領域長あいさつ
環境リスク・健康領域長 山本 裕史
われわれの健康で快適な生活(ウェルビーイング)を実現するために新たな機能性の高い化学物質の開発が次々に進められる中で、大量生産・大量消費から少量多品種生産に移行しつつあり、化学物質の汚染の問題の全体像が把握しづらくなってきています。水銀などの重金属、大気中の微粒子、農薬類や界面活性剤などは依然として留意すべき問題ですが、新たにいくつかの大気・水・土壌などの媒体を横断する問題が明らかになってきています。
その例として、
- 1万種を超えるとされるパーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル化合物(通称PFAS)の問題
- 我々が身近に大量消費する各種プラスチックやタイヤ製品およびそれらの由来物の問題
- 殺菌剤・抗菌剤等によって生じる薬剤耐性(通称AMR)の問題
があり、いずれもヒト健康ないし生態系への影響が懸念されています。また、分析機器の発達によって非常に低濃度で多くの化学物質が検出されるようになってきた一方で、それぞれの物質の有害性も多種多様であり、特に内分泌系、神経系、免疫系などの恒常性に関する体内のシステムをかく乱するはたらきを低濃度で示す化学物質が多く存在するものの、動物福祉の観点から動物実験に関する制限も広がりつつあって有害性情報の取得も難しくなっています。こういった状況の中で、国連では化学物質管理の新たな枠組み(Global Framework on Chemicals:GFC)が2023年に採択されたほか、気候変動分野でのIPCC(気候変動に関する政府間パネル)や生物多様性分野でのIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)に続く新たな化学物質、廃棄物及び汚染に関する政府間科学・政策パネル(ISP-CWP)が2025年に設立されるなど、化学物質管理に関して得られた科学的知見を政策に活用することの重要性も高まっています。
こういった諸問題に取り組むため、環境リスク・健康領域では2026年度からスタートする第6期中長期計画において、基礎・基盤的な研究に加えて環境省や国際機関などを通じて社会実装を行う「環境レギュラトリーサイエンス研究センター」を通じて政策対応研究を地域環境保全分野と共同で取り組む「安全確保分野」を展開しています。また、この分野では、動物福祉に配慮した有害性評価手法の確立や未知・未把握・未規制の化学物質の有害性・リスクに着目した「安全確保分野プロジェクト」の一翼を担っています。
また、テーマ横断の研究プログラムとしては、PFASやプラスチック、AMRに取り組む「水・大気・土壌などの媒体を横断する環境汚染に伴う人や生態系への新たな脅威の包括的把握・解決を目指す研究プログラム(略称:媒体横断汚染把握・解決PG)」の中心を担うほか、「自然を活用した解決策(NbS)の実装と展開に向けた研究プログラム」にも参画しています。
さらに、環境標準物質や計測技術の開発で環境研究を支える基盤計測センター、環境省が実施する「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の中核を担うエコチル調査コアセンター、2025年度に厚生労働省から移管して水道水質研究を行う水道水質研究和光分室もこの領域に属しており、一体となって引き続き国民の安全安心やウェルビーイング、生態系の安全確保に繋がる研究を進めます。
研究概要
化学物質等の環境中の有害因子に起因する人の健康の確保と生態系の保全のための調査研究
環境リスク・健康領域では、化学物質等の環境中の有害因子に関し、将来世代を含むヒトの健康及び生態系への影響の解明、有害因子の同定、影響機序の解明、環境中動態の解明、曝露経路の解明、試験法・測定法・予測手法の開発、環境リスクの評価及び管理手法等の人の健康の確保と生態系の保全のための調査研究を行っています。また、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」について、調査の中心機関として総括的な管理・ 運営を行うエコチル調査コアセンターを担っています。
○基盤計測センター
環境研究の基盤となる計測の精度管理のために国際基準に合致した環境標準物質作製、提供するとともに、環境試料の系統的な収集や長期保存を進めています。これに加えて、計測精度の維持・向上のために手法開発を行います。
○エコチル調査コアセンター
「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」について、調査の中心機関として総括的な管理・ 運営を行っています。
○水道水質研究和光分室
安全で快適な水道水質を確保するために、水源から浄水、配水過程、給水栓水の水質分析手法や処理技術、水質管理手法の調査・研究を実施しています。
○環境レギュラトリーサイエンス研究センター
化学物質のリスク評価や管理の高度化に必要となる脆弱な集団や生活史を考慮した有害性手法を開発するとともに、包括的な分析手法や新興化学物質・測定困難物質などの分析手法の開発や環境動態解析や曝露把握などを行う必要があるため、試験法や分析手法、リスク評価手法等の国際および国内標準化(ISO, OECDテストガイドラインなど)や、化学物質、廃棄物及び汚染に関する政府間科学・政策パネル(ISP-CWP)、化学物質に関するグローバル枠組み(GFC), 各種の環境中の化学物質モニタリングならびに分析精度管理などを推進しています。また本センターでは、これらの環境に関するレギュラトリーサイエンス研究の推進・加速化のため、環境省など省庁やOECD/国連などの国際機関、試験実施機関や地方自治体などとの情報交換を実施し、コーディネートを行うプラットホームの構築を進めます。
組織
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生態影響評価研究室化学物質などの環境因子が生物や生態系に及ぼす影響について、閉鎖性内湾などの沿岸生態系や河川におけるフィールド調査、分子・細胞・個体レベルでの室内実験、数理モデルを組み合わせることで評価を行い、そのメカニズムや原因を明らかにする研究を行います。
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曝露影響計測研究室化学物質の環境経由の曝露・影響実態の把握手法及び予測手法の開発を目指して、化学分析による実測、生物検定等による影響の包括的把握とその高度化、物性の測定及び推定法開発に関する研究を行います。
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リスク管理戦略研究室化学物質等のリスク管理および動態や曝露評価に関する研究を行います。具体的には、排出推定、地球・地域規模での環境中での化学物質等の動き、生物への蓄積性、リスク把握に関する研究などを進めます。
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曝露健康影響研究室環境汚染物質の性状測定技術の開発とともに、呼吸・循環・生殖・脳神経系や次世代への影響評価・機序解明を推進します。曝露評価から健康影響までを統合的に解析し、環境有害因子の同定と健康リスクの低減に貢献します。
