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自然共生研究プログラムは、国立環境研究所の8つの戦略的研究プログラムのひとつで、生物多様性領域が中心となって進めています。
本プログラムでは、自然共生社会構築に不可欠な、生物多様性の保全に資する対策および生態系サービスの持続的な利用に関する研究や技術開発に取り組みます。


これらの取り組みにより、生物多様性の主流化および行動変容等の社会変革をうながし、生物多様性の保全と利用の相乗効果による自然資本の向上を目指します。また、生物多様性条約のポスト2020年目標および次期生物多様性国家戦略へ貢献するとともに、地域資源の持続的利用の観点から地域循環共生圏へ貢献します。

自然共生プログラム概要図



PJ1 人口減少社会における持続可能な生態系管理戦略に関する研究

研究の概要

人口減少社会において人間の活動域が縮小する中で、生態系管理の空間デザインも再編を余儀なくされています。本研究では、人間の生活圏である「サト」とそれを取り巻く「ヤマ」の境界域に着目し、局所管理によって鳥獣害や管理放棄による生物多様性の劣化を防ぐための広域評価・管理戦略立案のためのツール群を開発し、生物多様性保全や鳥獣管理の空間的な意思決定支援の枠組みを整備します。成果については、行政機関と連携して保全・鳥獣管理計画にインプットしていきます。

プロジェクト1概要図

研究の目的と達成目標

人口減少社会において持続可能な生態系管理の空間デザインを検討するため、広域データに基づく生態系変動や駆動因の評価手法の開発、および生態系管理効果の評価を行います。それらの成果に基づき、生態系管理における意思決定支援の枠組みを整備します。

3年目までに、野生鳥獣の個体数の広域評価手法および鳥獣捕獲効果の評価法を開発し、各地の事例への適用を行います。5年目までに、人口減少に伴う生物種の減少リスクや景観変化指標を開発し、空間的な評価を可能とするとともに、時空間トレンドや管理効果の評価に基づく生態系管理の意思決定支援ツールを開発し、関係機関との連携を深め、実際の生態系管理への応用を図ります。

研究の内容

人口減少社会の日本においては、人間の活動域が縮小していく中で、鳥獣害や管理放棄による生物多様性の劣化など、生態系管理の問題が深刻化しています。持続的な自然環境と人間社会の関係を維持するためには、人間の生活圏である「サト」とそれを取り巻く「ヤマ」の境界域を中心に、メリハリをつけた局所管理によって、限られた労力を効率的に配分する必要があります。

本プロジェクトでは、そのための最適な生態系管理の空間戦略の立案に向け、省力的な自動観測技術と広域データに基づく生態系変動の評価、およびそれに基づく影響や対策の評価を行い、鳥獣管理や生物多様性保全のための効率的な資源配分などの戦略立案に向けた意思決定支援の枠組みを整備します。これらの取組は、今後、日本に続き人口減少が進行する先進諸国に転用可能なモデルケースになると考えられます。

人口減少下の生態系変動評価

人口減少下で効率的な生態系管理の資源配分を実現する上で、生態系の変動やその駆動因の時間・空間的トレンドを広域で明らかにすることが欠かせません。そこで、野生動物や絶滅危惧植物種、無居住化地域の耕作放棄地等を対象に、人口減少に伴う変化を評価するための指標開発を行います。特に、市民観測データが蓄積されている野生鳥獣については時空間的な構造を考慮した巨大データに対応可能な統計分析手法を開発し、先進的な時空間トレンド分析の枠組みを構築します。また、観測人口の減少をカバーするように、自動観測や遺伝情報に基づく生物個体群の広域評価手法を開発し、人口減少が進行している地域に適用します。また、人口減少に伴う生物種の減少リスクや景観変化を広域・種横断的に行うための指標を開発します。

人口減少下の生態系管理評価

人口減少下での生態系管理を成功に導くためには、単位努力当たりの効果を高めていくことが必要ですが、現状では生態系管理効果の評価手法は未発達です。そこで、Human-wildlife conflict の緩和・耕作放棄地の植生管理・オンライン市民科学などを対象に、人口減少下での持続可能な生態系管理に必要となる効果評価の枠組みを分野横断的に検討します。Human-wildlife conflict の緩和に向けては、野生鳥獣の捕獲効果の評価や人間の生活環境への野生動物の侵入リスク低減効果を評価する手法の開発を行います。また、オンライン市民科学の展開に向けて、市民科学者育成のためのオンライン学習効果の評価等を実施します。第4次中長期計画で確立した無居住化集落調査プロットのフォローアップを実施し動態メカニズムに基づく植生管理効果の評価を行います。

