廃棄物埋立処分に起因する有害物質暴露量の評価手法に関する研究
平成6〜9年度

国立環境研究所特別研究報告 SR-28-'99

1.はじめに

表紙
SR-28-'99 [2.5MB]

 焼却施設からの焼却残渣やプラスチック廃棄物など、焼却による減量化、プラスチック容器などのリサイクル率の向上などの努力にもかかわらず生じてくる廃棄物は、最終的には埋立処分せざるを得ない状況が存在する。しかし、埋立処分場から発生する浸出水・漏出水による周辺の水質汚染や、そこに含まれる有害物質による人や生態系への影響が懸念されるなど、埋立処分場をめぐっては、様々な社会的な混乱が生じている。

 上水道の水質基準や水質、土壌や大気に係わる環境基準の改訂に伴い、化学物質による環境汚染についての対策がとられ始めたが、埋立処分場の浸出水中に含まれる化合物の実体やその毒性については、ほとんど調査研究がなされていない。同様に、埋立処分地から発生する有害な揮発性成分による大気を経由した環境汚染に関しても、情報がほとんど欠如しているのが実状である。このため、廃棄物の埋立処分に伴う有害物質の環境に対する負荷を明らかにし、そのリスクを評価するための新らたな知見を提示する必要がある。

 本特別研究では、有害物質の人や環境に対する影響を評価する上で不可欠な化学物質の環境濃度を測定するために、物理・化学的分離分析手法の開発や適応の拡大をはかり、埋立処分地から浸出する水を経由した環境への負荷、有害性のある揮発性成分の大気を経由した環境に対する負荷、及びその影響を評価するための調査研究を行った。また、化学物質の個別分析では見過ごしている有害物質をモニタリングするために、簡便なバイオアッセイ法の開発を目指した。

2.研究の概要

(1)埋立地に由来する汚染物質の検出法及び特定法の高度化

1)浸出水中の汚染物質などの捕捉・同定率の向上

 浸出水に含まれる有害化学物質として、廃棄物中に含まれる化学物質だけではなく、埋立処理に伴い生成する物質などを対象とした。このため、できるだけ多くの物質が測定できるように、新たな測定法の開発を行うとともに、実際の浸出水の分析にこれを応用し、埋立処分場の浸出水中に含まれる成分の特徴を検討した。

 試料の採取や分析にあたっては、地方自治体の研究機関との間で、「埋立地浸出水共同分析プログラム」を立ち上げ、多くの機関で同じ試料を共有し、情報交換しながら分析を進める体制を整えた。400種類以上の化合物を対象に分析を進めた結果、浸出水中の化学物質で濃度の高い物質は、1)低分子の脂肪酸、2)ビスフェノールAを含むフェノール類、3)リン酸エステル類、4)フタル酸エステル類、5)芳香族アミン類、6)ジオキサンなどであることがわかった。埋立地で微生物作用により生成する脂肪酸等を除くと、検出される化学物質の多くは可塑剤などに使用される化学物質であり、これらはプラスチックの埋立てに由来すると考えられた。

2)埋立地から発生する揮発性物質に関する研究

 処分場から発生するガス中の揮発性物質のうち、揮発性有機化合物(VOC)および水銀の測定法を開発し、埋立処分場から発生する揮発成分の特徴を検討した。大気環境基準のあるトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、およびベンゼンで観測された最高濃度は、それぞれ676μg/m3(大気環境基準値:200μg/m3)、198μg/m3(200μg/m3)、および12,300μg/m3(3μg/m3)であり、ベンゼン濃度が高い場合があった。しかし、環境への負荷量は、トリクロロエチレン(1.3kg/年・処分場)、テトラクロロエチレン(0.4kg/年・処分場)、ベンゼン(20kg/年・処分場)程度にしかならず、非常に小さいことがわかった。また、周辺大気中濃度(数ng/m3)と比較すると、埋立地から発生する水銀濃度は1桁ほど高いことが判った。

