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生物多様性セミナー 2001年7月

遺伝子組換え体の環境中での挙動調査 (1)挙動調査用マーカーの開発

玉置雅紀 (分子生態影響評価研究チーム)


 遺伝子組換え作物は、農水省が作成したガイドラインに則った安全性評価手法、管 理手法で開放系における栽培が認可されている。しかしながら、このガイドラインの 下では遺伝子組換え植物の環境に与える影響評価、特に導入遺伝子の他の植物への伝 搬確率の解析は、繁雑な手順を必要とする方法で行われているため必ずしも十分な検 体数に対して行われていない。今後、この技術の適用枠の拡大(例;ファイトレメデ ィエーション)に伴い、耕作地以外の場所で生育する非作物の植物種にこの技術が応 用される事が予測されるため、これまでのガイドラインの枠内での環境影響評価手法 は不十分になることが考えられる。

 そこで、多様性プロジェクトの一つのサブテーマとして、組換え遺伝子の拡散を簡 便に見るための新しいマーカー遺伝子の開発を行う。その際用いるマーカーとして、 (1)葉の形態異常を引き起こす遺伝子 (2)体色変化を引き起こす遺伝子 、を 候補に挙げ、それらの植物への導入と導入による生育特性の変化を調べた結果の一部 を紹介する。  

(1)葉の形態異常を引き起こすホメオボックス遺伝子をマーカーとして用いる

 タバコより単離したホメオボックス遺伝子をタバコで過剰発現するように導入した 結果以下のことが明らかになった。

 1、6種類のホメオボックス遺伝子をそれぞれ導入することにより、大きく4つの 表現型(変化の弱い順に Normal, Curved, Wrinkle, Dwarf) が見られることがわか った。またこれらの形態異常が生じる割合は、各ホメオボックスで異なることが明ら かになった。

 2、それぞれの表現型を用いて、栄養生長、生殖生長の指標となるいくつかの形質 を調べたところ、Curvedの形態異常を示すものでは種子の数を除く全ての形質で Wild typeとほぼ同程度であることが示された。この表現型における種子数の減少は 雄蕊の伸長に原因があると考えられることから、花粉供給源としてこの植物を使用す るならば大きな問題はないと考えられた。

 以上の結果から、ホメオボックス遺伝子のタバコへの導入による形態異常の表現型 のうち、Curvedを示すものは組換え遺伝子の拡散マーカー植物として使用可能ではな いかと結論づけた。

 現在、シロイヌナズナにタバコホメオボックス遺伝子の導入を行っており、形態異 常を示す組換え体を数十系統得ている。今後はこれらの生育特性の解析を行った後に 実際にマーカーとしてこの植物が使えるかどうかを隔離温室にて検討する予定であ る。  

(2)体色変化を引き起こす遺伝子をマーカーとして用いる

 ホメオボックス遺伝子をマーカーとして使用する際の大きな問題点として、生育特 性が野生型と大きく異なる{(1)ー2 参照}ことがある。この生育特性の変化が 最終的に環境中への拡散を調べた時の結果に大きな影響を残す可能性がある。そこ で、比較的植物の生育に影響の出にくいと考えられる、体色を変化させる遺伝子を指 標とする為の研究も同時に行う。用いるマーカー遺伝子としては、GFP(Green Fluorescent Protein)とアントシアニン合成経路の制御遺伝子 (R gene)を考えてい る。今後、これらの遺伝子を導入したシロイヌナズナを手に入れ、生育特性への影響 評価の後に導入遺伝子の拡散マーカーとしての使用を検討している。  

 また、新しい遺伝子組換え植物の解析手法として、多数の(数千〜数万個)遺伝子 の発現を同時に見ることができるDNAアレイ法(マイクロアレイ、マクロアレイ)を 提案したい。現在、遺伝子組換え体の認可時に行われる解析は限られた手法で成され ており、今後組換え体の使用範囲が広がった場合にはこれで対応できるかどうかは疑 わしい。そこで、新たな解析手法としてこのDNAアレイ法が使えるかどうかの検討を 行いたいと考える。具体的には生体内での遺伝子発現パターンに大きな影響を与える 事が予想される遺伝子(例えばホメオボックス遺伝子などの転写制御遺伝子)を導入 した時と、比較的影響が小さいと考えられる遺伝子(例えばGFP遺伝子)を導入した 時とでDNAアレイ法による遺伝子発現パターン解析を行う。こうした解析例を積み重 ねることにより方法の妥当性(導入遺伝子の種類により推測される遺伝子発現パター ンの変化の大きさと実際の結果が合致するのか等)を検証したい。