研究担当者

深澤 圭太*久保 雄広小熊 宏之藤田 知弘(気候変動適応センター)、吉岡 明良(福島地域協働研究拠点/当領域兼務)、玉置 雅紀(福島地域協働研究拠点/当領域兼務)、横溝 裕行(環境リスク・健康領域)、岡本 遼太郎、青木 聡志松葉 史紗子小川 結衣 *研究代表者



PJ2 生物多様性および人間社会を脅かす生態学的リスク要因の管理に関する研究

研究の概要

生物多様性および人間社会に対して有害な影響を与える環境リスク要因に関して、以下の研究を行います。

  • 侵略的外来生物の早期発見・早期防除システムの開発および社会的実装、侵入生物データベースの拡充・強化・国際化
  • 新規防除剤(農薬など)の生態リスク評価、リスク評価技術の高度化、政策・法律へのシステム実装、国際的影響評価
  • 人獣共通感染症にかかる情報収集・データベース化、大規模データ分析によるリスク予測、感染症拡大防止策の立案、人獣共通感染症研究拠点の構築

プロジェクト2概要図

研究の目的と達成目標

生物多様性および人間社会に対して有害な影響を与える環境リスク要因として侵略的外来生物、農薬などの合成化合物、および野生生物感染症に焦点を当て、リスクの分析・評価、防除手法の開発、および政策・法律・規制システムへの実装を目指すとともに広く普及啓発を図り、リスクに対する社会的レジリエンスを高めます。

3年目までに、特定外来生物に関して、早期発見システムの実装完備と定着個体群の確実な根絶システムを確立し、国内外でシステム共有を行います。農薬に関して、慢性毒性評価の農薬取締法への実装を行うとともに、ネオニコチノイド農薬の生態影響メカニズムの解明を行います。感染症に関して、国内サーベイランスシステムを構築するとともに、分布拡大メカニズムの解明や防除システムの開発を行います。5年目までに、外来生物に関して、国内・国際連携防除システムの構築を行います。農薬に関して、生物多様性影響の実態解明に基づいて国内外の規制システムの強化を行います。感染症に関して、サーベイランスおよび防除システムを構築し、国際的な発信を行います。

研究の内容

外来種防除

アリをはじめとする非意図的外来生物の防除システムを国際検疫、国内水際検疫、国内防除、根絶確認の各ステップごとに開発し、環境省およびCBDに提供、国際連携強化とアジア対策拠点の構築を進めます。具体的には、日中韓で共通の侵略的外来生物ヒアリ・アルゼンチンアリ・ツマアカスズメバチ・クビアカツヤカミキリ・セアカゴケグモなどについて、分布情報・生態情報を共有し、侵入ルートの解明を行い、移送過程での防除手法・システムについて協議し、実装試験を行います。また、国内の国際港湾においては効果的な検疫手法・モニタリング手法の開発を進め、国内65港湾において定期モニタリング体制を構築します。国内防除では、既に定着・分布拡大が進行しているヒアリ、ツマアカスズメバチをはじめとする特定外来生物に対する有効な防除手法の開発を推進し、定着現場に実装して防除を進めます。防除の際に、地域レベルでのコミュニティにおける外来生物対策リテラシー向上および地域連携体制の強化を進めるための「対話を通した普及啓発」事業も重点的に進めます。さらに、防除効果の定量的評価、根絶確認のための数理モデルの高度化を図り、国内における特定外来生物根絶事例の増強に貢献します。これらの防除研究成果を含めて侵入生物データベースの強化・拡充をはかり、外来生物防除の研究拠点を構築します。

農薬リスク管理

新規殺虫剤をはじめとする生物防除剤の慢性毒性評価、野生ハチ類影響評価、群集影響評価などリスク評価手法の高度化を図り、国内外の規制システム・法律に実装を進めます。具体的には、室内毒性試験・メソコズム試験データに基づき、慢性影響評価の科学的意義を明らかにするとともに、薬剤の種類ごとの急性毒性・慢性毒性の特性を整理し、慢性毒性試験法の開発を行います。ネオニコチノイド農薬による野生ハチ類に対する生態影響に関する国際的データ収集および整理を行い、影響実態の解明を行います。低濃度暴露によるハチ類の免疫機能に対する影響・作用メカニズムを調査し、ハチ類感染症との関係を解明します。地理的スケールでの農薬暴露データと昆虫群集データを収集して、時空間的動態を分析することにより農薬による群集影響評価を進めます。

