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福江島の大気環境観測施設を訪れました!事務職員の国内出張レポート vol.1(前編)

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2025/03/314分で読めます

#大気汚染 #PM2.5 #エアロゾル #レポート

——国立環境研究所は、福江島において大気中のエアロゾルを観測しているので‥‥
——えっ、あの福江島にも国環研の施設が!?
ある日、所内のミーティングに参加していたときのこと。私は耳に入った情報を聞き返していました。

若手書道家が長崎県五島列島の福江島に移り住み、島民たちとの生活を通して成長する姿を描く漫画にはまっていた私にとって、“聖地”と職場が結びついた青天の霹靂といえる瞬間でした。その興奮から少し遅れて「つくばから遠く離れた土地なのに、どうして福江島で活動しているのだろう?」という疑問が頭に浮かびました。その後、広報担当である私が広報業務の一環で、福江島の観測施設を訪問することができたので、この疑問の答えと共に、事務職員の立場からそこで見聞したことや感じたことをご紹介したいと思います。

福江島はどんなところ?

福江島の写真
写真1.福江島

どうして福江島で研究しているのか?その理由に迫るために、まずは福江島の様子を紹介します。

長崎港から西に約100km、五島列島の中で一番大きな島が福江島です(北緯32~33度、東経128~129度。福江島が属する五島市の人口は約34,000人)。国環研つくば本構からは、電車と航空機を乗り継いで半日ほどかかりました。福江島に降り立った直後の印象は、海!白い砂浜と透き通った海がとてもきれいでした。

高浜ビーチの写真
写真2.3.高浜ビーチ

少し視線をずらすと、何にもさえぎられない広々とした空や生い茂る緑の草木が目に入ります。福江島北西部は「西海国立公園」の一部で、環境省が管理し、人の手を加えることが制限されているため、あるがままの自然が広がっています。

福江島の自然の写真
写真4.福江島の自然

さらに、同行した研究者から、福江島は遣唐使の日本最後の経由地、倭寇の拠点、潜伏キリシタンの移住先など、歴史的にもさまざまな役割を果たしてきたと聞きました。

空海の像と堂崎教会の写真
写真5(左).福江島北西部にある三井楽半島には、第16次遣唐使船に乗った空海の像と、「辞本涯」(本涯を辞す、日本の最果ての地を去る)という言葉が記された石碑が立っています。 写真6(右).島のいたるところに美しい教会があり、堂崎教会ではキリスト教弾圧の歴史や資料が展示されています。

そして、私が圧倒されたのは「地層」でした。福江島では砂と泥の縞模様の地層、「五島層群」を見ることができます。これはユーラシア大陸の河川に堆積していた砂と泥だったとのこと。日本列島の形成とともに大陸から離れ、その後、今の福江島に。約2000万年前の話ですが、海の向こうの大陸との距離が近くなったような気がしました。

大瀬崎灯台と五島層群の写真
写真7.大瀬崎灯台と五島層群。撮影用ドローンを飛ばせないほど風の強い日でしたが、「ハチクマ」という鳥が飛んでいました。ちょうど、福江島から大陸に渡る季節だったようです。

また、福江島には「鬼岳」という火山があり‥‥、と紹介を続けたいのですが、これ以上は割愛します。とにかく、福江島の海や自然の美しさ、大陸との近さを実感した滞在期間でした。ここで終わると、ただの観光案内になりますので、
・東シナ海に位置し、大陸に近い
・周囲は海に囲まれ、大きな産業施設がない
・人口が比較的少ない郊外地域
・東経128度~129度
という特徴を頭の片隅に置いていただいた上で、国環研の研究紹介に進みます。

大気観測を福江島で行う理由

ご覧いただいている『国環研View』の中で、閲覧数が多い記事の一つは「大気汚染ってなに?」です。背景として、PM2.5や黄砂の飛散予報図がニュース番組の天気コーナーで取り上げられたり、光化学スモッグや酸性雨が学校の教材に登場したり、‥‥と大気汚染やそれによる環境や人体の健康への影響が注目されていることが考えられます。車や洗濯物が汚れている、風景がかすんで見える気がする、咳やくしゃみが止まらない、などの声を耳にすることもあります。

そのような大気汚染問題の解決のため、国環研の地域環境保全領域は大気の観測を実施しています。空は途切れることなく世界と繋がり、空気のかたまりは風に乗って国境や海を超えるため、日本国内だけではなく、急速に経済発展を進める東アジアからの「越境大気汚染」の影響を明らかにすることが重要です。そして、その越境大気汚染の観測に適した土地の一つが福江島なのです。

みなさん、福江島の特徴を覚えていますか?
「東シナ海に位置し、大陸に近い」ことで、福江島は大陸側から偏西風に乗って移動する大気汚染物質の影響を受けやすい地域です。さらに「周囲は海に囲まれ、大きな産業施設がなく」、偏西風が常に西から東に吹いているため、日本国内の排出源の影響を受けにくいと言えます。
また、「人口が比較的少ない郊外地域」や「東経128度~129度」ということもポイントです。大都市で人為的な大気汚染物質の発生源が多くある福岡県福岡市や、福江島と同じく東経128~129度上の地点に位置するものの、大陸からの距離が異なる沖縄県辺戸岬の観測データと比較対照できるからです。

.長崎県福江島(Fukue island)、福岡県福岡市(Fukuoka)、沖縄県辺戸岬(Cape Hedo)の位置関係図
図1.長崎県福江島(Fukue island)、福岡県福岡市(Fukuoka)、沖縄県辺戸岬(Cape Hedo)の位置関係

余談ですが、今回の出張中には「ウルトラファインパーティクル(超微小粒子)」というワードが研究者の口から何度か出てきました。PM2.5よりもさらに小さい粒子の構造や健康影響の研究も進んでいるようです。

後編へ続く

   
国立環境研究所 企画部広報室 / 係員
田中 樹 田中樹の写真
※執筆当時

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