出生体重の低下を起こさない妊婦の血中カドミウム濃度の検討: 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

 国立環境研究所エコチル調査コアセンターのスワンナリン・ニーラヌッチ特別研究員、中山祥嗣次長らは、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の対象者のうち80,669組の母子のデータを用いて、生まれてくる子どもの体重(出生体重)に影響をおよぼさない妊婦の血中カドミウム濃度を検討しました。出生体重に対する影響の目安を、低出生体重※1児の割合が5%増えることとして解析しました。その結果、低出生体重児の割合が5%以上増えない妊婦の血中カドミウム濃度は4.29µg/Lでした。食品安全委員会の設定する耐容週間摂取量※2である7μg/kg体重/週に相当する血中濃度を計算したところ(日本人の研究をもとに換算)、3.13µg/Lであり、本研究で検討した値(4.29µg/L)より低いことから、食品安全委員会の耐容週間摂取量はより安全側に立った基準であることが分かりました。ただし、今回計算した値は妊婦に対するもので、一般の方に当てはめられるものではありません。
 本研究の成果は、令和7年12月30日付でElsevierから刊行された学術誌『Environmental International』に掲載されました。
※記載内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。本研究に関する補足説明資料を作成しました。以下の国立環境研究所HPも併せて確認ください。
URL:https://www.nies.go.jp/pr/news-and-updates/2026/whatsnew20260407QA.pdf

1.発表のポイント

  • 80,669組の母子のデータを用いて、出生体重の低下を起こさないような妊婦の血中カドミウム濃度を調べました。
  • 出生体重の低下の目安は、低出生体重児の割合が5%増加することとしました。この目安とした理由は、他のさまざまな疾患の予防の観点でも採用されているからです。
  • エコチル調査の参加者のデータから、低出生体重児の割合が5%増加することは、平均出生体重が100g減少することに相当しました。
  • これらの想定を用いて、低出生体重児の割合が5%以上増加しない妊娠中血中カドミウム濃度を計算したところ、4.29µg/Lとなりました。
  • 食品安全委員会の設定する耐容週間摂取量である7μg/kg体重/週に相当する血中濃度を計算すると3.13µg/Lになり、食品安全委員会の設定する耐容週間摂取量は、4.29µg/Lより低く、より安全側の基準であることが分かりました。

2.研究の背景

エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、環境省が平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子(妊娠中の母親、生まれた子ども)を対象として開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査(同じ集団を長期間観察する調査)です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしています。

エコチル調査は、国立環境研究所にデータや研究を取りまとめるコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを設置しています。また、全国各地から参加した約10万組の親子の追跡調査を行う拠点として、公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と協働して調査のフォローアップを続けています。

妊婦のカドミウムばく露は、低出生体重を含むさまざまな妊娠・出産時の異常と関連しており、これは日本を含め世界中で重要な公衆衛生の課題となっています。低出生体重は、子どもの健康に対して短期的・長期的な影響を与えることが知られており、発達の遅れ、代謝性疾患、将来的な心血管疾患のリスク増加などとの関連が報告されています。

現在、一般の人々における血中カドミウム濃度の健康影響に基づく指標値(HBGV)はいくつか存在しています。しかし、これらの指針は妊娠のカドミウムばく露によるリスクを特に考慮したものではありません。妊娠中のカドミウムばく露が有害な妊娠転帰と関連していることを踏まえ、母体と子の健康を守るために、本研究では、ベンチマークドーズ法※3を用いて、妊婦の血中カドミウム濃度のベンチマーク用量※4を算出しました。特に低出生体重に焦点を当て、妊婦の血中カドミウム濃度と生まれた子の出生体重の用量反応関係※5をもとにベンチマーク用量を算出しました。

3.研究内容と成果

エコチル調査の参加者のうち、母体の血中カドミウム濃度、出生状況、出生体重などのデータがそろっている母子80,669組を解析対象としました。

本研究では、ベンチマーク応答※6を低出生体重児の割合が5%増加することとしました。これは、平均出生体重が100g減少することに相当することから、この値(100g減少)を解析に使用しました。

出生体重が平均で100g減少するというベンチマーク応答に基づき、妊婦の血中カドミウム濃度におけるベンチマーク用量を算出しました。その結果、ベンチマーク用量の95%信用区間下限値※7は4.29µg/Lと算出されました。食品安全委員会が設定するカドミウムの耐容週間摂取量は7μg/kg体重/週です。過去の日本人に対する研究結果をもとに、対応する血中カドミウム濃度を算出すると3.13μg/Lとなりました。今回算出されたベンチマーク用量はこれより高い値であり、食品安全委員会の耐容週間摂取量の方がより安全側の基準でした。

4.今後の展開

今回の研究の主な限界は、以下の3つです。一つ目は、妊婦の血中カドミウム濃度は、母親から1回だけ採取した血液で測定されており、同一参加者に対する繰り返し測定は行われていません。二つ目は、妊娠中の生理的変化が血中カドミウム濃度に影響を与える可能性がありますが、その点は考慮されていません。三つ目は、母体のカドミウムばく露に関連する有害な影響として低出生体重のみを対象としました。今後は、その他の影響(妊娠期間の短縮や早産、胎児発育制限、子かん前症、先天異常、神経発達障害など)も考慮した上で、妊婦を対象とした健康基準値の確立に貢献する研究を行う予定です。

5.用語解説

※1低出生体重:生まれてきた子どもの体重が2,500g未満のことをいいます。低出生体重の子どもは体の機能が十分に成熟していないまま生まれてくることが多く、出生体重が少ないほど重篤な障害を起こすリスクが高くなるとされています。

※2耐容週間摂取量:食品の消費に伴い摂取される汚染物質に対して人が許容できる一週間当たりの摂取量。

※3 ベンチマークドーズ法:化学物質のばく露量と健康影響の発生頻度との関係を、数理モデルを使って特定の頻度の健康影響(ベンチマーク反応)が発生するばく露量(ベンチマーク用量)を算出する方法です。

※4ベンチマーク用量:あらかじめ定義された変化量(ベンチマーク応答)を引き起こす用量または濃度のこと。

※5用量反応関係:ある物質とそれが与えられたときの生体の反応との間にみられる関係。

※6ベンチマーク応答:あらかじめ定義された健康影響の量。

※795%信用区間下限値:計算した結果が95%の確率で含まれている区間のうち、最も小さな値。

6.論文情報

題名(英語):A benchmark dose analysis of the blood cadmium concentration in pregnant women using the Japan Environment and Children’s Study data

著者名(英語):Neeranuch Suwannarin1, Yukiko Nishihama1,2, Tomohiko Isobe1, Hitomi Okubo1,3, Shoji F. Nakayama1, the Japan Environment and Children’s Study Group4

1スワンナリン・ニーラヌッチ、西浜柚季子、磯部友彦、大久保公美、中山祥祠:国立研究開発法人 国立環境研究所
2西浜柚季子:筑波大学 医学医療系 生命医科学域 小児環境医学
3大久保公美:東京大学大学院医学系研究科 栄養疫学・行動栄養学
4グループ:エコチル調査運営委員⻑(研究代表者)、コアセンター⻑、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成

掲載誌:Environmental International
DOI: 10.1016/j.envint.2025.110041

7.発表者

国立環境研究所
環境リスク・健康領域
エコチル調査コアセンター次長
中山祥嗣

8.問い合わせ先

国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
次長 中山祥祠
E-mail: jecs-pr(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

国立研究開発法人国立環境研究所
企画部広報対話室
E-mail: kouhou0 (末尾に@nies.go.jp をつけてください)