感染症対策

人獣共通感染症の国内サーベイランスを強化するとともに、国内外における感染症発生・拡大リスクの予測、具体な防除システムの開発を行う。具体的には、現在国内で喫緊の課題とされる鳥インフルエンザ、豚熱、SFTSなどの感染症発生動態についてモニタリング・検査体制を強化して、政府・自治体への情報提供に貢献します。これらの感染症を含め、国内外で発生している感染症の時空間的動態データを収集し、今後の動態予測を図ります。地球レベルでの生物多様性情報と感染症発生情報の統合を行い、土地開発データ、気候変動データ、人口移動データ、貿易(サプライチェーン)データなど環境・生物・社会・経済にかかる多面的パラメータに基づくビッグデータ分析を行い、地域レベル・世界レベルの感染症発生・分布拡大メカニズムを解明するとともに、今後の発生・拡大シナリオを構想します。DNAデータに基づき、宿主-病原体の共進化分析を行い、感染症の進化生態学的メカニズム(病原体の起源はなにか、どのようにホストスィッチが起こるのかなど)を解明し、感染症の生態学アカデミアを発展させます。感染拡大を防ぐ上で必要とされる生物多様性保全策、ゾーニングをはじめとする生息域管理、経済・社会システムの変容など具体な対策・政策を提言します。OIE日本事務局、森林総合研究所、国立感染症研究所、動物衛生研究所、酪農学園大学など人獣共通感染症関連の機関との連携を強化して、対策研究拠点を構築します。

感染症対策概要図

研究担当者

五箇 公一*大沼 学坂本 佳子池上 真木彦坂本 洋典中嶋 信美 *研究代表者



PJ3 環境変動に対する生物・生態系の応答・順化・適応とレジリエンスに関する研究

研究の概要

環境変動に対する生物・生態系の応答・順化・適応メカニズムを、野外調査・操作実験・理論研究により解明し、環境変化に対する生物・生態系の適応可能性を評価します。さらに、環境変化に対する生物・生態系のレジリエンスについて、分子から生態系レベルの時空間スケールに基づいて知見を整理し、生物多様性と生態系機能を考慮した自然共生社会の指針を開発します。

プロジェクト3概要図

研究の目的と達成目標

変動する環境への生物・生態系の多様な応答・順化・適応現象について、生理学的な機構を明らかにするとともに、それらの生態学的な意義を考察し、生物・生態系のレジリエンスを評価します。得られた成果を基に、生物・生態系の環境変化に対する応答評価を行い、変化要因の制御や応答予測の高度化を通じ、自然共生社会の指針作成に科学的根拠を与えます。

3年目までに、実測・観測された応答・順化・適応機構データを基に、生物・生態系のレジリエンスを時空間軸で整理し、動態モデルの構築を行います。5年目までに、構築した動態モデルでのアウトプットを実測・調査データを用いて検証し、変化要因の制御や影響予測の高度化等への応用を図り、環境変化に対する生物・生態系のレジリエンスに基づいた自然共生社会構築の指針に科学的根拠を与えます。

研究の内容

環境変化に対する応答・順化・適応機構

環境変動に対する生物・生態系の反応を、(i) 応答:加えられた環境変化に対して示す直接的な反応、(ii) 順化:生育環境の変化に応答して、数日から数週間のオーダーでおこる個体の生理学的・形態学的性質の変化、および、(iii) 適応:自然選択の結果、生息環境の中で、より高い確率で生き残り、繁殖できるようになる、またはそのような遺伝的な特性を獲得すること、の3つのスケールに分けて、操作実験および野外調査を行い検証します。重点的に対象とする生物・生態系と現象は、①一次生産機能の担い手として重要な維管束植物の、生残・成長・繁殖機構・種子散布機構・他生物との相利共生機構、および、②急激な環境変化により生物種構成の変化が喫緊の課題となっている森林・湿地・沿岸・島嶼生態系としました。

・環境変化が維管束植物の養分獲得機構と一次生産機能に及ぼす影響
・環境変化に伴うストレスが植物の繁殖機構や生残に及ぼす影響
・環境変化が沿岸・湿地・島嶼生態系の生物構成種に及ぼす影響

