最近は、工場からのCO2排出量をいかに減らすか、ということを研究しています。まずその一環として、工場のエネルギー消費のモニタリングをしています。CO2排出量を減らすにあたって、幾つか方法がありますが、1つはエネルギー消費の効率を上げていくことです。工場では熱がたくさん使われますよね。蒸留するとか、乾燥させるとか、いろんなプロセスがあります。
その時に、基本的には化石燃料を直接燃やして熱を作っている場合が多くて、熱効率は、95%を超えるなど、一見するとほとんど無駄がありません。熱は、量の観点からは化石燃料が持っているエネルギーがちゃんと蒸気になるとか、熱風になるとか、加熱することに使えてるんですけど、エネルギーには質の面もあって、熱であれば(もともとの)温度が高いほど質が高いということになります。その観点からすると(化石燃料を直接燃やすことは)すごく無駄が大きいんです。最たる例は石油ストーブで、石油はほぼ全て部屋を暖めることに使われていますけど、エネルギーの質的な観点で言うと、質の高いエネルギーである石油で、部屋の温度を20℃くらい上げるためだけにそのエネルギーを使ってしまうと、石油の持つ本来のポテンシャルの2%ぐらいしか役立てられていないことになります。
別な方法として、一般的なものにエアコンで暖める方法があります。エアコンもまだ理想的な効率には至っていないので、ロスもたくさんありますが、石油ストーブで直接化石燃料を燃やして暖めるよりは、エアコンのようにヒートポンプで暖めてやると、かなり少ないエネルギーで暖めることができます。同じようなことが工場でも起こっていて、ただ工場の場合は蒸気が必要であるなど使用する熱の温度帯が高い場合が多いので、低い温度の暖房とか給湯に直接化石燃料を燃やすほどの無駄は生じていませんが、まだ改善の余地があるという状況ですね。
例えば、廃棄物を燃やすと熱が得られますが、それを効率的に使うことにはまだ課題があります。廃棄物発電という方法もありますけれど、日本では最も効率の高い焼却炉でも発電効率は20%ちょっとくらいです。欧州ではものすごく頑張って30%ぐらいという例がありますが、それには燃やしているごみの組成やカロリー(発熱量)も影響しています。焼却炉では、火力発電所のように大規模化することが難しいことも、発電効率が低い理由の1つです。しかしながら、廃棄物でも(電力ではなく)熱を供給するだけであれば、割と効率的に活用できたりするんですよね。
今、日本の焼却炉ではほぼ発電しかしていないか、せいぜい暖房や給湯に小規模に熱供給している程度なんですが、そうじゃなくて工場で例えば200~300℃ぐらいの温度を必要としているようなプロセスに(廃棄物を燃やした際に出る)熱を供給する形で使えると、化石燃料消費の削減効果は、発電しているときに比べると2倍ぐらい大きくなります。その分、経済的なメリットも大きいことになります。こういった取り組みは日本ではほぼ行われていないので、今後できるようにしていきたいと思っています。
実際に日本の廃棄物処理業者でも、廃棄物の焼却炉を、熱を必要とする工場の脇に建ててそこから蒸気を送りましょうという計画を立てている例もあるんですが、それもまだ事業化に至るまでには課題があります。そういった新しい事例の検討会などにも参加しています。
海外だと隣の韓国なんかは焼却熱の工場での利用がかなり進んできていて、韓国の方とも一緒に共同研究しています。
まとめると、一つは焼却炉から工業団地に熱を送りましょう。もう一つには、いわゆる「コジェネレーション」(*1)といって、熱だけつくるよりは電気と熱の両方を作る方がお得なので、まずそうしましょうという話があります。日本の工場でもコジェネレーションの事例は数多くありますが、ただそれでもやっぱりボイラーで熱をつくるためだけに燃料を燃やしているケースも沢山あるので、そういうところはまず、焼却熱を利用するとか、コジェネレーションに変えていくのが、初めに踏むべきステップです。
例えば九州電力の管内だと季節によっては日中8割の電気が太陽光発電の電気で賄われているなんてことが起こっていて、電力の需給が不安定になってしまうので太陽光発電が接続制限されるといった事態が起こっています。今後さらに太陽光発電をもっと増やしていくんだとすると、日中の余剰電力がかなりできてくるので、その電力で工場に熱を送るといったことも考えられます。
今の基本的な仕組みでは、化石燃料を燃やして電力を作っているじゃないですか。熱から電気を作る際には、大きなエネルギーのロスもあります。なので、電気をまた熱に変えるのは、これは非常に無駄が大きいので今はあまり行わないんですが、将来的には再エネ、太陽光にしても風力にしてもまず電気ができるんですよね。電気が最初にあってそれを熱に変えて使うという流れに結局なっていくので、そういう意味では電気を熱に使う、一見ある意味無駄に見えるプロセスが、今後多分主流になっていかざるを得ないのかなと思っているので、それに対する準備を今のうちに始められるといいのかなと思っています。
再エネの電気を熱に変えるといったことも次第に増えてくると、省エネと合わせてだんだんゼロカーボンに近づいていくけれども、すぐには実現できないので、まず廃棄物の熱を工場で利用するケースのように、経済的なメリットも期待できて取り組みやすいところから始めて、だんだんゼロカーボンの方向にシフトしていけるといいのかなと考えています。これらが最近の研究ということになります。
今挙げたような仕組みについては、多様な主体でエネルギーをシェアするので、「産業スマートエネルギーシェアリング」といっています。例えば北九州市では、それに関する研究会ができていて、自治体や企業の方々とも一緒に検討しています。似たような研究を海外でもこれから展開していこうとしています。タイやインドネシアや中国などでも取り組んでいます。
*1)コジェネレーション:二つのエネルギーを同時に生産、供給する仕組みのこと。ここでは電気と熱の供給をすることを指します。