工場から出る二酸化炭素を減らすための得策とは?:エネルギーをシェアする仕組みづくり

vol.9-1 藤井 実 室長<前編>
2019.11.5

9人目のインタビューでは、環境社会イノベーション研究室の藤井実室長にお話しを伺いました。「イノベーション」がいろいろなところでキーワードになっている昨今ですが、環境社会イノベーション研究室の藤井室長はどんな研究をされているのでしょうか。

<前編>工場から出る二酸化炭素を減らすための得策とは?:エネルギーをシェアする仕組みづくり

まずは現在取り組んでいる研究について教えていただきました。前編では、エネルギーをシェアする仕組みづくりに取り組んでいる事例についてお話しを伺いました。エネルギーをシェアするとは、一体どこでどのように取り組むのでしょうか?

最近はどのような研究をされていますか?

 最近は、工場からのCO2排出量をいかに減らすか、ということを研究しています。まずその一環として、工場のエネルギー消費のモニタリングをしています。CO2排出量を減らすにあたって、幾つか方法がありますが、1つはエネルギー消費の効率を上げていくことです。工場では熱がたくさん使われますよね。蒸留するとか、乾燥させるとか、いろんなプロセスがあります。

 その時に、基本的には化石燃料を直接燃やして熱を作っている場合が多くて、熱効率は、95%を超えるなど、一見するとほとんど無駄がありません。熱は、量の観点からは化石燃料が持っているエネルギーがちゃんと蒸気になるとか、熱風になるとか、加熱することに使えてるんですけど、エネルギーには質の面もあって、熱であれば(もともとの)温度が高いほど質が高いということになります。その観点からすると(化石燃料を直接燃やすことは)すごく無駄が大きいんです。最たる例は石油ストーブで、石油はほぼ全て部屋を暖めることに使われていますけど、エネルギーの質的な観点で言うと、質の高いエネルギーである石油で、部屋の温度を20℃くらい上げるためだけにそのエネルギーを使ってしまうと、石油の持つ本来のポテンシャルの2%ぐらいしか役立てられていないことになります。

 別な方法として、一般的なものにエアコンで暖める方法があります。エアコンもまだ理想的な効率には至っていないので、ロスもたくさんありますが、石油ストーブで直接化石燃料を燃やして暖めるよりは、エアコンのようにヒートポンプで暖めてやると、かなり少ないエネルギーで暖めることができます。同じようなことが工場でも起こっていて、ただ工場の場合は蒸気が必要であるなど使用する熱の温度帯が高い場合が多いので、低い温度の暖房とか給湯に直接化石燃料を燃やすほどの無駄は生じていませんが、まだ改善の余地があるという状況ですね。

 例えば、廃棄物を燃やすと熱が得られますが、それを効率的に使うことにはまだ課題があります。廃棄物発電という方法もありますけれど、日本では最も効率の高い焼却炉でも発電効率は20%ちょっとくらいです。欧州ではものすごく頑張って30%ぐらいという例がありますが、それには燃やしているごみの組成やカロリー(発熱量)も影響しています。焼却炉では、火力発電所のように大規模化することが難しいことも、発電効率が低い理由の1つです。しかしながら、廃棄物でも(電力ではなく)熱を供給するだけであれば、割と効率的に活用できたりするんですよね。

 今、日本の焼却炉ではほぼ発電しかしていないか、せいぜい暖房や給湯に小規模に熱供給している程度なんですが、そうじゃなくて工場で例えば200~300℃ぐらいの温度を必要としているようなプロセスに(廃棄物を燃やした際に出る)熱を供給する形で使えると、化石燃料消費の削減効果は、発電しているときに比べると2倍ぐらい大きくなります。その分、経済的なメリットも大きいことになります。こういった取り組みは日本ではほぼ行われていないので、今後できるようにしていきたいと思っています。

 実際に日本の廃棄物処理業者でも、廃棄物の焼却炉を、熱を必要とする工場の脇に建ててそこから蒸気を送りましょうという計画を立てている例もあるんですが、それもまだ事業化に至るまでには課題があります。そういった新しい事例の検討会などにも参加しています。

