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生物多様性保全・気候変動対策・地域振興を最適化させる自然公園設計:北海道東部・根釧地方における学際的研究と実践(令和 5年度)
Natural park design to optimize biodiversity conservation, climate change mitigation, and regional development: Interdisciplinary research and practice in Konsen district, eastern Hokkaido, Japan

予算区分
環境問題対応型研究
研究課題コード
2325BA101
開始/終了年度
2023~2025年
キーワード(日本語)
生物多様性,気候変動,自然公園
キーワード(英語)
biodiversity,climate change,natural park

研究概要

我が国は生物多様性・生態系の損失を防ぎ回復させるため2030 年までに陸と海の30%以上を保全する「30by30 目標」に取り組んでいる。その達成のために、自然公園面積の拡大や民有地活用による保全管理(OECM)を目指している。また、保護地域間の効果的なネットワーク化による保全効率の向上も求められている。北海道東部の野付半島から風蓮湖、根室半島に至る地域は、湿地、干潟、潟湖や小湖沼群、藻場などの多様な生態系が連続する傑出した景観をもち、亜寒帯気候の南限として我が国ではこの地域のみに分布する動植物種が多数生息する。特に着目される点として、(1)風蓮湖と野付湾には我が国で最大級のアマモ場が残存し、ブルーカーボン生態系保全による気候変動緩和策にも貢献すること、(2) 根室半島の歯舞湿原は国内で唯一確認されたブランケット型湿原として保全の価値が非常に高いこと、が挙げられる。この貴重性・希少性が評価され、「国立・国定公園総点検事業フォローアップ」結果で本地域は新規指定候補地4 箇所の一つに選定され、国定公園指定への地元の気運も高まっている。一方で、国定公園化に向け、従来からある一次産業による土地利用・海域利用との対立に加え、近年では気候変動対策として進められている風力発電所や太陽光発電所の建設と生物多様性保全の相克も問題になっている。そこで本課題は、根室半島を中心とした根釧地方の沿岸域の藻場と陸域の湿地を対象に、自然資源と生態系サービスの多重的な評価を行い、その知見を踏まえた重要生態系の保護地域指定による社会・景観・観光・経済的側面からの評価手法と持続可能な地域発展に寄与する枠組みの開発を行う。これにより、生態系ネットワークを考慮した広域の生物多様性保全を推進するとともに、地域社会ならびに産業とも持続的に調和しかつ地域振興にも寄与する、新しい自然公園の設計のあり方を探ることを、本研究の目的とする。

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:行政支援調査・研究

全体計画

本研究は、沿岸域(藻場)、陸域(湿地)、社会科学担当の3サブテーマが連携して取り組む。沿岸域に関しては、アマモ場、コンブ藻場を主対象に、生物量と炭素吸収量を推定する。また、一次消費者(小型動物)、高次消費者(漁獲対象種を含む)、海洋哺乳類(ラッコ、鰭脚類、鯨類)の時空間変異を解明する(1、2年目)。成果をサブテーマ3で行う社会経済学的評価に供するとともに、生態系モデルを用いた解析結果を踏まえ、(1)気候変動緩和策推進のための藻場保全区、(2)持続的な漁業を進めるための漁区、(3)エコツーリズム振興のための観光活用区を最適化できる海域空間計画の作成法を開発する(3年目)。陸域に関しては、湿地・湖沼群と地形・表層地質を対象に、自然資源の評価を行う。湿原・湖沼・塩性湿地・河畔林を対象に、文献や現地調査により植物相・植生、土壌と水文状況、集水域の土地利用、土地所有状況を明らかにし、さらに特異的な地形・表層地質の地理的分布を野外調査や堆積物の分析等で明らかにする(1、2年目)。この結果およびサブテーマ3の成果も踏まえ、国定公園指定候補地の優先順位を提示するとともに、公園・観光への活用提言を行う(3年目)。保護地域指定の社会的インパクトについて、生態系サービスの社会・景観・観光・経済的側面から評価指標の選定を行う(1年目)。それに基づき、保護地域と周辺域の土地利用変化、保護地域と再生可能エネルギー適地のトレードオフ検証、自然保護地域の管理有効性評価、酪農業・漁業と共生する観光のあり方の検討、産業連関分析を実施する(2年目)。これらの結果にサブテーマ1、2の成果を統合し、地域関係者へのヒアリングでその妥当性を確認するとともに、生物多様性保全の有効性と社会的インパクトの可能性を組み合わせてゾーニング案や管理計画案を作成し、地域関係者とのワークショップにより合意形成を試行する(3年目)。

今年度の研究概要

2023年度は北海道東部の風蓮湖および野付湾を対象に、海草による炭素固定量の推定を行えるような数値モデルの開発を目指す。モデルの計算条件および検証用のデータを現地観測により取得し、他の海域で適用されてきたモデルを改良する。

外部との連携

課題代表者は北海道大学の仲岡雅裕教授

課題代表者

阿部 博哉

  • 気候変動適応センター
    アジア太平洋気候変動適応研究室
  • 研究員
  • 環境科学博士
  • 水産学,生物学
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