2026/03/267分で読めます
国環研では、国内だけではなく、海外でも研究や調査、観測を行っている研究者がたくさんいます。
今回は地球システム領域・梁シニア研究員が、台湾大学と共同で行っている研究の現場を訪ねました。そこではどのような研究が行われているのか、初めて研究現場を訪れた事務職員が見聞きし、感じたことを交えながらご紹介します!
今回の舞台は、台湾中部の台中市と、北部の台北市です。これらの地域の水田には、「チャンバー」と呼ばれる観測機器を設置している場所があります。
観測機器・・・一体何を観測しているのか、気になりますよね。それはズバリ、「温室効果ガス」です。もう少し細かく言うと、二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素です。ここでもう少し、チャンバーについて詳しくご説明します。
写真1のチャンバーは、地球システム領域の梁シニア研究員によって開発された観測機器です。梁さんは長らく、国内外の森林や草原において、この機器を用いて土壌からの温室効果ガスの排出・吸収速度(土の中の微生物による有機物の分解(微生物呼吸)や、植物の根っこの呼吸(根呼吸)を含む土壌の呼吸速度)を観測し、年間の排出・吸収量の算出を行ってきました。また、地球温暖化が進行した場合に、これらの数値がどのように変化するのかも研究されています*1。梁さんが開発したチャンバーを用いた研究は、国内外の研究者にも広がっており、研究者の間では、敬意を込めて「リャンバー」という愛称も付けられています。
チャンバーは、透明な立方体状の観測機器です(写真1)。「どうして全て透明なのだろう?」と不思議に思い、尋ねてみると、そこにはきちんと理由がありました。それは、チャンバーの中の土壌や植物を取り巻く環境を、チャンバーの外部と可能な限り変えないようにするためでした。もし、色がついた板で囲ってしまい、太陽の光が遮断されれば、植物や土壌の光環境が変化し、植物の光合成や呼吸、土壌の呼吸状態が変わってしまいます。その状態では、正確な数値を得ることができません。そのため、全てのチャンバーは透明で、光が入りやすい設計になっているのです。他にも、周囲の環境と同じにするため、チャンバーの上部(蓋)は自動開閉式になっており、観測を行うときだけ大気を内部循環させる注1ために密閉し、それ以外の時間は解放するように設計されています。さらに、自動で蓋の開閉や観測を行うことで、無人でも昼夜、雨の日問わず観測をすることが可能になっています。
このチャンバーでこれまで、日本の北は北海道から、南は宮崎県まで、そして東南アジアを中心とした海外の多様な森林や草原、湿地で、土壌からの温室効果ガスの排出・吸収速度の観測が行われてきました。
そして、そのチャンバーが、台湾では「水田」における二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素などの三大温室効果ガス収支の同時観測を行うために利用され始めました(写真2)。私も水田に設置されているチャンバーを見たのはこれが初めてでした。木々に覆われている森林とは違い、水田は辺りを見渡すことができるため、チャンバーがひときわ目を引きました。その景色を見て、「ここで今まさに、研究が行われているんだ!」と胸が高鳴りました。次の章からは、今回のメインテーマ、チャンバーが水田に設置されることになった理由や、そこで行われている研究に迫ります!
2015年に、温室効果ガスの排出削減に向けた国際的な取り決めである「パリ協定」が採択され、温室効果ガスの削減が国際的にも重要な課題として捉えられるようになりました。
これに伴い、台湾では、これまで森林だけで行っていた温室効果ガスの収支観測を、農地、特に水田でも行うことが必要だと認識されるようになりました。というのも、台湾では日本と同様に稲作が盛んであることや、水田からは栽培の過程で二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素といった温室効果ガスの出入りがあることから、特に水田での観測が重要視されるようになりました。
そして「チャンバー」を用いることで、それらの温室効果ガスの観測を行うことが可能となりました。台湾ではすでに森林などでチャンバーを用いた研究を行っていたことなどから、水田にも設置するに至ったそうです。国際社会の流れや、台湾での研究の積み重ねがきっかけとなり、台湾大学との共同研究につながりました。
台湾では、「稲作における温室効果ガスの排出をどのように、どれだけ減らすことができるか?」という問いに答える研究を行っています。稲作における温室効果ガスの削減については、重要な2つのポイントがあります。1つ目は水田の「水位」です。
一般的に、稲作の過程で最も温室効果ガスの排出量が多くなるのは、「灌水」と呼ばれる田んぼに水を貯めている期間だと言われています。この期間において、できるだけ水位を下げ(通常の深さ5cmから2~3㎝まで)、また、灌水の期間を短くする、つまり水田が乾いている期間(中干し)を延ばすことができれば、水田から多く排出され、温室効果が二酸化炭素の約30倍もある、メタンの排出を減らすことができるのではないかと考えられています。
そこで、水田を2つのエリアに分けて、左側では通常どおりに灌水を行い、右側では水位を下げるとともに灌水の期間を短くし、中干し期間を長くして稲作を行っています。そして、それぞれのエリアにチャンバーを設置して二酸化炭素の吸収速度(稲の光合成と、稲および土壌の呼吸の差分)やメタンおよび一酸化二窒素の排出速度を測り、どれだけ違いが出るのかを調査しています(写真3)。
2つ目のポイントは「肥料のやり方」です。近年は、化学肥料が普及しましたが、かつては主に有機肥料である「稲藁の土壌還元」を使用していました。そこで、この水田では、化学肥料を使う場合、有機肥料(稲藁)を使う場合、有機肥料(稲藁)の量を増やす場合の3つの条件で、栽培の過程における温室効果ガスの排出量の比較を行っています。 そして、水位の条件との組み合わせの違いで、どれだけ温室効果ガスの吸収・排出量に違いがでるのかを調べています(写真3)。
今後も水田で観測を続けることにより、水位の管理と肥料のやり方を変えることで、温室効果ガスの排出量がどれだけ削減できるのか、また、稲の生産量がどのように変化するのかを明らかにしていきます。そして、これらの研究を東南アジア全体に普及していくことで、地域全体の温室効果ガス削減につながることが期待されています。
今回は、水田で温室効果ガスの観測を行う研究をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。私はこの台湾での研究を知るまでは、「水田」と「温室効果ガス」は中々結びつきませんでした。しかし、水田や畑などでも温室効果ガスの出入りがあり、普段身近にある土地も地球環境の一部だということを改めて実感しました。また、「チャンバー」が今後も多くの地域で利用され、そこで観測されたデータが効果的な温室効果ガスの排出削減策につながることに期待したいと思います。
今後も国環研Viewでは、さまざまな研究を行う国環研の研究者とその研究について、ご紹介していきます。引き続き、ご覧いただけましたら幸いです。