 海外だと隣の韓国なんかは焼却熱の工場での利用がかなり進んできていて、韓国の方とも一緒に共同研究しています。

 まとめると、一つは焼却炉から工業団地に熱を送りましょう。もう一つには、いわゆる「コジェネレーション」(*1)といって、熱だけつくるよりは電気と熱の両方を作る方がお得なので、まずそうしましょうという話があります。日本の工場でもコジェネレーションの事例は数多くありますが、ただそれでもやっぱりボイラーで熱をつくるためだけに燃料を燃やしているケースも沢山あるので、そういうところはまず、焼却熱を利用するとか、コジェネレーションに変えていくのが、初めに踏むべきステップです。

 例えば九州電力の管内だと季節によっては日中8割の電気が太陽光発電の電気で賄われているなんてことが起こっていて、電力の需給が不安定になってしまうので太陽光発電が接続制限されるといった事態が起こっています。今後さらに太陽光発電をもっと増やしていくんだとすると、日中の余剰電力がかなりできてくるので、その電力で工場に熱を送るといったことも考えられます。

 今の基本的な仕組みでは、化石燃料を燃やして電力を作っているじゃないですか。熱から電気を作る際には、大きなエネルギーのロスもあります。なので、電気をまた熱に変えるのは、これは非常に無駄が大きいので今はあまり行わないんですが、将来的には再エネ、太陽光にしても風力にしてもまず電気ができるんですよね。電気が最初にあってそれを熱に変えて使うという流れに結局なっていくので、そういう意味では電気を熱に使う、一見ある意味無駄に見えるプロセスが、今後多分主流になっていかざるを得ないのかなと思っているので、それに対する準備を今のうちに始められるといいのかなと思っています。

 再エネの電気を熱に変えるといったことも次第に増えてくると、省エネと合わせてだんだんゼロカーボンに近づいていくけれども、すぐには実現できないので、まず廃棄物の熱を工場で利用するケースのように、経済的なメリットも期待できて取り組みやすいところから始めて、だんだんゼロカーボンの方向にシフトしていけるといいのかなと考えています。これらが最近の研究ということになります。

 今挙げたような仕組みについては、多様な主体でエネルギーをシェアするので、「産業スマートエネルギーシェアリング」といっています。例えば北九州市では、それに関する研究会ができていて、自治体や企業の方々とも一緒に検討しています。似たような研究を海外でもこれから展開していこうとしています。タイやインドネシアや中国などでも取り組んでいます。

*1)コジェネレーション:二つのエネルギーを同時に生産、供給する仕組みのこと。ここでは電気と熱の供給をすることを指します。

今進めているインドネシアの研究事例はどのように進んでいますか。

 これまで少しお話ししたのは産業団地の話ですけど、当然ですが住宅地みたいな場所もあれば商業地帯みたいな場所もあったりして複合的なので、地域全体を統合的に扱うということはこれまでにも考えていました。その中で、まずは実態を把握するために、インドネシアでは工場と、住宅とか商業施設でのエネルギー消費のモニタリングを行っています。

 それが対策にすぐ結び付くかというとまだなかなか難しいのかなというところではあります。特に途上国のエネルギー消費の実態ってそんなに明らかではなかったので、まずはそれを調べるところから始まっているという感じですね。

段階としては、今エネルギー消費のモニタリングをしていて、これからはどういう段階に入っていくしょうか。

 こが難しいところなのですが、インドネシアの中央や地方政府の方々に対策に向けた調査の提案をして、協力して検討を進める相談をしています。必ずしもモニタリングの情報を使って進めていくというわけではないんですが、ただモニタリング研究で得られた信頼関係をきっかけに、何か次の展開も考えてみたいですね。