環境変化に対する生物・生態系のレジリエンス

環境変動に対する応答・順化・適応について、時空間スケールを軸に、生物・生態系の変化を表現する理論動態モデルを構築します。構築した理論動態モデルを利用して生物・生態系のレジリエンスを示すと共に、レジリエンスを規定する因子の特徴を検証します。

・レジリエンスの時空間スケーリングに基いた生態系動態モデルの構築
・群集動態(種多様性)モデルと遺伝的多様性動態を融合した理論研究

研究担当者

井上 智美*青野 光子赤路 康朗安藤 温子石濱 史子角谷 拓竹内 やよい山野 博哉吉田 勝彦大沼 学今藤 夏子上野 隆平熊谷 直喜(気候変動適応センター/当領域兼務)、玉置 雅紀(福島地域協働研究拠点/当領域兼務) *研究代表者



PJ4 生態系の機能を活用した問題解決に関する研究

研究の概要

  • 都市生態系の生態系機能・サービスは、ヒートアイランド効果の緩和、雨水保持機能、生物多様性保全など様々な恩恵をもたらします。一方で、生態系に関わる都市や周辺域の諸問題に対する直接的な解決も期待されていますが、その根拠となる知見やデータは不足しています。本計画では、特に都市生態系の主要な構成要素である都市緑地の空間配置と管理方法の違いが、その生態系機能・サービスにもたらす影響を定量的に解析・評価することで、都市緑地の生態系機能やサービスを効率的に利用した都市計画に資する科学的根拠を提供します。
  • 農業景観が広がる流域では、農業生産の維持と農地から負荷・汚染という大きなトレードオフが生じています。加えて、これらの流域では、未利用地の活用、生物多様性の保全、洪水リスクの軽減等などが課題となっている事例が多くあります。本サブテーマでは、生態系を積極的に活用し、農地からの負荷を削減し、多くのコベネフィットを生む管理を目指します。生態学的な手法を用いて、栄養塩負荷の Input 制御(環境保全型農業などの栄養塩投入量の減少)と Output 制御(湿地や放棄水田等による水質浄化機能)の効果を測定・比較するとともに、それぞれの制御が生み出しうるコベネフィットについて多様な軸で評価を行います。また、社会経済学的なアプローチによって、農地からの負荷を受ける流域末端の湖沼の水質に着目し、水質と住みやすさの関係分析を通じて、農地からの負荷を抑制するインセンティブを明らかにします。
  • 生態系の機能とサービスの評価に基づいて、生態系機能を活用した都市計画や流域・地域管理などの対策の根拠を確立するとともに、生態系を活用した対策を促進します。本サブテーマでは、国内各所の身近な海辺や水辺で得られた生態系機能や生態系サービスに関する地域知を共有し、それらを相互に活用した地域循環共生圏を構築し、将来の気候変動にも対応しうる水辺のインフラ整備等に活用することで地域における自然資本への理解をより深め、その持続性を図ります。

プロジェクト4概要図

研究の目的と達成目標

都市、流域、沿岸等いくつかの対象において、緑地・湿地・干潟等の生態系の機能とサービスの評価及びその空間配置や管理方法に基づき、生態系機能を活用した都市計画や流域・地域管理などの対策の根拠を確立するとともに、生態系を活用した問題解決及びその実装に向けた管理や制度等の検討を行います。

3年目までに、都市地域と農村地域等の各種環境勾配や対比軸を考慮して対象地域を選定し、生態系機能や生態系サービスの評価を行い、生態系の活用策を提案します。5年目までに、環境勾配軸間や地域間の比較を行い、生態系サービスを効率的に機能させることができる生態系の空間配置・管理方針と社会経済学的な対策・制度の提案を行います。

研究の内容

都市生態系の効果的な空間配置と管理法がもたらす生態系サービスの促進

都市緑地と周辺地域において、解析に適した環境勾配を示す対象地を選定します。地域として、つくば市を含む霞ヶ浦周辺、千葉県北総台地などを想定し、各調査地や周辺地域の位置情報や土地利用についてのGISデータを整備し、あわせて管理方針についての情報も調査します。調査地における送粉系や被食―捕食関係を表す生物間ネットワーク構造は、植物とそれを利用する動物、緑地内の池等の水生生物について、現地調査により目視で記録する他、生物体表面や水から採取した環境DNAを解析することで明らかにします。環境勾配として、都市公園から里地・里山、集約的農地から管理放棄地などの軸をとり、同軸内や、異なる軸間で生物ネットワーク構造について、その複雑性や頑健性などを比較します。人間生活の質に対する生態系サービスについては、緑地管理者に対するアンケート調査を実施して得られる緑地の管理方針や利用者情報等の解析を行うことで、人間生活の質に与えるサービス効果が大きい緑地条件を明らかにします。

