気候市民会議つくばで市の縮図となる参加者をどうやって選んだか

執筆:松橋 啓介(社会システム領域 室長)
2023.10.30

 2023年の9月から12月まで気候市民会議つくば2023を実施しています。無作為で市民に案内を送付し、参加申込をした人の中から抽選(くじ引き)で、年齢層等の属性が「市の縮図」となるように参加者を選びます。幸い、多くの参加申込を得たことで、気候変動問題への関心についてもバランスを取った多様な参加者を選ぶことができました。一方で、「2050年にゼロカーボンで住みよいつくば市」について話し合うために、何歳から何歳までの市民を対象にすれば良いのか、居住地ごとの年齢構成の違いも考慮するのか、参加できない市民の意見をどう取り入れるのかなどの悩ましい点もありました。

この記事のポイント

  • 気候市民会議つくば2023で、「市の縮図」となる参加者を得るために抽選(くじ引き)を行った
  • 多くの参加申込を得ることができたため、気候変動問題への関心度について一定のバランスを取ることができた
  • 何歳から何歳までの市民を対象とすれば良いか、悩ましい点もあった

1. 16歳以上のつくば市民5,000人に気候市民会議の案内状を郵送した

 気候市民会議とは、抽選(くじ引き)で選ばれた市民が、専門家等からの情報提供を踏まえて話し合い、気候変動対策をまとめて提言する、市民参加の手法です(一つ前の記事はこちら)。参加者が「市の縮図(専門的には「ミニ・パブリックス」と呼びます。)」となるようにすることが理想的です。

 まず、2023年6月に、つくば市の2023年4月時点の住民基本台帳(総人口252,286 人)から、16歳以上の市民5,000人を無作為に選びました。16歳以上としたのは、できるだけ若い世代の意見も聞くこと、謝礼の支払いを受けることができることなどを勘案したためです。

 2022年までの気候市民会議の開催事例から、案内に対して参加を申し込む割合(応諾率)は5%未満にとどまるおそれがありました(表1)。一方で、参加者50人の市の縮図を作るためには、その5~10倍(抽出倍率)の申込がないと年齢や居住地区のバランスを取ることが難しくなります。そこで、5,000人を選び、応諾率を上げるための努力をできる限りすることにしました。
 
 また、案内状には気候変動問題への関心度等に関するアンケートを同封し、参加・不参加に関わらず、回答をお願いしました。

表1 国内自治体レベル気候市民会議の案内、応諾、依頼の数

2. 想定以上の申し込みが得られた

 1,146件の返信がありました。そのうち、569人が参加を申し込み、153人が参加を迷っているとの回答でした。他の方は、参加はできないとの回答でしたが、アンケートには答えてくれました。

 表1の他地域との比較をみると、回答率22.9%は気候市民会議へのつくば市民の関心の高さを示していると思います。また、応諾率は11.4%となり、これまでの実績の3%程度と比べるときわめて高い反応でした。

 この理由は何だったのでしょうか。簡単に考察すると、以下の9項目の他、さまざまな要因が総合的に影響したと考えられます。
(1)気候市民会議へのつくば市民の関心の高さ
(2)自治体版の気候市民会議の広がりが知られつつあること
(3)謝礼の金額の高さ
(4)提案をもれなく反映させる約束をしたこと
(5)ゼロカーボンと住みよさの両立に向けて市民の取り組みと市の施策の双方の転換を考えるといった話題への関心
(6)市長からの呼びかけ文
(7)開封して読みたくなる封筒と案内状のデザイン
(8)本人の都合が悪い場合に家族の申込を認めたこと
(9)参加に支援が必要な方はお気軽にご相談くださいとした配慮など

 このうち、(3),(4),(5)は、5月の記事でお話した本会議の主な特徴です。もう一つの特徴である市民全体からのアイデア募集を行ったことは、間接的に(1),(2)に貢献した可能性があります。 (6),(7),(8),(9)は、5月以降に新たに工夫した点です。

3. 二段階目の抽出は難しく、設定は手探りだった

 569人の申込者を対象に、次の手順で二段階目の抽出を行い、参加意思の最終確認を経て、50人の参加者を決定しました。

 まず、2022年度までの他地域での事例での抽出倍率は1~2倍程度だったため、申込者のほぼ全員に参加を依頼する状態に近く、二段階目の抽出に関する経験やノウハウが多くはありませんでした。そのため、「可能な限り最も公平な選出アルゴリズム」とされている、市民抽選用のwebツール Panelotを用いることにして、その設定を手探りで行いました。

