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地球温暖化の進行によってエルニーニョ・南方振動はどう変わる?

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地球環境

2026/06/088分で読めます

#研究紹介 #地球温暖化 #エルニーニョ現象

エルニーニョ・南方振動(ENSO)は、東部太平洋赤道域において海面水温が数年ごとに昇温と冷却を繰り返す自然現象で、世界各地の天候に大きく影響します。地球温暖化が進む将来に、ENSOがどのように変化し、それが人々の生活や生態系にどのような影響をもたらすのかは重要な課題ですが、温暖化の進行度との関係は十分に理解されていませんでした。そこで本研究では、温暖化の進行度が大きく異なる複数の将来シナリオを想定し、西暦2500年までを対象として地球システムモデル「MIROC ES2L」による数値シミュレーションを行いました。その結果、温暖化が比較的緩やかな場合にはENSOが強まる一方、温暖化が非常に進行すると現象は弱まり、発生周期が短くなることが分かりました。これらの結果は、温暖化が進んだ将来においてENSOの強さや頻度が変わるメカニズムを理解する上で重要な知見となります。

研究の背景と目的

エルニーニョ・南方振動(ENSO)は、大気と海洋の相互作用が引き起こす、熱帯太平洋(図1)で発生する大規模な自然現象です。東部太平洋赤道域の海面水温が数年ごとに昇温(エルニーニョ現象)と冷却(ラニーニャ現象)を繰り返します。ENSOに伴う海面水温の変動は、熱帯の降水や大気大循環を変えるため、日本のような遠く離れた地域の降水量や気温などにも大きな影響をもたらします。したがって、その発生を予測することや将来変化を理解することは、防災や気候変動への適応を考える上で重要な課題です。
これまでの多くの研究では、地球温暖化の進行によってENSOに伴う海面水温の変動は強まる可能性が示されてきました。しかし、それらの多くは21世紀末までの比較的低い温暖化レベル(工業化以降の世界的な平均気温上昇)を対象としており、温暖化がさらに進行した場合にENSOがどのように振る舞うのかについては、十分に理解されていませんでした。
そこで本研究では、温暖化レベルが大きく異なるさまざまな将来シナリオを想定し、地球温暖化の進行度に応じてENSOがどのように変化するのかを体系的に明らかにすることを目的としました。

米国ハワイ州オアフ島南東部から見た熱帯太平洋の海と雲の写真
図1:米国ハワイ州オアフ島南東部から見た熱帯太平洋の海と雲。貿易風が吹き、浅い積雲が広がる様子が見られる。撮影者:林未知也(2019年12月4日撮影)

研究手法

本研究では、東京大学、国立環境研究所、海洋研究開発機構などが共同で開発した地球システムモデル「MIROC ES2L」を用いて数値シミュレーションを行いました。具体的には、1850年〜2014年の過去再現実験と2015年以降の複数の将来シナリオ実験の結果から、ENSOの振る舞いの違いを調査しました。
従来の研究よりもさらに先の将来に目を向け、西暦2500年までを対象として、温暖化レベルが大きく異なる8つの将来シナリオを設定しました。これらのシナリオは、既存の共有社会経済経路(Shared Socio-economic Pathways, SSPs)[注釈]に基づく排出シナリオを2100年以降に延長したものです。2250年に温室効果ガスの排出量がゼロとなり、その後2500年にかけて気候が安定化するよう設計されています。
これにより、現在から、比較的温暖化が抑えられた場合、さらには非常に強く温暖化が進行した場合まで、幅広い条件下におけるENSOの特性を比較することが可能になりました。また、100年以上にわたり安定した気候状態が得られるシミュレーションを用いることは、ENSOの時空間的に複雑で不規則な振る舞いをより精度よく統計的に評価する上で有益です。
解析では、東部太平洋赤道域における季節周期を除いた海面水温の1〜8年スケールの変動によりENSO指標を定義しました。ENSOの強さや周期などの統計量を過去再現実験と各々の将来シナリオ実験の結果から算出し、温暖化レベルや平均的な気候状態の変化との関係を詳しく調べました。さらに、世界中で開発された12の地球システムモデルによる温暖化の進行度の高い既存のシミュレーションも併せて解析し、結果の普遍性を検証しました。

研究結果と考察

解析の結果、将来のENSOの変化は、地球温暖化の進行度に対して、単純に強まる、あるいは弱まるといった一方向の変化ではないことが明らかになりました(図2)。温暖化の進行が比較的緩やか(工業化前と比べて3℃以下の温暖化レベル)な場合には、従来の21世紀末までの予測研究と同様に、ENSOに伴う海面水温の変動は強まる傾向が確認されました。一方で、温暖化がさらに進み、世界平均気温の上昇が非常に大きくなる条件下では、ENSOに伴う海面水温の振幅は逆に小さくなり、その発生周期が短くなることが示されました。すなわち、ENSOの特徴は、温暖化が進むにつれて単調に変化するのではなく、ある温暖化レベル(MIROC-ES2Lでは4℃)を境に質的に変化することが分かりました。

