影響評価に 携わり、現在は「侵入生物プロジェクト」の課題代表者を務めている。 言ってみれば、化学農薬と生物農薬の両方の裏側をのぞいてきた経験を持っている。 そうした立場から今回「化学農薬のリスクと生物農薬のリスク」について 考察してみたい。

  1. 化学農薬の悪玉DDTの功罪(今なお続く地球環境汚染と南北問題)
  2. 現代の化学農薬の進歩と安全性(味の素より安全な農薬がある)
  3. 新しい化学農薬のリスク(ネオニコチノイドを例に)
  4. 化学農薬よりも毒性が高い日常用品の抗菌物質(ジンクピリチオンを例に)
  5. 農業用生物資材の定義(生物農薬と花粉媒介昆虫)
  6. オランダから輸入される農業用生物資材の数々
  7. 生物農薬のリスク予測(生物故の生態影響)
  8. 生物農薬の分布拡大(人為移送で効率よく移動)
  9. 生物農薬の市場(農薬市場4000億円中のたった1億円弱!)
  10. 日本の農業環境と生物農薬の行く末(生物農薬のリスクを議論する以前に日本 の農業そのものの存続が危うい現実に目をむけるべし)