野生山菜コシアブラの新芽、なぜ放射性セシウムが高い?
—浅い根と春の体内移動が原因—

国立環境研究所の研究チームは、野生山菜であるコシアブラの新芽において、放射性セシウム濃度が高くなる原因を明らかにしました。本研究ではまず、コシアブラの若木が浅い土壌層に根を張り、この層に多く蓄積している放射性セシウムを養分とともに吸収しやすいことを示しました。さらに、樹体内に存在する放射性セシウムが、春の芽吹きの時期に可食部である新芽や若葉へ集中的に移動することを示しました。これらの知見は今後、野生山菜の利用や放射性セシウム対策の検討に役立つことが期待されます。本研究の成果は2つの論文として、それぞれ2026年1月と4月に、日本森林学会が刊行する学術誌『Journal of Forest Research』のオンライン版に掲載されました。

野生山菜であるコシアブラの新芽において、放射性セシウム濃度が高くなる原因の図

1. 研究の背景と目的

福島第一原発事故以後、山林で採れる野生山菜は、放射性セシウム濃度が高いために広い範囲で出荷制限が続いており、地域の食文化にも影響を与えています。なかでも、コシアブラは他の野生山菜より放射性セシウム濃度が高いことが知られていますが、なぜ高濃度になるのか、その仕組みは十分には解明されていませんでした。本研究では、コシアブラにおける放射性セシウムの吸収経路と樹体内での移動に着目し、土壌からの取り込みと可食部である新芽への集積の仕組みを明らかにすることを目的としました。

2. 研究手法

本研究では、コシアブラにおける放射性セシウムの動きを明らかにするため、複数の手法を組み合わせた解析を行いました。まず、根の分布を把握するために掘り取り調査(注1)を行うとともに、土壌から回収した植物の根の環境DNA(注2)を分析して、コシアブラの根がどの深さに多いのかを推定しました。さらに、ストロンチウム同位体比(注3)を用いて、養分を吸収している土壌の深さを評価しました。また、セシウム同位体比(注4)を用いた二成分混合モデル(注5)により、新芽中の放射性セシウムについて、前年の秋から根を通じて土壌から新たに吸収されたものと、前年秋までに樹体内に蓄えられていたものが移動したものの割合を定量的に解析しました。

3. 研究結果と考察

その結果、コシアブラの若木は深さ0〜5 cmの浅い土壌層に根を集中させ、この層から養分を吸収していることが明らかになりました。この浅い層には放射性セシウムが多く蓄積しており、これが高濃度化の一因と考えられます。また、セシウム同位体比の解析から、新芽中の放射性セシウムの90%以上は、前年秋から春にかけて根を通じて土壌から新たに吸収されたものではなく、過去に吸収され樹体内に蓄積されたセシウムが、春の芽吹き期に再分配により移動してきたものと分かりました。これらの結果から、浅い土壌層からの経根吸収と、春季の新芽への集中的な移動が組み合わさることで、コシアブラ新芽の放射性セシウム濃度が高くなると考えられます。この結果は、根からの吸収に関わる土壌環境だけでなく、樹体内の再分配という植物の生理的特性も、野生山菜における放射性セシウムの動きにとって重要であることを示しています。

4. 今後の展望

今後、コシアブラの利用再開を目指すには、可食部の放射性セシウム濃度を下げることが必要です。例えば、土壌管理によって放射性セシウムの根からの吸収量を減らす対策が考えられますが、その場合も、高濃度化の主な原因である内部転流による集積は起きるため、対策の効果は丁寧に検証する必要があります。また、短期的な効果が得られない可能性もあるため、土壌管理の視点だけでなく、調理や加工による低減技術の検討も必要と考えられます。これらは、コシアブラ以外の野生山菜についても同様です。本研究で得られた知見を活用することは、安全に野生山菜を利用すること、さらには地域の食文化を守ることにつながると期待されます。

5. 注釈

実験方法について、本研究での使い方に合わせて解説します。

注1)掘り取り調査:コシアブラの若木を掘り起こしながら、根の深さ分布を調べる方法です。本研究で用いたコシアブラの若木は、10cmより浅い土壌層に根の90%が分布していました。

注2)環境DNA:環境試料に含まれるDNAを分析して、生き物の種類や量を推定する方法です。本研究では、植物全体の根のなかからコシアブラの根を区別するために使いました。

注3)ストロンチウム同位体比:植物に含まれる養分の移動や供給源を追跡する指標のひとつです。本研究では、土壌のどの深さからコシアブラが養分吸収をしているかを推定するために使いました。

注4)セシウム同位体比:植物に含まれる放射性セシウムの供給源を推定する方法のひとつです。本研究では、根からの吸収と樹体内からの移動を区別するために使いました。

注5)二成分混合モデル:二つの成分が混ざった混合物について、各成分が占める割合を求める方法です。本研究では、新芽の放射性セシウムについて、根から新たに吸収された成分と樹体内から移動した成分が占める割合を求めました。

6. 研究助成

本研究はJSPS科研費(22K03741)および福島国際研究教育機構による受託研究(JPFR23050301)の支援を受けて実施しました。

7. 発表論文

【タイトル】
Estimation of the soil depth at which 137Cs is taken up by roots of Eleutherococcus sciadophylloides (koshiabura), an edible wild tree species
【著者】
Koshikawa MK, Watanabe M, Tamaoki M, Takagi M, Sakai M, Takechi S, Takahashi A, Tanaka A, Shin KC, Hayashi S
【掲載誌】Journal of Forest Research
【URL】https://doi.org/10.1080/13416979.2025.2610569(外部サイトに接続します)
【DOI】10.1080/13416979.2025.2610569(外部サイトに接続します)

【タイトル】
Cs isotopic two-source mixing model reveals significant internal 137Cs translocation to the buds of Eleutherococcus sciadophylloides (Koshiabura)
【著者】
Watanabe M, Koshikawa MK, Kurikami H, Tamaoki M, Takagi M, Sakai M, Takechi S, Takahashi A, Hayashi S
【掲載誌】Journal of Forest Research
【URL】https://doi.org/10.1080/13416979.2026.2652637(外部サイトに接続します)
【DOI】10.1080/13416979.2026.2652637(外部サイトに接続します)

8. 発表者

本報道発表の発表者は以下のとおりです。

国立環境研究所
地域環境保全領域 土壌環境研究室
主任研究員
渡邊未来
主幹研究員
越川昌美
生物多様性領域
領域長
玉置雅紀
リスク・健康領域 曝露動態研究室
主任研究員
高木麻衣
福島地域協働研究拠点
研究グループ長
林誠二
福島地域協働研究拠点 環境影響評価研究室
主任研究員
境優

9. 問合せ先

【研究に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 地域環境保全領域
土壌環境研究室 主任研究員 渡邊未来

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報対話室
kouhou0(末尾に“@nies.go.jp”をつけてください)