気候市民会議つくば2023を振り返って

執筆:松橋 啓介(社会システム領域 室長)
2025.12.22

 2023年に開催した「気候市民会議つくば2023」では74件の提言をまとめ、つくば市に提出しました。その後、市は、提言を実現するロードマップを作成し、また地球温暖化対策実行計画の改定においても提言を反映する作業を進めています。提言を政策にもれなく反映する気候市民会議つくばの特徴はどこにあるのかを振り返ります。

この記事のポイント

  • 気候市民会議の提言74件を2030年に実現するためのロードマップが作成されました
  • 「つくば市地球温暖化対策実行計画」にもこれらの提言が反映されています
  • 提言の政策への反映と実現に向けたつくば市の姿勢は、気候市民会議を実施する中で段階的に強まっていきました
 

1. 気候市民会議つくば2023の実施と提言

 以前のコラムでは「気候市民会議つくば2023」の会議設計の工夫1)や無作為抽出の悩み2)を速報的に紹介しました。その後、2023年の9月から12月まで、気候市民会議は予定どおり実施されました。第1回ではゼロカーボンの必要性とまちの将来像について、第2回から第4回では移動・まちづくり、住まい・建物、消費・生活という3つのテーマ別に、取り組みや施策についての情報提供とアイデア出しが行われ、第5回では取り組みや施策の提言案のブラッシュアップ、第6回では提言を確定させる投票が行われました。その結果、750件のアイデアが79件の提言素案にまとめられ、87件の提言案から74件の提言が採択され、その場で市長に手渡されました。実施した詳しい内容は、つくば市の気候市民会議つくばのwebページ3)から各回の資料や情報提供動画、報告書をたどることができます。また、設計と運営の特徴は論文4)にまとめて公表しています。この論文では、気候市民会議が実施主体の意向に影響されることを避けるため、中立的な主体が設計と運営を行うことの重要性も指摘しました。報告書は、同様の会議を実施したいと考える自治体の参考になり、各回の資料や情報提供動画は大学等での講義や分析研究に活用されています。
 
 提言では、3つのテーマ(移動・まちづくり、住まい・建物、消費・生活)別に各5~6項目の都市像、つまり、ゼロカーボンで住みよいつくば市のイメージを示し、その実現のために推進する取り組みあるいは効果的な施策を2~8件ずつ整理しました。つくば市以外の自治体の提言にも共通する取り組み・施策としては、徒歩や自転車などの移動を促進するための屋根や街路樹のある通行路整備やポイントの付与、断熱改修への補助、排出量の見える化、地産地消などがありました。特徴的なものを挙げると、移動・まちづくりに関しては多様な働き方や信号のAI制御があり、消費・生活に関しては各主体の連携があります。また、住まい・建物に関しては、断熱性の高いモデル施設の整備、太陽光や蓄電池普及のルール作り、空調等のAI自動制御、研究機関の取り組みが挙げられました。

2. 提言を実現する動き

 「提言にはすべてもれなく対応する」と市長が事前に約束していたことを受けて、つくば市は「ゼロカーボンで住みよいつくば市へのロードマップ」を2024年10月に作成しました。副題は「気候市民会議つくばの提言実現を目指して」であり、「すべてもれなく対応する」との約束は少なくとも第一段階は達成されたといえます。ロードマップの作成においては、気候市民会議で情報提供者をつとめた専門家に協力を仰ぎ、ロードマップ策定の各担当課との相談の場を設けることで、各担当課の提言への理解を深めながら実効性の高いロードマップとしていくことが目指されました。

 ロードマップでは、提言内容を令和12年度(2030年度)までに実現することを目的として、いつまでに・どのような目標を持って・どのように取り組むのかを定めます。そこで、実施工程を3つのフェーズに分け、市民、国、県、事業者等の関係者と協力して実施する事項とステップを年度ごとに具体的に示す個票を77項目示しました。また、定期的に進捗管理と見直しを行うとしており、2024年度の実績ダッシュボードでは、77項目のうち74項目で順調な進捗状況にあると評価しています。2025年度には検討から計画や実施のフェーズに移行する項目が多いことから、適切な進捗管理と取り組み・施策の加速が重要といえます。

 2025年度には、「つくば市地球温暖化対策実行計画区域施策編」の改定が始まりました。計画の方針として、まち・建物の脱炭素化、脱炭素モビリティの普及促進、脱炭素型ライフスタイルへの転換、再生可能エネルギーの導入促進と活用、気候変動への適応、各主体の連携による環境と経済の好循環の6つを挙げ、全体で20の施策に取り組む体系としました。気候市民会議提言ロードマップの推進そのものが施策の1つとされ、具体的な施策の大半は提言で挙げられた項目で構成されています。さらに、各方針の施策には指標が紐づけられ、その達成に向けて進捗管理がされます。

