セミナーのトップページへ
生物多様性セミナー 2001年4月

流路系生物地理学の試み-水系内の遺伝的変異から人為的影響を評価する?

高村健二 (生物個体群研究チーム)


 ある河川水系の中で水生生物の種内遺伝的変異が観察されるとしよう。例えば、そ の種が川につながる池に生息している場合、川を通じて池間の移動が可能であれば水 系に沿った池間の距離に応じて遺伝的組成が分化しているのではないかとの推測がで きる。このような池間の距離と遺伝的組成の違いから求められる遺伝的距離を比較し てやれば、池間の移動が単純に距離に応じて起きているか、あるいはそうでなければ 移動に対する障害があるのかという検討が行なえる。このような検討は、水系全体で の水生生物種の存続可能性の検討や水系内での種内変異、ひいては生物多様性の地域 的特色の評価にも役立てうるものである。

 単一水系内での種内遺伝的変異を測定するには、マイクロサテライト遺伝子が好適 な遺伝マーカーとして挙げられる。マイクロサテライト遺伝子は種特異性が高いた め、調査対象生物ごとに探索してやる必要がある。従って、上記調査を進めるため に、まずこの探索作業に取り掛かっている。現在のところ、有力な遺伝子の候補が複 数取り出された状況で、今後遺伝マーカーとしての妥当性を検討していく予定であ る。

 以上のような内容の発表に対してセミナーの場では、遺伝的距離と物理的距離との 差の客観的な検証法が用意されていない、河川水系の中の変異には地史的な要因やそ の他の人為的な要因も絡んでくるので物理的距離との相関という単純な図式では遺伝 的変異形成過程の解明は進まないであろう、同じく調査対象とする生物の移動能力な どの生態情報が必要である、等の批判がなされたので、今後これらの批判へ答える形 で研究を進めたい。