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生物多様性セミナー 2001年5月

相互作用網モデルの問題点

吉田勝彦(群集動態研究チーム)


 Lotka-Volterra方程式を用いて、生物群集の挙動を解析する研究は数多く行われている。生物群集には捕食―被食関係だけでなく、様々な相互作用がある。それらの全ての相互作用を含めて生物群集をモデル化する場合、相利共生による生物量の爆発が問題となる(生物量が無限に増加し、コンピューターで扱える数字の限界を超えてプログラムが止まる)。そのため、これまでは(1)相利共生を禁じる、(2)爆発を起こした系は除外する、(3)環境収容力を導入する、などの工夫がなされてきた。しかし(1)(2)は相利共生から目を背けているだけである。また、(3)も本質的な解決にはなっていない。この仮定を導入すると、系内の生物量があっという間に上限に達し、その後は許される環境収容力の範囲内での、生物量の分配率の奪い合いになってしまう。そのため、本来相互作用がありえない種間にも「生物量の分配率の奪い合い」という競争関係が派生してしまう。この条件では増殖率の大きな種が有利なので、捕食―被食関係すらも捨て去り、全ての種と相利共生をする方向に進化する。  相互作用網の最大の問題は、必要な資源を採り入れることなく、相利共生をするだけで生物量を増加させることが可能な点にある。今後は採り入れる物質量に基づいた増殖を行うようにモデルを改良する必要がある。


質疑応答

(1)モデルの正しさはどのように検証するのか

 現実の世界の再現は目的ではない。  ある性質を持つ系があったとき、それがどのような挙動をするのか、を明らかにし、現実の世界を理解するときの手がかりを示すことが目的である。

 例えば現在のモデルは、多くの構成要素からなる系であること、それぞれが相互作用していること、進化することを中心的なプロセスとしている。これに沿って現実の生物群集を調べていくことも可能であるし、現在のモデルで扱われていないプロセスに注目し、それが系の挙動に及ぼす影響を調べることも可能である。基本的には、研究をどこから始めて、とりあえずどの方向に進んでいくか、を指し示す道標的な役割を果たすモデルだと理解して欲しい。

(2)空間構造が導入されていないのはおかしいのではないか?単一の小さな群集について時間を引き延ばしただけでは何もわからないのではないか?

 今後はmulti-patch modelの形で空間構造の導入を目指す。しかし異なる集団間で遺伝的な交流があった場合に、その集団の相互作用の性質がどのように変化するかが全くわかっていない。また、この場合は種分化をどのように起こすかも問題となる。進化的時間スケールにおいて空間構造を導入することは、現時点では難しい。

(3)環境変動は導入可能か?

 様々な環境変動が考えられるが、それぞれ適宜導入可能である。

(4)パラメーターはどう決めているのか

 初期値は適当に決めている。その後はそれぞれの種(系列)が自分にとって都合の良いパラメータが得られる方向に勝手に進化していく。

(5) 相互作用の相手の頻度によって相互作用の性質と強さが変わるようなモデルはできないのか

 相互作用係数の絶対値自体は変化させていないが、計算式の形は、お互いの生物量に依存して相互作用の強度が変化するようになっている。しかし、頻度による相互作用の性質の変化(相互作用係数の正負の変化)は現在扱っていない。それを扱うためには新たな仮定の導入が必要である。

 また、扱う単位より小さな階層はブラックボックスにしているので、いわゆる頻度依存淘汰の導入は難しい。集団をいくつかの副次集団に分ければ、頻度依存淘汰の導入は可能である。しかしこの場合も副次集団間の遺伝的な交流による相互作用の変化の様式が問題となる。

この現状をみて、それなら、遺伝的に異なる集団間で遺伝的な交流があったときに相互作用がどのように変化するのか調べてやる、という人が出現すれば、このモデルは役割を果たしたことになる