 ゆくゆくは、廃棄物の焼却熱を工場で利用する事業がインドネシアでも実現するとよいと思いますが、工場が相手の場合は特にエネルギーを安定して供給できることが大事で、いずれにしても、何かセンシングをして需給バランスを取るということがとても大事です。このインドネシアのMRV(*2)の成果も、もちろんこういったことに生かしていけるんだろうと思っています。

*2)MRV:Monitoring, Reporting and Verification(温室効果ガスの測定、報告及び検証)の頭文字を取っている。各国でMRVのプロジェクトが行われているが、ここでは「二国間クレジット(JCM)推進のためのMRV等関連するインドネシアにおける技術高度化事業委託業務」を指す(参考:http://www.nies.go.jp/subjects/2019/24883_fy2019.html

だいたいどれぐらいの期間での成果を考えていますか。

数年でフィージビリティースタディーをして実行可能性を追求し、その後数年で実際にそれを導入していく流れですかね。韓国の例で言うと、韓国はそれを国が音頭を取って組織的にやっていますが、やっぱり数年かけてフィージビリティースタディーをして、実際に既に熱供給のネットワークが結構できていたりするんですが、大規模に再エネを導入する段階にはまだ至っていない様子です。インドネシアでは、例えば10年ぐらいの長期間を考えておく必要があると思いますけどね。

インドネシアの側というか関係者側からは、このプロジェクトを通しての気付きなど何かコメントはありましたか。

 正直なところ、エネルギー消費のモニタリングをしてる結果を彼らが頻繁に見ているかというと、そういう状況ではありません。だから難しい。自分で見られるようにはなっているんですが、環境問題に関心は持っていても、ちゃんと毎日エネルギー消費量をチェックするというところまではいっていない感じですね。

これはエネルギー消費の見える化ではよく言われていることですが、要するに少し飽きてしまうとか、リバウンドしてしまうといったことがあるんだと思います。日本でもいろんな省エネのための取り組みがありますけど、持続させるのは簡単ではありません。

どうしたら持続するんでしょうね。

 そうですよね。そういう意味では、私はエンジニアなので、やっぱり技術で何とかしたいというマインドがあって、別に住んでいる人が無理に省エネしなくても、省エネの機械やシステムを入れればいいじゃないかっていうのがあると思うんですね。

技術のほうから変えていくということですね。

ただ、その省エネの機械を買おうという気持ちになってもらうことは必要なので、そこにいろんな政策が必要だったり、何かインセンティブを付けたりするなどの方法があると思うんですが、買った後は、あまりに贅沢を言わない限りは、毎日我慢して暮らさなくてもいい仕組みができるだろうと思っています。もちろん全部が全部そうできるわけじゃないとしても。やはり私はエンジニアなので、技術で何とかしたいというのがありますね。

コラム:研究のモチベーション

ちなみにお聞きしたいのが、藤井さんは実は最初は廃棄物の研究をしていたわけではなかったという点です。関連はするけれども、環境研究は海を対象にした研究からスタートしたと伺いました。

 そうですね。しかし、当初からずっと変わらないのは、温暖化には関心があって、CO2を効果的に減らすにはどうしたらよいか、という点ですね。そういう意味では一貫してテーマはあまり変わっていないとも言えます。

 その中でどこに自分がアプローチしやすいかと考えたときに、生態系のプロセスを通じて海へのCO2吸収を考えるというのが博士課程のときのテーマだったんですけど、(スケール的にも)なかなか人がコントロールするのは難しい面があります。その点、特に廃棄物問題というのは、CO2の問題と同時に解決されなければならない問題で、うまく廃棄物がエネルギーとして代替できてCO2の排出を減らせると、一石二鳥にも三鳥にもなるので、そういうことをやっていくのが効果が大きくて、ということは多分社会にも受け入れられやすいだろうと思って、これなら世の中を変えていくことが行いやすいんじゃないかと思ったという経緯があります。

中編へ

 前編ではエネルギーをシェアする仕組みづくりについてお話しを伺いました。続く中編では、藤井室長が座長を務める「廃棄物処理リサイクルIoT導入促進協議会」がどのようなものか、聞いてみました。