3)廃棄物汚染の指標となる物質群に関する研究

 埋立処分に起因する汚染の指標となりえる物質があるかどうか検討するため、浸出水中の濃度が高かったホウ素とジオキサンを対象に、実測値の統計的解析を行った。

 相関分析と重回帰分析の結果から、浸出水中ホウ素濃度の変動は他の成分によって説明できず、ホウ素は他の成分と関連を持たずに独自に挙動していることが示唆された。埋立物を、不燃物、焼却灰、石炭灰・鉱滓、産業廃棄物の4つに分類すると、浸出水中ホウ素濃度は、焼却灰を埋立てた処分場で有意に低く、石炭灰・鉱滓を埋立てた処分場で有意に高かった。廃棄物の埋立ての「ある」「なし」を、それぞれ1、0を与えたところ、

In(ホウ素濃度)=0.891*×(石炭灰・鉱滓)+0.212×(焼却灰)- 0.166 R2=0.664

となった。(*は有意な係数であることを示す)

 焼却灰の係数が正であること、つまり石炭灰・鉱滓の影響を取り除くと、焼却灰を埋立てた処分場からの浸出水の方が高いホウ素濃度になるという結果となった。

 同様に、浸出水中ジオキサン濃度の対数値を従属変数とする重回帰分析の結果は以下の通りであった。

In(ジオキサン濃度)=0.513*×(不燃物)+0.423*×(産業廃棄物)−0.248×(焼却灰)+6.221 R2=0.454

 有意な変数として不燃物、産業廃棄物のある・なしが、正の係数で選択され、これらの廃棄物が埋立てられていると浸出水中のジオキサン濃度が高くなることが示唆された。

(2)埋立処分に係わる有害物質暴露量評価手法に関する研究

1)溶出試験による暴露量評価手法に関する研究

 ビスフェノールAや無機塩類が、どのような廃棄物からどのような条件で溶出するのかについて溶出試験によって検討した。ビスフェノールAは、樹脂の原料としても使用されるが、ポリカーボネート製品である食品保存容器やCD-ROM、フェノール樹脂製品であるプリント基板では、溶出量は低かった。一方、塩化ビニル製品の安定剤や酸化防止剤として使用されることがあり、そうした用途で使用されたもの(合成皮革、電源コードの被覆など)から高濃度の溶出が見られた。4-t-ブチルフェノールの含有量はポリカーボネート製品で多いことがわかった。これは、4-t-ブチルフェノールが重合調節剤として使用されるためと考えられた。

 日本の降水の平均的なpHに調整した水を用い、ガラス廃棄物からのホウ素の溶出量を検討した。ガラス片からのホウ素の溶出は0.1ppm程度であり、ガラス廃棄物からの溶出のみでは埋立地浸出水中に高濃度で検出されるホウ素の起源を説明できないと考えられた。

2)毒性物質の検索手法に関する研究

 ある安定型処分場で採取した浸出水を用い、新たに開発した遺伝毒性試験GABBを、実際に毒性物質の検索へ適用した。毒性を示した画分からは、通常のGC/MSを用いる一括分析では測定していない高沸点領域で物質に由来すると考えられるGC/MSスペクトルが得られた。機器分析から還元を受けやすい構造を持った塩基性芳香族化合物であると推定された。GABBと機器分析を併用した遺伝毒性物質の検索手法が浸出水の実試料に対しても有効であることが示された。

3)暴露量評価手法に関する研究

 数種類の形態の異なる埋立処分地を対象として、ダイオキシン類の埋立処分場における実体の調査を行い、浸出水経由及び大気経由の放出量を評価した。また、廃棄物埋立処分場の浸出水の分析を行い、埋立処分に起因するダイオキシン類の特徴について考察した。

