気候変動の緩和と影響を計算する

vol.3-1 藤森 真一郎 研究員<前編>
2016.9.8

インタビュー対象

昨年9月に、地球環境論文奨励賞を受賞された藤森真一郎研究員にインタビューを行いました。

インタビュー内容<前編>

(杦本)地球環境論文奨励賞のご受賞おめでとうございます。ご自身の普段の研究の様子や、受賞論文についてインタビューさせてもらいたいと思ってます。まず、普段のご研究のテーマはどういったものになりますか?

 (藤森)紹介文にも簡単に書いたんですけど、「緩和策」と言うとちょっと言葉が難しくなってしまうのですが、将来の温室効果ガスの削減にかかる費用や、どれくらいの気温上昇に気候変動を抑えるために、どれくらいの努力が必要かといったことを計算しています。そういったことを計算するためのコンピューターシミュレーションモデルを作り、そのモデルを使って計算するということが実際の作業になります。
 それと並行する形で、気候が変わっていったときに、経済的な影響がどの程度あるのかという分析も行っています。将来、気候が変わったときに何が起こるのかというのは、例えば農業産物がとれなくなる、あるいは洪水が増えるといったことが想像されますが、その影響を、経済的な価値に換算します。農生産が影響受けて、世界全体で見ると1兆円の損失が出ますねとか、あるいはそれによって飢餓に直面する人がどれくらい増えますね、とかいうようなことです。この研究は主に長谷川さんのほうが主導してやってくれていますけど、一緒にやっています。ここの研究(受賞した論文)にも同じモデルを使っています。

気候変動が起こったらどういう影響があるかっていうことをお金に換算する、それを計算するためのモデルを作っているというような感じですね。

そうですね。はい。このような研究ではCGEモデルを用います。(参照:コラム:CGEモデル/応用一般均衡モデルとは?)
 最初に言った緩和策の分析でよくやるのは、例えば、二酸化炭素を排出することに価格を付けるとしましょうということをします。そうすると、価格を付けなかったときと付けたときで、人々の行動が変わるはずです。つまりガソリンを1リッター燃やしたら、あなたは10円余分に払いなさいとかいうようなことを言われたら、おそらくその行動は変わります。それがまた経済全体の中でガソリンだけでなく様々なもの、サービスの価格とか生産量とかを変えるので、最終的に需給が均衡したところでガソリンや石炭などの二酸化炭素を排出する化石燃料の消費量を計算して、数値が出てきたら、「あ、二酸化炭素排出量が減りましたね」となるかなとみているわけです。結果として、炭素の価格は例えば、1トンの二酸化炭素を排出するのに1万円払ってと政府が決めれば、二酸化炭素排出量を20%削減できる、というようなことを計算します。
 

受賞された論文の内容は、かいつまんで言うとどういった内容になっていますか。

 二酸化炭素の排出量を下げるためには、大きく分けて言うと2つ対策があります。1つ目は技術的な対策です。エネルギー効率のいいものを使うとか、あるいは二酸化炭素を排出しない技術に替えていく。発電はとても分かりやすい例だと思います。石炭から再生可能エネルギーに替える、あるいは石炭火力を使うとしても燃料効率のいいものにするということが想像で切ると思います。いわゆる省エネの中でも効率のいいエアコンを買うというのもこの範疇になります。
 2つ目は、そもそもエネルギー需要自体を下げてしまうという対策です。これは機械を使った省エネのさらに1つ手前で、僕らの行動に関わる部分です。生活そのものを変えてしまう、都市の設計を変えて人々が自動車を使わなくてもいいようにするとか、あるいは建物を鉄ばかり使わないとかいった対策があると思うんですよね。
 それで、この1番目の技術に関する対策に関する分析は、既往の研究でもよくやられてきた研究で定量化がしやすい部分です。情報としてもある程度ありますしね。

 でも、それだけじゃなくて、やはり2つ目の対策も効果があるはずだろうと想像できるので、その対策をやったらどのくらいコストを下げられるのかということでスタートした研究でした。同じ排出量にするのに、例えば国全体で二酸化炭素50%削減を達成しないと決めた時に、技術的対策だけで対処した時と、技術プラス人々の生活を変えたときで、どれくらいその費用が変わるのかということを分析し、定量的に示したのが、今回の論文でした。
 当然ながら、技術だけに頼るとお金がかかります。余分にエネルギーを使いますからね。その部分を減らせれば、省エネ機器を導入する量も減りますし、再生可能エネルギーも必要な量が減ると予想して計算した結果、どうも4分の1くらい費用を抑えられるということが分かりました。

そこが受賞で評価された点になるわけですね。

そうですね、はい。

今回受賞されて、ご感想はありますか。

感想。うーん、(賞を)もらっていいのかなっていうのは若干思います(笑)。

そうなんですか(笑)

僕がやってる研究は、どちらかと言うとモデルやデータの準備に労力と時間がかかりますが、今回の研究はどちらかというと入念に設計した研究というつもりはあまりなくて、できたモデルを少しアレンジして、出てきた結果を解析して論文に出した、という感じでした。(自分の中で)苦労がそんなに大きくなかったので、自分の苦労感と受賞されたことに対するギャップが若干あるな、と感じています。
 実は、当初この論文は書くつもりはありませんでした。ですが、甲斐沼さん(元社会環境システム研究センターフェロー)がこのテーマで絶対書いたほうがいいと強く勧められたので、書こうかなと思って書いた論文でした。なので、甲斐沼さんがいなければまったく実現しなかった受賞ですし、甲斐沼さんに対してはとても感謝しています。

なるほど、分かりました。ありがとうございます。

前半では普段の研究内容や、特に、モデルが可能にすること、についてお話しいただきました。
後半は研究者になったいきさつや、やりがいについてのお話です。

コラム:CGEモデル/応用一般均衡モデルとは?

 CGEモデル(Computer General Equilibrium Model, 応用一般均衡モデル)は僕らの業界では俗に言うと、経済モデルと言ってるものです。世の中で商品やサービスが売買されていますが、その世の中で動いてるもの全部を表現しているモデルです。ある程度の抽象化がされていますが、このモデルが得意なのは、いろんな産業や家庭が価格に応じてどういう行動を取るのか、温暖化政策をとった時と取らなかった時で各主体がどのような影響を被るのかということを表現することですね。

 分かりやすい例で言うと、僕らは物が高くなるとそれを買わなくなって、安い物を選ぶといったことをしますよね。例えばレタス高くなってきたらちょっとやめて安いピーマンにしようとか(笑)。ちょっと変な例かもしれないですけど、同じようなことで、ちょっとガソリン高くなってきたからちょっと交通を控えて、近くの公園で遊ぼうとかいったことが家庭の消費関数というところで表現されています。
 産業のほうはもう少し生産技術的なことを考えていて、さっき言ったように、例えば電力価格が上がってきたので、できるだけ電力を使わない機械を導入するといった行動が関数として入っています。でも、色んな人の行動によってさまざまなモノ、サービスの価格が変わるんです。その産業が、じゃあ仮に自動車工場としましょう。新しい最新鋭の機械を導入したがために、自動車のコストが上がり、自動車の価格が上がるとします。そうすると、その自動車価格が上がったら家庭では自動車を買う量をちょっと控えて、ほかのもの、例えば電車代を余分に増やします。すると次に、電車の需要が増えるので…というような変化の波及が全体として描かれている、というのがCGEモデルです。

(聞き手:杦本友里(社会環境システム研究センター)、2015年9月28日インタビュー実施) (撮影:成田正司(企画部広報室))