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病態分子解析研究室環境汚染物質・環境因子が疾患の発症や病態進展に及ぼす影響と、その分子機序の解明に向けた研究を進めています。これにより、有害影響の低減や健康リスク評価に資する科学的知見を提供します。
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曝露動態研究室エクスポゾームやバイオモニタリング、曝露係数・曝露シナリオの定量に関する研究を行っています。特に化学物質曝露後の体内動態に着目して、疫学研究、毒性学研究などと共同し、化学物質の健康影響評価手法について研究します。
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環境疫学研究室環境汚染物質・環境因子が健康へ及ぼす影響を明らかにするための疫学調査・研究を実施し、健康影響評価及び健康被害予防のための政策に資する知見を提供します。また、疫学調査手法を開発・高度化します。
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環境リスク科学研究推進室最新の科学的知見に基づく環境レギュラトリーサイエンスに関する研究を行います。また、環境リスク評価事業の実施、生態毒性試験法の開発、これらに関する国際標準化及び普及啓発などを通じて、リスク科学の環境施策への実装に取り組みます。
基盤計測センター
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環境研究の基盤となる環境標準物質の研究開発、環境試料の系統的な収集や長期保存、計測化学データの精度向上のための手法開発などを行います。
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環境標準研究室環境研究の基盤となる認証環境標準物質を作製、頒布することで、環境計測分野の精度管理に貢献しています。加えて、将来の分析に備えて、環境試料を系統的に収集し、均質化した試料を⻑期保存しています。
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計測化学研究室良質な環境計測データの提供を行うと共に、計測精度の維持・向上のため観測・計測・解析手法の開発や応用を行います。
エコチル調査コアセンター
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「「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」について、調査の中心機関として総括的な管理・ 運営を行います。
水道水質研究和光分室
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安全で快適な水道水質を確保するために、水源から浄水、配水過程、給水栓水の水質分析手法や処理技術、水質管理手法の調査・研究を実施しています。
環境レギュラトリーサイエンス研究センター
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化学物質のリスク評価や管理の高度化に必要となる脆弱な集団や生活史を考慮した有害性手法を開発するとともに、包括的な分析手法や新興化学物質・測定困難物質などの分析手法の開発や環境動態解析や曝露把握などを行う必要があるため、試験法や分析手法、リスク評価手法等の国際および国内標準化(ISO, OECDテストガイドラインなど)や、化学物質、廃棄物及び汚染に関する政府間科学・政策パネル(ISP-CWP)、化学物質に関するグローバル枠組み(GFC), 各種の環境中の化学物質モニタリングならびに分析精度管理などを推進しています。また本センターでは、これらの環境に関するレギュラトリーサイエンス研究の推進・加速化のため、環境省など省庁やOECD/国連などの国際機関、試験実施機関や地方自治体などとの情報交換を実施し、コーディネートを行うプラットホームの構築を進めます。
研究者紹介
新着情報
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報道発表研究成果パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて 2℃を十分に下回り、1.5℃に抑える努力を追求するという長期目標が掲げられています。これを受け、先進国のみならず、途上国を含めた多くの国が今世紀半ばまでに 「ネットゼロ排出(カーボンニュートラル)」を達成する目標を表明しています。
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報道発表エコチル調査(用語解説※1)愛知ユニットセンター(名古屋市立大学)産科婦人科学の杉浦真弓教授らの研究チームは、同調査に参加する妊婦4,523人のデータを用いて妊娠中のビスフェノール(以下、BP)類(※2)へのばく露(※3)と妊娠経過、新生児体重および先天異常との関係について解析しました。
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報道発表過去の公害や環境汚染地域の研究が示すとおり、カドミウムや水銀などの重金属(注1)を体内に多量に取り込むことで深刻な健康障害が生じます。環境汚染対策が進んだ現代では、一般住民が高濃度の重金属にばく露(注2)される機会はまれですが、食事や飲料水などを通じて、低濃度ながら重金属にばく露されています。動物実験では、カドミウム、水銀、鉛、ヒ素などへのばく露により、たとえ低濃度であっても糖代謝異常を引き起こすことが報告されており、ヒトにおいても、これらの重金属への低濃度ばく露に伴う2型糖尿病(注3)のリスク増大が懸念されます。
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報道発表国立研究開発法人国立環境研究所と環境省は、令和8(2026)年2月25日(水)に「生態影響に関する化学物質審査規制/試験法セミナー」をWEBセミナー形式で開催します。
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報道発表東京大学大学院農学生命研究科の都築洋一助教と、国立環境研究所環境リスク・健康領域の横溝裕行主幹研究員は、化学物質が生態系に与える影響を評価するために用いられている「生態毒性試験」の有効性を検証し、その課題を明らかにしました。
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報道発表愛知ユニットセンター(名古屋市立大学)の大学院生Joselyn Dionisio氏、伊藤由起准教授、上島通浩教授らの研究チームは、エコチル調査にご協力いただいた妊婦のうち約23,600人のデータを用いて、妊娠前期の母親の8種類の血中有機フッ素化合物(PFAS)※1濃度と14種類の妊娠・出産時の様々な事象※2の関連について解析しました。
