2026/01/076分で読めます
日本では、光化学オキシダントの原因物質のひとつである非メタン炭化水素(NMHC)の全量は減少傾向にありますが、光化学オキシダントの環境基準の達成状況は極めて低い状況にあります。今後は、既に厳しく規制されている自動車排気ガス以外からのNMHCのエミッション(排出)が重要になってくることが予想されるため、NMHCの全量だけではなく、個別成分を把握することが重要です。本研究では、平日と週末(日曜日)につくば市(日本の中規模都市の典型)での9時~12時の3時間における、NMHCの個別成分の平均濃度を調べました。秋季、冬季、春季には、人為的な排出が少なくなる週末のNMHCの濃度は、平日に比べて顕著に少なくなりましたが、夏季は平日と週末の差が小さいことを見出しました。夏季には植物起源のNMHCの排出割合が増えましたが、それよりも自動車排気ガス以外の気温に依存するエミッションである蒸発ガス等に由来する成分が排出されていることを、平日と週末を比較する観測から見出しました。
日本において、大気汚染の原因物質である窒素酸化物や非メタン炭化水素(NMHC)の濃度は減少傾向にあるにもかかわらず、光化学オキシダントの環境基準(1時間値が0.06ppm以下であること)の達成状況は極めて低い状況にあり、また、昼間の日最高1時間値は近年高止まりの状況にあります。日本では自動車排気ガスからのNMHCの排出は厳しく規制されているため、自動車排気ガス以外からのNMHCのエミッションが重要になってくることが予想されます。例えば、植物起源のNMHC(イソプレン、モノテルペン類など)やガソリン車からの蒸発ガスなどが該当します。これらは気温に依存するエミッションとして知られています。
本研究では、日本の中規模都市の典型と考えられるつくば市において、平日と週末(日曜日)に9時~12時の3時間の平均のNMHCの個別成分濃度について調べて、比較してみることにしました。自動車排気ガスからのNMHCの排出は、平日と週末で差が出ることが予想されるのに対し、自動車排気ガス以外からのNMHCの排出は、平日と週末で差が出ないのではないかと予想されるためです。また、9時~12時はどの季節でも気温が上昇する時間帯であるため、気温に依存するエミッションをとらえやすい時間帯として選択しました。
NMHCの個別成分の濃度を得るために、真空状態のキャニスター内に、流速を調整して9時~12時の3時間をかけて大気を捕集しました。捕集は、平日(木曜日)と週末(日曜日)に2年間以上の期間で実施しました。捕集した大気に含まれるNMHC は、炭素数4(C4)から11(C11)のアルカン類、アルケン類、芳香族炭化水素の53種を、熱脱着装置と組み合わせたガスクロマトグラフィー質量分析計 (TD-GC/MS)を用いて分析・定量しました。
図1aは、つくば市における平日と週末のC4からC11のNMHCの季節ごとの平均濃度を示しています。秋季、冬季、春季には、週末のNMHCの濃度は平日に比べ、かなり減少していました。このことは平日に比べ、週末は人為的な排出、主に自動車からの排出が少ないことを表していると考えられます。しかし、夏季は、平日と週末の差が小さいことがわかりました。そこで、次にその内訳を見てみました。図1bは、夏季の平日と週末のNMHCの組成を示しています。他の季節と比較して、アルケン類の割合が多くなっています。これは植物起源のNMHCの寄与が大きくなっていることを表しており、平日と週末で差がないことがわかります。一方、アルカン類と芳香族化合物は主に人為起源のものですが、アルケン類よりも割合が高いことがわかります。しかも、アルカン類と芳香族化合物ともに夏季の週末も濃度が高いままであることがわかりました。
図2は、夏季のアルカン類と芳香族化合物のNMHCと気温との相関関係を示しています。週末は、平日(R2 < 0.1)と比較して、気温との相関関係が強い(R2 > 0.15)結果が得られました。このことから、週末のアルカン類と芳香族化合物は気温に依存するエミッション由来であることが予想されました。
アルカン類の中では、炭素数の少ないアルカン(C4、C5)や炭素数の多いアルカン(C9、C10、C11)が多いことが、NMHCの個別成分分析でわかりました。炭素数の少ないアルカンと芳香族化合物は、ガソリン車からの蒸発ガス(ブレークスルーやパーミエーション)に由来すると特定しました。また、炭素数の多いアルカンは、ランドリー施設で使用される石油ベースの有機溶剤が蒸発したものと考えられました。このように、夏季に自動車排気ガス以外の気温に依存するエミッション寄与が重要になってきていることを観測で見出しました。
本研究では、9時~12時はどの季節でも気温が上昇する時間帯であるため、NMHCの個別成分の9時~12時の3時間平均値を調べました。一方、大気環境に関わるNMHCの指針値は、「午前6時~9時の3時間平均値が0.20~0.31ppmC以下」とされています。特に、光化学オキシダントの生成が活発になる夏季では、午前6時頃から気温が上昇し始めるため、気温に依存するエミッションの寄与もNMHCの指針の午前6時~9時でも大きくなっている可能性があります。光化学オキシダント注意報は主に夏季に発令されます。NMHCごとに光化学オキシダントを生成する能力も異なりますので、夏季の午前中のNMHCを含む揮発性有機化合物の個別成分の把握が、光化学オキシダント問題の解決につながっていくと考えています。