温暖化レベルごとのENSOの強さと周期の図
図2:温暖化レベルごとのENSOの強さ(左)と周期(右)。色線はそれぞれ異なる将来シナリオ実験と過去再現実験に基づく結果(凡例参照、エラーバーは1標準偏差の幅)で、灰色の棒グラフはそれらの平均値を示します。温暖化レベルが3°Cを超えない場合、温暖化によりENSOが強まりますが、周期は約4年にとどまります。温暖化レベルが4°Cを超える場合、温暖化の進行に伴いENSOは弱まり、周期が短くなります。

これらの結果は、ENSOが地球温暖化に対して非線形に応答することを示しています。言い換えれば、温暖化の「進み具合」によって、ENSOの強さや周期といった性質が大きく変わり得るということです。21世紀末までを対象とした多くの先行研究では、ENSOの強化が主に議論されてきましたが、本研究は、より長期かつ広範な温暖化条件を考慮することで、ENSOが強化から弱化へと転じ、さらに発生周期も短くなる将来像があり得ることを明らかにしました。
本研究では、ENSOの非線形な変化が生じる理由を、温暖化の進行度に応じた背景状態の変化から解釈しました。温暖化があまり進まない段階では、赤道太平洋の西側で暖かく、東側で冷たい海面水温の状態が維持されます。この条件下では、温暖化によって海洋の表層がより温まりやすくなり、海洋と大気の相互作用によるENSOの増幅過程が強化されます。
一方、非常に強く温暖化が進行すると、赤道太平洋では西側でも東側でも海面水温が高くなります。この条件下では、ENSOの増幅過程は効率的に働かず、ENSOは弱まります。同時に、エルニーニョ状態を終息させる海洋赤道域の放熱過程は強化され、ENSOの周期が短くなります。すなわち、強く温暖化した将来には、ENSOの弱化と短周期化という二つの変化が、共通の背景状態のもとで異なる過程を通じて同時に生じ得ます。
温暖化によってENSOが弱まることは、その影響が小さくなることを意味するのでしょうか。地球温暖化が進むと、大気中の水蒸気量が増加し、海面水温の変動に伴う熱帯域の降水および大気大循環の変動は、むしろ強まると考えられています。そのため、強く温暖化した条件下で変化したENSOであっても、熱帯の降水変動は大きくなり、世界各地の天候への影響もむしろ大きくなることがあると考えられます。

今後の展望

本研究は、地球温暖化の進行度によってENSOの性質が大きく、かつ非線形に変化し得ることを示しました。また、非常に強く温暖化した条件下でENSOに伴う海面水温変動の振幅が弱まることや周期が短くなるという結果は、調査した他の地球システムモデルのほとんどで同様に検証されました。今後は、こうしたENSOの変化が、アジア・北太平洋域や日本を含む各地域の気候にどのような影響を及ぼすのかを、降水量や極端現象の変化に着目して、より詳しく調べていく必要があります。
将来のENSOの変動が、異常気象の発生頻度や予測可能性、防災計画にどのような影響を与えるのかを評価することは、気候変動への適応策を検討する上で重要な課題です。地球温暖化が進行する将来に向けて、ENSOが「どの程度、どのように変わるのか」を温暖化の進行度ごとに定量的に理解し、その知見を長期的なリスク評価や適応策の検討に活かしていくことが期待されます。

論文情報
Hayashi, M., T. Yokohata, H. Shiogama, T. Ogura, T. Hajima, F.-F. Jin, S. Zhao & M. F. Stuecker (2026) Unraveling non-monotonic responses of the El Niño–Southern Oscillation to post-2100 global warming. npj Climate and Atmospheric Science, 9, 84. https://doi.org/10.1038/s41612-026-01375-y 注釈:共通社会経済経路は、将来予測に用いられる社会経済シナリオで、人口・経済成長・技術進展・消費嗜好・技術の社会的受容性等がそれぞれ異なるケースを想定して作成されている。

   
国立環境研究所 地球システム領域 地球システムリスク解析研究室 / 主任研究員
※執筆当時
   
国立環境研究所 地球システム領域 地球システムリスク解析研究室 / 主席研究員
※執筆当時
   
国立環境研究所 地球システム領域 地球システムリスク解析研究室 / 室長
※執筆当時
   
国立環境研究所 地球システム領域 気候モデリング・解析研究室 / 室長
※執筆当時

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