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2つのセンサを託してロケット打上げ

GOSAT-GW、ついに宇宙へ

地球環境

2025/07/246分で読めます

#温室効果ガス #気候変動 #GOSAT #地球観測衛星 #レポート

2025年6月29日、深夜1時33分。闇夜に突如眩しい光が現れ、みるみるその光が強く大きくなり、あれは炎だと認識し始めたころに、ほんの少しぬるい風が肌をふわっと撫でるように抜けていく。遠くで聞こえ始めた音は、すぐに力強くバリバリと空気を震わせるほどの大音量となる。それは火山の噴火や地震のような自然界の音質とはちがう、例えるならジェット機が前へ進むような力強い音だ。身体全体が揺さぶられるような衝撃を感じるころ、種子島からH-IIAロケットが宇宙へと飛び立って行った。

空の美しい鹿児島の夜を炎と煙が彩り、やがて遠くの彗星のような光を見送った。

H-IIAロケットの写真

あたりにふたたび静けさが戻り、星空のもと虫の音が耳に入ってくるようになったころ、「素晴らしい打上げでした」と言葉を発したのは、ロケットに搭載された衛星の開発をおこなってきた関係者であった。 宇宙へ向かう衛星、その打上げがあった種子島での出来事を広報室スタッフがレポートします。

H-IIAロケット最後の旅へ

宇宙から観測をおこなう人工衛星は、ロケットによって地上から宇宙に運ばれます。今回打ち上げられるロケットはH-IIAの50号機で、これはH-IIAの最終号機ということもあり、報道関係者やファンのみならず、地元住民からも高い注目を集めました。 当初発表された打上げ予定日から5日遅れの6月29日に打上げが設定され、それに先駆けて6月27日に宇宙航空研究開発機構(JAXA)種子島宇宙センター(鹿児島県)において報道機関向けに打上げ前の説明会が開かれました。

説明会の様子の写真
説明会の様子

搭載される衛星

このロケットに搭載される衛星は、温室効果ガス・水循環観測技術衛星「GOSAT-GW(ごーさっと じーだぶりゅ)」です。GOSAT-GWには、温室効果ガスを観測する「温室効果ガス観測センサ3型: TANSO-3(たんそすりー)」と、水循環を観測する「高性能マイクロ波放射計3:AMSR3(あむさーすりー)」の2つのセンサが搭載されています。

GOSAT-GW    Global Observing SATellite for Greenhouse gases and Water cycle
TANSO-3    Total Anthropogenic and Natural emissions mapping SpectrOmeter-3
AMSR3     Advanced Microwave Scanning Radiometer 3

愛称は「いぶきGW」

はじめに、GOSAT-GWの愛称が「いぶきGW」であることが発表されました。すでに観測をしている温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」シリーズから名前を引き継ぎつつ、「いぶき」という言葉がもつ、息づかいや生命力、力強さ、そして新たな世界を創り出す、といった意味からの命名であることが説明されました。

GOSAT-GWの愛称発表時の写真
GOSAT-GWの愛称発表

つづいて、ロケット打上げ準備状況の説明がありました。いぶきGWを搭載するH-IIAロケット50号機は、昨秋に工場を出発したあと種子島で組み立てられ、さまざまな点検や確認を重ねました。当初は6月24日未明の打上げ予定でしたが、打上げに万全を期すため、6月29日(日)1時33分03秒に打上げ日時を決定したことが報告されました。

ロケットに関する説明ののち、搭載される衛星である、いぶきGWに関する説明がありました。2つのセンサ(搭載される衛星 を参照)によってどのような観測がおこなわれ、データをどのように活用するか、環境省、国立環境研究所(国環研)、JAXAより説明がありました。

TANSO-3センサで宇宙から温室効果ガスを測る

国環研は、2009年打上げの温室効果ガス観測技術衛星GOSAT、2018年のGOSAT-2、そして今回のGOSAT-GWというように、2009年以降、GOSATシリーズの衛星に搭載された温室効果ガス観測センサによる温室効果ガスの観測をおこなっています。今回の衛星には、後継の「TANSO-3」センサが搭載され、二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)といった温室効果ガスが地球規模でどのように排出されているかを観測します。新たに大気汚染物質である二酸化窒素(NO2)を観測することも特徴です。