農地型流域における生態系を活用した栄養塩循環・水循環の改善とコベネフィットの創出

霞ヶ浦・北浦・印旛沼などの流域を対象に研究を展開します。生態学的アプローチについては、慣行農業が盛んな小流域、環境保全型農業等 Input 制御が行われている農地が含まれる小流域、湿地が含まれる小流域において採水を行い、流域スケールで水質(特に、硝酸イオンに注目)を比較します。多地点・複数回の調査によって、異なる気候条件下における効果の違い、Input/Output 制御の効果に影響する要因を解析します。挑戦的な課題として、湧水の年代測定を行い、台地に蓄積する窒素のレガシーを評価できないか検討します。また、Input 制御と Output 制御の効果が高いサイトにおいて、生物調査や物理環境調査などを通じて、特徴的な生態系サービス(コベネフィット)を明らかにします。社会経済学的アプローチについては、湖沼の水質(アオコ)の空間的なバラツキに注目し、水質が住みやすさ(地価等)にどのような影響を及ぼすかについて明らかにします。

里海里湖(さとうみ)生態系における生態系サービスの評価と賑わい形成に関する研究

人口過密地域と過疎地域、オーバーユースとアンダーユースを評価軸として、東京湾周辺と瀬戸内海沿岸を想定しています。当該地域群内の身近な海辺や水辺各地域において、生物多様性や生態系が持つ機能、そこから得られるサービスとしての水質浄化、炭素貯留を想定し、優占生物種群ごとの各機能、サービスの原単位を室内実験から取得します。その成果は当該地域に留まらず、それらを含む地域群に対する評価、さらに異なる地域群間での知見、および技術移転を通じた検証を行い、広域共生圏としての賑わい形成への寄与を評価します。

研究担当者

今藤 夏子*角谷 拓西廣 淳(気候変動適応センター/当領域兼務)、松崎 慎一郎高津 文人(地域環境保全領域)、渡邊 未来(地域環境保全領域)、山口 晴代安藤 温子深谷 肇一岡川 梓(社会システム領域)、矢部 徹 *研究代表者



PJ5 生物多様性の保全と利用の両立および行動変容に向けた統合的研究

研究の概要

本プロジェクトは4つのサブテーマから構成されています。「サブテーマ1」では、保護区・対策実施場所優先順位付けにより、生物多様性の保全と、生態系サービスの利用、また人口減少や気候変動緩和・適応等の社会的課題への対策を両立し、さらに相乗効果を考慮した効果の高い対策の立案・デザインを行います。この研究は特に域内保全を対象とするものです。「サブテーマ2」では、域内保全と細胞保存等の域外保全を統合的に扱うことで保全効果を高めるとともに、One Plan アプローチを実践します。「サブテーマ3」では、自然資源利用や食料生産による生物多様性影響をサプライチェーンも考慮しながら全球スケールで評価します。さらに「サブテーマ4」の保全行動に関する研究により、生物多様性主流化・保全活動の促進に寄与する知見を創出します。

プロジェクト5概要図

研究の目的と達成目標

マルチスケールで生物多様性の保全と利用を両立するための方策(保護区の設定・管理デザイン、域内・域外保全の一体化、トレードオフ・シナジーを考慮した優先順位付け、サプライチェーン評価への生物多様性影響の組み込み、地域資源の持続的活用等)を具体化するとともに、人間心理と行動等に基づく保全活動の促進等、生物多様性保全・利用の社会経済活動への組み込みを促進します。これらに基づいて、生物多様性の主流化及び社会変革をうながし、自然資本の向上に貢献します。

3年目まで:生物多様性保全地域と生態系機能・サービスの統合評価、域内保全策の効果検証、域外保全資源の活用法の具体化、人の行動データによる行動変容解析、資金メカニズム検討
5年目まで:生物多様性保全と他の社会的課題との統合評価、低負荷型の資源調達・食料生産、域内・域外保全の統合的フレームワーク構築、自然資源持続的利用策、資金メカニズム、これらによる生物多様性の主流化及び行動変容促進