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報道発表国立成育医療研究センター エコチル調査メディカルサポートセンター チームリーダーの目澤秀俊らの研究チームは、エコチル調査詳細調査の約4,500人を対象に、妊婦の血中PFAS(※1)濃度と生まれた子どもの2歳、4歳時点の発達との関連について解析しました。
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報道発表エコチル調査千葉ユニットセンター(千葉大学予防医学センター)山本緑講師らの研究チームは、エコチル調査の約23,000組の親子のデータを用いて、母親の妊娠中の血中有機フッ素化合物(PFAS※1)濃度と、生まれた子どもの4歳までの体重、身長、BMIの成長パターンとの関連について解析しました。
研究成果
刊行物
環境儀
国立環境研究所ニュース(テーマ別記事)
国立環境研究所研究プロジェクト報告(旧特別研究報告)
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SR-144-2024
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SR-131-2017
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SR-130-2017
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SR-126-2017
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SR-123-2017
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SR-119-2016
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SR-114-2016
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SR-102-2012
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SR-101-2012
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SR-98-2011
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SR-84-2008
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SR-76-2006
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SR-72-2006
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SR-64-2005
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SR-61-2003
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SR-37-2001
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SR-35-2001
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SR-28-'99
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SR-25-'98
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SR-4-'90
国立環境研究所研究報告
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R-172-2002
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R-144-'99
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R-133-'94
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R-130-'93
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R-124-'89
データベース/ツール
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化学物質安全情報提供システムや環境省公表資料等に記載されている化学物質のリスク関連情報や分析法などを様々な方法で検索できるシステム(旧WebKis-Plusと旧EnvMethodを集約してリニューアル)
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簡易的な多媒体分布予測モデルを内臓した環境リスク評価統合アセスメントプログラム、地理情報を表示するためのファイルを作成する可視化ツール、化学物質排出量の推定および地理配分計算を実施するための排出推定ツール
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オランダの国立公衆衛生・環境保護研究所(RIVM)の化学物質評価グループが開発したUSES(UniformSystemfortheEvaluationofSubstances)を基にして開発した環境リスクの統合アセスメントプログラム
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環境中に放出された化学物質の大気・水・土壌・底質など媒体間での輸送や分配と地点間移動を同時に推定するモデル
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生態毒性QSAR(定量的構造活性相関)モデルを用いた毒性予測システム。化学物質の構造に関する情報を入力することにより、魚類、ミジンコ、藻類の急性毒性と慢性毒性を予測する。
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化学物質の生態系への影響を、藻類、ミジンコ、魚類の3栄養段階の生態毒性データをもとに、種間相互作用等を組み込んだ生態学モデル(水系3栄養段階生態リスク評価モデル A-TERAM)によって推定するリスク評価システム
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これまでに設定された環境基準やそれに準ずる指針値が、どのような根拠に基づいて決められたのかに関する資料を一元的に集めた資料集
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災害・事故が原因で環境中に排出された化学物質への対応を支援するためのウェブサイト