気候市民会議をつくばで行うことになり、その会議設計を考えています

執筆:松橋 啓介(社会システム領域 室長)
2023.5.31

 2021年に川崎市で行われた気候市民会議では、参加者は、20~30年先の社会を想定して子や孫などの視点で考え、気候変動対応について話し合うことができたと自己評価しています。
 2023年につくば市でも気候市民会議を行います。国内4事例と英国2事例の地域版気候市民会議の事例比較を通じて、現時点でもっともよい気候市民会議を実施することを目指して、次のポイントに挙げる4つの工夫をしています。
 気候市民会議の取り組みを見かけたら、積極的に参加してください。また、ゼロカーボンで住みよい地域を実現するアイデアをお寄せください。

この記事のポイント

・ 国内外の事例の比較整理を踏まえて望ましい基本的な会議設計を検討し、つくば市の会議設計では、以下の4点を工夫した
(1)広くアイデアを募集して話し合いの資料の材料とする、(2)謝礼の金額を増やして多様な市民の参加を促す、(3)市民の取り組みと市の施策の双方の転換を考える、(4)提案をもれなく反映させる約束をする

1.気候市民会議とは?

 気候市民会議は、くじ引きで選ばれた市民が、専門家等からの情報提供を踏まえて話し合い、気候変動対策をまとめて提言する、市民参加の手法です。2020年ごろから、欧州各国で広がり、日本国内でも、札幌市、川崎市、武蔵野市、所沢市で開催されています。

脱炭素かわさき市民会議に実行委員として関わった経験

 私は、実行委員の一人として「脱炭素かわさき市民会議」(2021年5月~10月)の実施に携わり、移動のテーマに関する専門家としての情報提供と提言のたたき台の作成を行いました(参考文献1)。

 全体で77項目の提言は、市長に手渡され、川崎市の地球温暖化対策基本計画および地球温暖化対策推進実施計画に反映されました。移動に関する27項目に着目して市の計画を詳細に見ると、市民提案はおおむね受け入れられている一方、宅配の脱炭素化、自転車道の大幅拡充、EV(電気自動車)普及の数値目標、集合住宅における充電器の整備の工夫といった提案については、触れられていないことが分かりました(参考文献2)。

 そのときのアンケートの結果は図1の通りで、参加者の約83%は20~30年先の社会を想定して議論に参加し、約74%は自分の子や孫などの視点で考えることができたと評価しました。気候市民会議は、将来の持続可能な社会について話し合うことから、多くの参加者にとっては、自然に将来世代の視点で考える機会となったと考えられます。

図1 脱炭素かわさき市民会議のアンケート結果(抜粋)

つくばで気候市民会議を実施することに

 こうした経験を踏まえて、地元つくば市のゼロカーボンの実現に向けて気候市民会議の実施を市長に提案したところ、2023年に実施できることになりました。私たちは、その実施を全面的に支援することになり、つくば市の環境政策課と連携して、準備を進めています。

 まず、国内外の事例を集めて、企画設計の基本的な要素を比較して、気候市民会議を日本の自治体で行う際に満たすべき要素と望ましい要素を整理する表を作成しました(参考文献3)。

 こうして明らかにしたおススメの基本的な設計を、気候市民会議つくば2023の企画設計に反映させました。具体的な内容は、市の広報や気候市民会議つくばのwebページ(参考文献4)でお知らせします。

2.現時点の計画での4つの主な特徴 

(1)広くアイデアを募集して話し合いの資料の材料とする

 9月~12月に開催する全6回の会議に参加できるのは、くじ引きで選ばれた16歳以上の市民50名に限られてしまいます。そこで、在勤・在学者を含め、全年齢の多くの方からアイデアを募集し、斬新なアイデアや多様な立場からの考えを会議の資料の材料として活用します。また、気候市民会議つくばに広く関心を持っていただくきっかけとなることも期待しています。

(2)謝礼の金額を増やして多様な市民の参加を促す

 参加者に対する日当や必要に応じた費用弁償などが支払われることも気候市民会議の特徴です。たとえば、アルバイトを休んで参加しても困らない条件を多少なりとも整えることで、気候変動への関心が必ずしも高くない市民を含む多様な市民が参加しやすくなる効果が期待されます。

 国内の自治体が主催する事例では、一回あたり2千円か3千円の共通ギフトカードを謝礼としていました。しかし、会議が数回に渡ることもあって、数千人に案内を郵送しても、百人未満の参加申し込み者にとどまり、市民の縮図を作るためのくじ引きがうまくできない悩みがありました。

 そこで、気候市民会議つくばでは、一回あたり6千円と国外の謝礼の水準に近づけました。多くの参加申し込み者を得て、つくば市の縮図にできるだけ近い参加者の抽出をすることを目指しています。同時に、多様な市民の参加を期待していることが伝わるようにデザイン上の工夫(図2)もしています。

図2 気候市民会議つくば2023の広報イラスト案

(3)市民の取り組みと市の施策の双方の転換を考える

 ゼロカーボンで住みよいつくば市を実現するための行動や施策について話し合う際には、市民の行動を先に考えて、その後押しをする施策を話し合う手順が考えられます。しかし、それでは、いまの状況やしくみに制約されて、ゼロカーボンに必要な大きな転換について話し合うことが難しくなる可能性があります。

 そこで、気候市民会議つくばでは、将来世代の視点を取り入れて、ゼロカーボンで住みよいつくば市の将来像を先に話し合い、そこでの行動や将来像を実現するために必要な施策をバックキャスト的に考えることで、行動と施策が同時に転換することを前提とした自由な意見を出しやすくなるように、会議を進めたいと考えています。

(4)提案をもれなく反映させる約束をする

 つくば市は、提案について、もれなく必ず対応することを約束しています。地球温暖化対策の計画等に反映できない提案については、その理由を説明することになっています。こうした事前の取り決めは、気候市民会議の成否を大きく左右すると指摘されています。

 その一方で、より良い提案をつくるために、できるだけ多様な参加者を集めること、多くのアイデアを集めること、多様なアイデアから市民と参加者が共感・納得できる提案をまとめること、提案ごとに参加者が支持する割合を投票で示すことといった工夫を進める予定です。

3.ぜひアイデアをお寄せください、参加してください

 くじ引きで選ばれた市民が話し合って公共善となるビジョンを見いだす手法として、気候市民会議は大きな魅力を持っています。しかし、実際に、良い成果を得るためには、できるだけ多くのみなさんが関心を持ち、貴重な時間を投じて意見・アイデアを出し、参加の申し込みをすることが必要です。また、みなさんの地元での気候市民会議の実施や参加に関わってみてください。

 なお、気候市民会議つくばの準備にあたっては、多様な組織の多くの人に連携・協力いただいています。

執筆者プロフィール: 松橋 啓介(まつはし・けいすけ)
博士(工学)。気候危機対応研究イニシアティブ内の連携テーマ「脱炭素つくば」の主担当をしています。「ゼロカーボンで住みよいつくば市」の実現に向けた気候市民会議つくば2023の実践に関わることは、環境システム工学とまちづくり・都市計画に関する自身の知見を実社会に活用できる非常に良い機会であると考えています。

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今回の執筆者から皆様への質問:この記事にある「気候市民会議」があなたの住む市町村などで開催されるとした場合、あなたはどうしたいと思いますか?