3. フォローアップ・イベント

 気候市民会議つくば2023から2年が経過した2025年11月にフォローアップ・イベント3), 5)を開催しました。イベントでは、まず、気候市民会議つくばの概要、提言の概要、ロードマップの概要と進捗、実行計画改定の状況について、上述のような内容を報告しました。

 会場およびオンラインからの質疑応答では、進捗をより分かりやすい指標で市民に伝えることの重要性が指摘されました。また、謝礼を現金とした理由が質問され、使える店舗が限定されないこと、源泉徴収が不要となる確認が市で取れたためと回答されました。さらに、削減目標に足りるかとの質問には、定量化できない側面が多くあることが市から回答されました。実行計画へのパブリック・コメント募集が今後行われるため、多くの意見を出すことが呼びかけられました。

 続くパネルディスカッションでは、「自治体において、気候市民会議を実施することの意義は?」をテーマに意見交換をしました。自治体を対象とすることで消費・生活面の対策を考えやすいこと、市民の話し合いを通じて「自分ごと化」が促進されること、くじ引きで選ばれた市民が集まって話し合う機会そのもの、提言が施策に反映され市民の取り組みを促しやすいことなどの良い点が挙げられました。また、気候市民会議の実施が難しい理由として、行政や議員にとっては自分たちのコントロールが効かない話し合いで決められる提言に対しては不安を感じやすいことが指摘されました。しかし、実際に気候市民会議をやってみると、大きな市民意思の塊ともいえる提言は、政策を実施する上での正統性が極めて高い(みんなが適切と認めやすい)ことから、政策推進の強力な後押しになることが分かったとのことでした。さらに、国で取り組むべき税制等の政策がゼロカーボンの実現には必要であることから、自治体での取り組みを先行して積み重ねて、いずれは国等での気候市民会議を実施できれば望ましいことが確認されました。

 最後に、「市民の声(提言)を温暖化対策(実行計画等)に反映するには?」をテーマとして、参加者間でのグループ対話を25分ほど行いました。気候市民会議の継続的な実施や提言の進捗管理、若年層の参加機会の拡大などの意見が出され、その場にいた方々で共有されました。

4. 対応から実現へ

 つくば市でも、他の自治体と同じように、市民提言をもれなく実現する約束を事前にすることへの不安はありました。しかし、実際にやってみたところ、くじ引きで選ばれたミニつくば市ともいえる気候市民会議から生み出される提言は市民意思のまとまりであり、ゼロカーボンで住みよい地域を実現する取り組み・施策として実現すべき内容であることが分かりました。具体的には、気候市民会議つくばの提言について事前約束をする段階では、どういう提言が出てくるか分からず不安を感じていたことから「もれなく対応する」と表現していました。その後、多くの参加希望者を得たことに手応えを感じて、第1回の開会の市長あいさつでは「基本的にはすべてやる、実際のつくば市の環境の政策になる」と発言されました。提言を受けたロードマップの作成では「提言実現を目指す」と示され、提言の政策への反映と実現に向けたつくば市の姿勢は、段階的に強まっていきました。

 実現につながる提言を得るためには、会議設計の工夫1)に加えて、中立的な主体が設計と運営を行うこと4)も有効であったと私は考えています。なお、残念ながら、気候市民会議つくばの後に続く国内の自治体版気候市民会議では、参加希望者の割合は5%程度にとどまっています。今回、年間5万円未満であれば源泉徴収が不要であるとの見解が得られています。この範囲内での謝礼の増額が検討されることを期待しています。

 今後の課題は、多数決だけでない民主主義的な方法である市民会議を気候変動以外のテーマでも実施すること、市民会議のおもしろさを他の自治体に伝えていくことです。また、温室効果ガスの削減目標の達成に向けては、提言の実現に向けて投じる金額や関わる主体の範囲が大きく影響するため、施策にかける予算と効果が高められるように見守っていく必要があります。さらに、提言に含まれなかったけれども効果的な取り組み・施策がないか、見直していくことも重要です。「ゼロカーボンで住みよいつくば市」を実現するロードマップは2030年、2050年へと続きます。

執筆者プロフィール: 松橋 啓介(まつはし・けいすけ)
博士(工学)。つくば市環境審議会委員とつくば市地球温暖化対策実行計画区域施策編の策定部会長を務めています。気候市民会議の情報提供者等が策定部会に計5人いて、活発な議論が交わされました。