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生物多様性セミナー 2001年10月

輸入昆虫の脅威−輸入クワガタの実態

五箇公一(侵入生物研究チーム)


1999年11月、植物防疫法の一部が改正され、48種類のカブトムシおよびクワガタムシ 生体の輸入が解禁された。これらの種は日本の農林作物に被害を与えることはないと 判断された結果である。背景には異常なまでの外国産昆虫のペットブームがあった。 その後も輸入許可種は追加が繰り返され、2001年7月時点でカブトムシ16種、クワガ タムシ74種の計90種の輸入が認められている。これらのクワガタムシ・カブトムシは 国内の販売業者を通じて大量に輸入され、ペットショップやスーパーで普通に売られ るようになった。世界的にも類い希なるこの甲虫ブームは、様々な問題を引き起こし つつある。珍品狙いで、輸入許可が下りていない種まで輸入販売したり、あるいは日 本で輸入許可は出ているが外国で輸出が認められていない種を密輸するブローカーま で現れている。実際にネパールなどで大量のカブトムシを採集して持ち帰ろうとした 日本人が逮捕されるという事件まで起きている。

 こうした社会問題もさることながら、生きた昆虫を導入することによる生態リスク がやはり一番に懸念されるべきである。外国産のクワガタやカブトムシの生物学的特 性に関して十分な調査も為されないまま、安易に輸入が認められていることは重大問 題である。一般に外国産クワガタ・カブトの定着の可能性は低いものと判断されてい る。確かにほとんどの輸入品種は熱帯地域原産のものであるが、生息地の標高がかな り高い種も含まれており、日本の低地での定着が十分可能な種も少なくない。また、 オオクワガタやヒラタクワガタは日本周辺アジア地域に多数の近縁亜種が存在し、大 量に輸入されているが、外来種と在来種との交雑の恐れも十分にある。そして、寄生 生物の持ち込みの問題も心配される。

 当研究チームでは今後ますます増えていくと考えられる外来クワガタムシ・カブト ムシの輸入がもたらす生態リスクを評価すべく、以下の研究を展開させている。

  1. 日本野外での定着可能性を検討するため、輸入種の生活史パラメータを調べる。 それらのデータをもとに日本に侵入した場合の分布域を予測する。
  2. 日本のクワガタムシ・カブトムシの遺伝的多様性を把握するために、国内のクワ ガタムシ地域個体群内・間の遺伝的変異をDNA塩基配列解析によって調べる
  3. 外国産のクワガタムシ・カブトムシと日本の在来種との遺伝的関係を探るため、D NA塩基配列を解析するとともに交雑実験によって生殖隔離の程度を調べる
  4. 外国産寄生生物の侵入が在来種に与えるインパクトを予測するために、輸入品か らの寄生生物の抽出および種の同定を行い、それらの寄生生物種の生物学的特性(生 活史、分布域、病原性など)を調べるとともに、在来種への感染実験を行う。
  5. 輸入実態を把握するために、植防などを通じて輸入種数および輸入個体数に関す るデータを収集するとともに市場に流通しているルートおよび数量を追跡調査する。

 輸入クワガタ・カブトムシのほとんどが東南アジア・東アジア域から輸入されてお り、これらの地域での乱獲による個体数の減少も懸念される。将来的にはアジア全域 におけるクワガタムシ・カブトムシの個体群調査も行う必要がある。クワガタムシ・ カブトムシは、子供から大人まで幅広い層に愛好されている昆虫であり、生態影響の みならず社会的影響も大きな昆虫種といえる。これらの昆虫種の問題を通じて、生態 系および生物多様性の保全に対する社会的関心が高まることも期待したい。


図 日本産ヒラタクワガタ雌に交尾を迫るスマトラ産スマトラオオヒラタクワガタ雄

日本産クワガタ雌に交尾を迫るスマトラ産クワガタ