 基本的に、つくば市の性別、年齢層別、地区分類別の人口構成の割合で抽出することとしました。
年齢層は、16~19歳、その後10歳刻みで、70歳以上の7区分としたところで、50人の枠をどのように配分するのか、悩みました。これらの年齢層の人口の割合で配分すると、16歳未満の枠はゼロになる一方、70歳以上の最高齢の枠が多くなります。他地域の事例では75歳未満、80歳未満に制限していましたが、参加者の年齢に上限を設けることへの違和感もあります。

 2050年のつくば市について話し合う際に用いるべき「市の縮図」とは何か。すっきりとした正解らしきものは見つけられないまま、最終的には、全年齢層について50人の枠を配分し、最低年齢層と最高年齢層の人数を再配分することとしました。80歳以上は市民全体の約6%、16歳未満は約16%で、50人に換算すると各々3人と8人になりますので、80歳以上3人分を、50~59歳、60~69歳、70歳以上に1人ずつ割り振りなおし、16歳未満8人分を、16~19歳、20~29歳、30~39歳、40~49歳に2人ずつ割り振りなおしました。

 図1に示すように、一番外側の市民の年齢構成に対して、一つ内側に示す申込者の年齢構成が40歳代でやや多く、60歳代でやや少ない傾向にありますが、上記のようにして、一番内側に示す年齢構成を参加者の年齢構成としました。

図1(左) 市民-申込者-参加者の年齢構成、図2(右) 市民-申込者-参加者の地区構成

 居住地区については、研究学園、TX沿線地区、および既成市街地等(茎崎、桜、大穂、谷田部、筑波、豊里)の3地区に分けました。図2に示すとおり、研究学園からの申込者の割合が多いものの、参加者の居住地区が全市民の地区構成に合うように50人の枠を割り当てました。

 性別は、申込者に占めるどちらでもない・無回答の割合と、市民の性別の割合を勘案して、女性24~25人、男性25~26人、どちらでもない・無回答0~1人としました。

 しかしながら、抽出を試行したところ、年齢層別、性別、居住地区別には、設定通りの結果が得られるのですが、ある特定の年齢層に男性が多く、他のある特定の年齢層に女性が多いという偏りが生じました。参加者の多様性を保ちたかったため、各年齢層別に男女比が同じになるような条件も設定しました。この場合、性別がどちらでもない・無回答は、全年齢層で0~1人としました。なお、居住地区別の年齢層別の結果ついては、違和感がなかったため、この設定はしませんでした。

4. 気候変動問題への関心でもバランスを取った

 気候市民会議つくばへの申込者は予想以上に多く、参加を迷っていると回答した153人を含めなくても10倍の抽出倍率が得られたことから、気候変動問題への関心度についてもバランスを取ることにしました。つくば市全体の気候変動問題への関心を調査したデータがないため、今回5,000人に聞いた1,146件の回答での割合に合うように抽出しました。図3に示すように、申込者は「とても関心がある」とする割合が多かったのですが、市の縮図とすることを考えて、図中の参加者の割合(一番内側)は一番外側の回答者全体の割合に近づけるようにしました。

図3 回答者-申込者-参加者の気候変動問題への関心度

5. 参加者の代表性ではなく意見の多様性

 「市の縮図(ミニ・パブリックス)」をつくって話し合うことは気候市民会議の大きな魅力の一つですが、今回、その抽出を行ってみて、難しさを感じました。そもそも、50人では、数としても不十分であり、代表性や正統性を主張することのハードルは相当高いとの指摘もあります。そのため、参加者の属性のバランスを取ることで代表性を示そうとすることはあきらめて、できるだけ多様な意見・アイデアを取り入れる努力を続ける一環として「市の縮図」をつくることが重要と認識するようになりました。 具体的には、参加者には、性別や年齢や居住地区等の属性の代表としてではなく、個人の経験や考えに基づいた多様な意見・アイデアを市民会議の場で出してもらうことが重要です。また、今回の参加者とならなかった市民にも、広く意見・アイデア募集をする機会に多くの多様な意見・アイデアを出してもらうことが重要です。そのために、今後の気候市民会議での運営では、意見・アイデア出しのハードルを下げることが課題になります。

執筆者プロフィール: 松橋 啓介(まつはし・けいすけ)
博士(工学)。 気候危機対応研究イニシアティブ内の連携テーマ「脱炭素つくば」の主担当をしています。「ゼロカーボンで住みよいつくば市」の実現に向けた気候市民会議つくば2023の実践だけでなく、「ゼロカーボンで良い研究成果をあげる国立環境研究所」の実現も中長期的な課題です。

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今回の執筆者から皆様への質問:9月から12月まで6回の日曜日午後13-17時に開催される市民会議への参加案内が来たとしたとき、どういった条件が整っていたら参加しやすくなりますか?(話し合いの雰囲気が安心できる、子どもの世話をしてくれる、内容があまり難しくない、謝礼が1回○○円くらいもらえる、など)