GOSAT     Greenhouse gases Observing SATellite

地球システム領域の谷本浩志領域長からは、いぶきGWに搭載されたTANSO-3センサによる温室効果ガス観測ミッションの説明がありました。
ミッションの1つ目は、主要な温室効果ガスがどのように・どれくらい増えているのかを複数のGOSATシリーズ衛星で継続して観測していくことです。
2つ目は、国別に報告されている温室効果ガスの排出量がどの程度正しいのか検証することです。
3つ目は、地球上に点在する温室効果ガスの大きな排出源を宇宙から検出することです。

そして、これまでのGOSATシリーズでは「点」での観測でしたが、いぶきGWでは「面」での観測をすることで、より詳細なデータが得られるようになります。さらに、「大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)も一緒に検出することで、人間活動から排出されている物質を宇宙から検出し、政策・対策に活かす研究開発に取り組んでいく」と谷本領域長は意気込みを語りました。

会見で説明をする谷本浩志地球システム領域長の写真
会見で説明をする谷本浩志地球システム領域長

ロケットが打上げ場所へ移動

衛星を載せたロケットは、打上げの約半日前に「射点」と呼ばれる打上げ場所へ移動します。その移動が始まる1時間ほど前の6月28日午前、谷本領域長とともにロケットが見える高台に到着すると、そこにはすでにたくさんのファンが集まっていました。

高台に集まるファンたちの様子の写真

全長53メートルもあるH-IIAロケットが収まる大きな建屋から、タイヤがたくさんある巨大な台車のようなドーリー(移動式発射台)に載せられて出てきたロケットは、約500メートルの距離を30分ほどかけて移動しました。このあと打上げに向けて燃料充填や最終点検などの準備がおこなわれます。

高台から撮影したタイムラプス動画

いよいよ打上げ

打上げの時刻は衛星の軌道によって決まり、今回は夜中の1時33分03秒に設定されました。安全のために射点から3km圏内への立ち入りは禁止されているため、私たちも圏外から打上げを見守りました。打上げの様子は冒頭に記したとおりですが、たった一度しかない、いぶきGWを載せたロケットの打上げシーンの撮影は、轟音と緊張が相まって震えました。
島内や全国各地から種子島・南種子町に集まった人、JAXAのライブ配信を視聴した人など、多くのファンに見守られた打上げとなりました。

いぶきGWによる研究はじまる

ロケットが無事に打ち上がり、衛星の軌道投入が確認された後、早朝3時30分から打上げ結果に関する記者会見が、続いて4時20分からは技術関係の記者会見が開かれ、会場の種子島宇宙センターならびにオンライン合わせて約30社のメディアが集まりました。
会見では、ロケットに携わった方々の打上げまでの苦労も語られたほか、谷本領域長は「これからも環境省、JAXA、そして三菱電機の皆様とも協力しながら、このGOSAT-GWの観測で得られるデータを必ずや気候変動対策の推進に活かせるように頑張ってまいります」と、今後の抱負を述べました。

打上げ成功で表情も晴れやかな関係者らの写真
打上げ成功で表情も晴れやかな関係者ら

その後、衛星は宇宙に無事に到達し、畳まれていた太陽電池パドルを開いて初期確認を完了し予定した軌道を安定して維持できるようになったことが7月1日に発表されました。このあと約3ヶ月間をかけて搭載機器の機能確認をおこなったあと、いよいよ本格的な観測が始まります。
宇宙、通信など、環境以外にも多様な分野の科学技術が組み合わさり実現できるこの観測。今後、空から得られるデータを用いた研究にもご注目ください。

撮影
写真 成田正司(国立環境研究所広報室)
動画 志賀薫(同) 参考
報道発表 温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW、「いぶきGW」)の打上げとクリティカル運用期間の終了について https://www.nies.go.jp/whatsnew/2025/20250701/20250701.html
国立環境研究所 衛星観測センター GOSAT-GWプロジェクト
https://gosat-gw.nies.go.jp/index.html
国立環境研究所 衛星観測センター
https://www.nies.go.jp/soc/

   
国立環境研究所 企画部広報室 / 高度技能専門員
志賀 薫 志賀 薫の写真
※執筆当時

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