 都市域にある比較的よく管理された一般廃棄物処分場および産業廃棄物処分場で、発生ガス中のダイオキシン濃度は、それぞれ0.018pgTEQ/m3(1.4pg/m3)、および0.12pgTEQ/m3(13.1pg/m3)であった。この濃度は、この地域での周辺大気中濃度のダイオキシン濃度0.5〜1pgTEQ/m3や大都市域や中小都市の大気中ダイオキシン濃度(平成6年度:0.01〜0.6pgTEQ/m3)より低い値であった。埋立処分地からガス状で負荷される大気経由でのダイオキシン類は極めて少ないと思われた。

 埋立処分場からのダイオキシン類の浸出水経由での環境への負荷の最大値を大まかに推定するために、調査した中で処分場の規模が最も大きいうえ、浸出水のダイオキシン類が最高濃度を示した処分場をモデルに推定を試みた。日本全体を対象にすると、焼却灰の年間埋立量は600万トンであるので、浸出水への溶出量は0.4gTEQ/年、処理水では60%削減するとして0.16gTEQ/年と推定できた。ダイオキシン類の一般廃棄物処分場から水系への負荷は、自動車排ガス(0.07gTEQ/年)からの負荷よりは多く、晒クラフトパルプ漂白工程(0.7gTEQ/年)からの負荷よりは少ない程度と考えられた。

(3)モニタリング手法の開発

 個別分析では対応できない有害物質をモニタリング手法としてバイオアッセイ法の開発を行い、新たなモニタリング手法の開発を行った。精度管理された正確なデータ取得ができるように、埋立処分場に関する標準試料の作成を試みた。

 浸出水の一般毒性(細胞毒性)と遺伝毒性(変異原性を含む)を評価するために、微生物及び培養細胞の複数のバイオアッセイ系を用いた。一般毒性は、発光細菌の発光量抑制を指標としたマイクロトックス試験及びほ乳類由来培養細胞の増殖抑制作用を指標とした細胞毒性試験により検討した。遺伝毒性は、エームス試験、発光細菌を用いた遺伝毒性試験法、および姉妹染色分体交換(SCE)試験により検討を試みた。一般毒性では、マイクロトックス試験によるIC50値と培養細胞増殖抑制試験によるIC20値はおおむね相関したが、感度はマイクロトックス試験が高いことが明らかとなった。遺伝毒性では、エームス試験ではTA100とTA98の両菌株での判定では浸出水10例中5例が陽性であり、ニトロ化合物や芳香族アミン類に感受性が高いとされるYG株4株を用いた場合には、10例中8例が陽性であった。SCE試験では浸出水10例中6例が陽性と判定され、発光細菌遺伝毒性試験(GABB)では10例中9例が陽性と判定された。もっとも感受性の高い遺伝毒性試験法はGABBであり、エームス試験のTA100とTA98の両菌株のみによる試験結果とSCE試験による試験結果は同程度であった。なお、試験手法の簡便さ、コスト等を考慮すると浸出水など環境水の毒性モニタリングには、マイクロトックス試験とGABBの両試験法を用いることが有効であることが示唆された。

 測定精度管理のための標準試料として、管理型埋立地の覆土などを原材料とした「埋立地汚染土壌」No.1と「埋立地汚染土壌」No.2を作成し、これら試料の無機元素の濃度を評価した。

3. 今後の検討課題

 本研究によって、埋立処分に起因する有害化学物質の排出状況がある程度明らかになった。今回の研究成果を実際の現場で応用可能な技術にしていくためには、いくつかの研究サイトで実証試験を継続して行う必要がある。廃棄物中に含まれている有害物質の実態についてはあまり検討することが出来なかったが、廃棄物に含まれる有害化学物質の簡便な分析法を開発して、廃棄物中の有害化学物質と浸出水中の有害化学物質との因果関係を明らかにすることにより、埋立処分に起因する有害化学物質の挙動、分解や生成の機構を解明することが必要であろう。さらに次のステップとして、埋立処分場から発生する浸出水・漏出水による周辺の水質汚染や、そこに含まれる有害物質による人や生物への影響評価にとどまらず、廃棄物埋立処分の総合的な環境影響評価システムを作りあげるような研究に発展させる必要があると思われる。

