社会システム領域では、温室効果ガス排出量の予測、対策や影響を評価するための統合評価モデル「アジア太平洋統合評価モデル(AIM:Asia-Pacific Integrated Model)」の開発に京都大学やみずほリサーチ&テクノロジーズ(2021年3月までみずほ情報総研)と共同で取り組み、アジアの国々とともに発展させてきました。さらにAIMを通じた人材育成も行い、アジアの持続可能な発展に貢献しています。
AIMについて
AIMは、社会、経済活動から排出される温室効果ガスの予測や、その蓄積、気温上昇など環境の変化や気候変動による影響を分析するためのコンピュータシミュレーションモデルの総称です。国レベルの政策検討だけではなく、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)で世界および地域の排出シナリオおよび地域における影響評価を行うために使用されるなど、さまざまなレベルにおける気候変動対策にかかる政策検討に用いられています。
AIMの歴史は1990年にさかのぼります。アジア太平洋地域では経済の発展とともに温室効果ガスの排出量が急増しつつありました。対応策の選択を誤った場合、同地域からの温室効果ガス排出量は2100年までに地球全体の排出量の半分を占めることになると推計される中、地域の政策決定者と科学者の間のコミュニケーションツールが必要だとして、対策や政策を統合的に評価できるAIMの開発が始まりました。
モデルは、現実の社会から分析対象となる要素を取り出し、取り出した分析対象を最もよく説明できる理論に関連付けて構築されます。現状の解析により、取り出した各要素の関係性を明らかにするとともに、様々な前提に基づいてシミュレーションによる将来予測を行い、対策の代替案を提示することもできます。
AIMプロジェクトチームでは、経済活動を評価する経済モデルと、エネルギーを中心としたエンドユースモデルを軸として、社会の課題に合わせたさまざまなモデルを開発して各種政策の評価や将来予測を行い、環境政策の検討に必要な情報を提供しています。
国際的なネットワーク
AIMプロジェクトチームは、「国の将来ビジョンを描くのは、その国の人たちであるべきだ」と考えており、アジア各国が自国の将来シナリオを作成することを可能にするための人材育成に力を入れています。 政策研究の共通分析ツールとしてAIMを使えるようにするため、AIMチームは1994年、環境省や日本学術振興会などの支援を受けながら国際共同研究プログラムを立ち上げました。各国の研究者にはモデルのひな型を提供し、モデル開発に必要なデータの収集からモデル開発、開発したモデルによる将来推計、さらに政策評価や政策決定者との議論までを実践してもらっています。