気候変動による被害やGHG排出量の将来推計値は、用いる気候モデルなどによって異なります。また、新しい知見が得られれば、被害の額も変わります。今回は、下記の公表されている研究論文のデータを用いました。被害額もGHG排出量も、それぞれ五~六つの計算モデルの平均値を用いています。
また、三つの世代(2010~2039年、2040~2069年、2070~2099年)の各データは、「1人あたりの値」や「GHG排出量あたりの値」などと言うように、いずれも分母と分子を有する値です。各分母ならびに各分子は、当該30年間の合計値を用いて算出しています(各年の値を算出してから30年間の平均値を求めた値ではありません)。
Takakura J., Fujimori S., Hanasaki N., et al. (2019) Dependence of economic impacts of climate change on anthropogenically directed pathways. Nature Climate Change, 9, 737–741. (https://doi.org/10.1038/s41558-019-0578-6), データはhttps://doi.org/10.5281/zenodo.4692496より)
Gütschow J., Jeffery M.L., Günther A., Meinshausen M. (2021) Country-resolved combined emission and socio-economic pathways based on the Representative Concentration Pathway and Shared Socio-Economic Pathway scenarios. Earth Syst. Sci. Data, 13, 1005–1040. (https://doi.org/10.5194/essd-13-1005-2021, データはhttps://doi.org/10.5281/zenodo.3638137より)
ここで、被害額は、洪水の多発化、海岸の浸水、熱中症などによる死亡率の増加、それを防止する労働衛生・健康管理費用の増加、冷暖房需要の増加、農業生産性の低下、栄養不足の発生、冷却水の温度上昇等による火力発電の能力低下および水力発電の能力低下という九つの被害額を総和したものです。
しかしながら、これまでに観測されている気候変動の被害を全て計上できているわけではありません。IPCCの第6次評価報告書で指摘されている気候変動の影響、損失・損害としては、図6に示すものが指摘されています。例えば、感染症の拡大と死亡者等の増加は、今回のダッシュボードで示されている値には計上できていません。

図6 IPCCの第6次評価報告書で指摘されている気候変動の影響、損失・損害
(出典)国立環境研究所(編・訳)(2023)IPCC第6次評価報告書 統合報告書 政策決定者向け要約 解説資料, p.6