研究の内容

以下の4つの統合的アプローチによる研究を行います。
サブテーマ1により、自然共生PJ1~3での影響評価の結果と、PJ4で検討される生態系サービスの利用とを踏まえた、効果的な対策・管理の空間配置(域内保全策)が可能となります。サブテーマ2により、さらに域内保全と域外保全との包括的な保全計画のフレームワークを構築します。サブテーマ3では、サプライチェーン影響評価やフードロスという社会的課題に生物多様性影響評価を組み込むことで、主流化に寄与します。また、国境をまたぐ影響を可視化することで、利益の公平な配分の実現に寄与します。サブテーマ1、2、3は対策の両立・効果向上を図るための手法・フレームですが、サブテーマ4では、これらの対策の実現に向けた人間心理・行動の解明を進め、保全活動の実施促進のための方策や資金メカニズムを見出します。これらの4つのサブテーマにより、生物多様性の主流化を通じた自然資本の向上に寄与します。
これらの研究は、自然共生研究プログラムPJ1~4の成果および基礎基盤で申請中の生物多様性評価研究拠点で整備されたデータを活用して行います。

保護区・対策場所優先順位付けに関する研究

生物多様性の保全と利用の両立のための方策を具体化するためには、生物多様性の保全と生態系サービスの利用、また、生物多様性への様々な危機要因に関する対策間のトレードオフやシナジーを考慮した統合的な解析が必要とされます。このような統合解析として、保護区・対策実施場所の優先順位付けによる解析、手法の高度化・応用・普及を行います。解析の対象には、従前の陸域・沿岸域生態系における絶滅危惧種や重要種の種多様性に加え、沖合域や種内の遺伝的多様性を含める。解析手法の高度化としては、将来の分布予測結果の不確実性を考慮した頑健な優先順位付け手法の開発を行います。応用に関しては、第4期中長期計画において開発した、効率的な保護区・管理の空間デザインツールを、本PGの他PJや適応PG等の関連する他PGの成果に基づく具体的事例に適用します。特に社会的課題の解決との関係性に注目し、再生可能エネルギーの開発拡大と生物多様性保全・生態系サービス利用の両立に関する研究を推進します。さらに、手法の普及のために、すでにウェブ公開済みの上記ツールの機能向上を図った上で、より利用しやすい形式での提供に向けたシステムの開発・試験運用・改良を行います。

統合型保全策(One Plan アプローチ)の実践に関する研究

域外保全と域内保全の一体的取り組みにより、絶滅危惧種の保全効果を革新的に高めることを狙います。保護区設置に代表されるような域内保全と、凍結保存細胞等による域外保全まで含めた、保全に利用可能な資源を漏れなく活用する、包括的な保全計画を立案します。モデルケースとして、ヤンバルクイナにOne plan アプローチを適用します。ヤンバルクイナの域内保全ではマングースによる捕食が主要な脅威となっているため、対策としての捕獲努力の効果を、環境DNAおよびPJ1の鳥獣対策課題で開発された個体数推計手法を応用して検証します。B16また、域外保全においては、タイムカプセル棟での保存事業を基盤として、保存細胞を活用した繁殖成功の向上に関する研究等を実施します。さらに、モデルケースで構築したフレームワークを他種に応用する検討を行います。

資源利用による生物多様性影響の全球評価

消費による第一の危機は、生物多様性への直接的な脅威要因の1つですが、その影響経路は複雑であり、各産業セクターの影響はサプライチェーンを介して間接的に生じるため、可視化され難いです。また、影響経路は国内に留まりません。これらのサプライチェーンにおける生物多様性影響を定量・可視化するための、統合的評価手法を開発します。特に今期で取り組んだ森林資源利用に加えて、食料生産等にともなう影響評価への展開を行います。これらの成果は、生態系を基盤とする資源利用に伴う生物多様性への影響評価、また、生物多様性影響を低減するための資源利用に関する対策や戦略の検討などに活用されます。

保全行動に関する研究

生物多様性の主流化、生態系サービスの維持・促進に向けて、人々の保全に関する募金等の行動解析や観光利用等の評価・予測を行い、人間心理・行動等に基づいた保全活動の促進に向けた知見を提供します。また、環境保全政策等の評価を行うことで、エビデンスに基づいた有効な保全策の策定に寄与します。

研究担当者

石濱 史子*久保 雄広角谷 拓竹内 やよい大沼 学川嶋 貴治(環境リスク・健康領域/当領域兼務)、深澤 圭太五箇 公一井上 智美今藤 夏子河地 正伸山野 博哉山口 臨太郎(社会システム領域) *研究代表者