〔担当者連絡先〕
国立環境研究所
化学環境部計測管理研究室
白石寛明
(Tel 0298-50-2455)


表1 浸出水中で、検出頻度と中央濃度値が高かった化合物

化合物名 1994年度 1995年度 プラスチック添加物
検出率(%) 中央濃度値(ng/L) 検出率(%) 中央濃度値(ng/L)
アニリン 100 113 90.9 1150
トルイジン 87.5 124 90.9 696
N-メチルアニリン 75 6 63.6 141
N-エチルアニリン 7.5 14 72.7 106
ジフェニルアミン 37.5 10 54.5 433
2-クロロアニリン 100 38 72.7 747
3-、4-クロロアニリン ND 54.5 298
リン酸トリエチル 87.5 42 90.9 930 ○
リン酸トリス(2-クロロエチル) 100 343 100 240 ○
リン酸トリス(2-クロロプロピル) 87.5 603 100 3940 ○
リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル) 100 99 81.8 600 ○
リン酸トリブチル 50 86 90.9 245 ○
リン酸トリス(2-ブトキシエチル) 100 260 90.9 1100 ○
リン酸トリフェニル 75 2 54.5 69 ○
リン酸トリクレジル ND 63.6 500 ○
ナフタレン 87.5 33 81.8 300
1-メチルナフタレン 100 61.3 72.7 65
2-メチルナフタレン 100 101 36.4 6
アセナフテン 87.5 3 54.5 60
ベンゾチアゾール 100 83.6 81.8 152 ○
1,4-ジオキサン 87.5 3900 90.9 31700
カフェイン 87.5 517 45.5 307
p-ジクロロベンゼン 62.5 51.5 81.8 40
フェノール 75 140 72.7 82
o-クレゾール 75 69.6 ND
m-、p-クレゾール 62.5 430 ND
p-t-ブチルフェノール 100 69.5 81.8 1800 ○
ビスフェノールA 62.5 350 63.6 61400 ○
2,6-ジ-t-ブチル-1,4-ベンゾキノン 87.5 216 72.7 1310
シクロヘキサノン 37.5 259 81.8 369
アセトフェノン 75 123 72.7 376
ベンゾフェノン 75 24 90.9 243
BPMC(農薬) 75 53 63.6 170
フタル酸ジメチル 50 120 45.5 300 ○
フタル酸ジエチル 62.5 230 27.3 1600 ○
フタル酸ジブチル 50 920 18.2 1800 ○
フタル酸ジヘプチル 75 < 1 81.8 200 ○
フタル酸ビス(2-エチルヘキシル) 12.5 2510 72.7 1350 ○
(注)ND:不検出。1994年度は8試料、1995年度は11試料。
プラスチック添加物は該当欄に○印を付けている。

用語説明

  • GABB試験
     本研究で開発した発光細菌の無発光変異株を用いる復帰変異試験を改良した、簡便かつ高感度な、遺伝毒性試験法。最近、MBG法と名称を変更した。
  • マイクロトックス試験
     発光細菌の発光量抑制を指標とした毒性試験法で、比較的簡便で魚毒性との相関性が高いとされている。
  • 姉妹染色分体交換(SCE)試験
     ほ乳類由来培養細胞による遺伝毒性試験で姉妹染色分体交換(SCE)頻度の誘発を指標とする。染色体異常試験より感度良く検出できるといわれる。
  • エームス試験
     変異原性試験の世界的な標準法である。用いる菌株は、TA100とTA98が標準であるが、ニトロ化合物や芳香族アミン類に感受性が高いとされるYG株4などが開発されている。

関連記事

関連研究者

表示する記事はありません