統合評価モデルAIMを学ぶためにJICA研修員6名が訪問

2024.7.23

 国立環境研究所社会システム領域は7月23日、国際協力機構(JICA)が実施する研修「国が決定する貢献(NDC)推進のための能力開発」に参加するエジプト、セネガル、フィリピンからの研修員6名を研究所にお迎えし、アジア太平洋統合評価モデル(AIM:Asia-Pacific Integrated Model)を気候変動対策の政策立案に役立ててもらうための研修を実施しました。本研修は今年で6回目となります。

写真1 JICA研修員にAIMについて説明する増井利彦領域長

 AIMは、アジア各国で社会情勢の変化に伴う将来の温室効果ガス排出量を予測し、対策や影響を評価するために用いられているコンピュータシミュレーションモデルの総称です。2015年に採択された「パリ協定」では、産業革命前からの世界の気温上昇を「2.0℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること」を掲げており、全ての締約国は温室効果ガスの排出削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として5年ごとに更新、提出する義務を負っています。研修は、NDCの策定や更新にモデルを活用してもらうために実施されました。

 増井利彦領域長がAIMの概要やアジア各国との研究協力、政策貢献について紹介し、続けてタイ、ネパール、インドネシア出身のCHAICHALOEMPREECHA Achiraya特別研究員、RAJBHANDARI SAINJU Salony特別研究員、ROSSITA Annuri特別研究員がそれぞれ、出身国において、AIMを用いた具体的な研究事例や各国での政策貢献について説明しました。例えばタイでは、2022年に提出した「長期低排出発展戦略」の更新版に、AIMを用いた分析結果が採用されていることなどが紹介され、熱心に説明を聞く研修員の姿が見られました。

 セネガルから参加したJICA研修員は、「アフリカでもAIMを用いた分析はできるのか」と質問し、増井領域長が「アフリカや中南米は地理的な事情でこれまで活用例がないが、ぜひこれから協力を深めていきたい」と答えました。また、「NDCは継続的に更新していく必要があるため、各国で適切な研究者と組んで、長期的にモデルを用いた分析が継続するようにしていただきたい」とも話しました。

 続けて、福島地域協働研究拠点(社会システム領域兼務)の五味馨室長が、将来の社会経済活動や導入される対策技術を踏まえて、対象年における温室効果ガス排出量を推計するExSS(拡張型スナップショットツール)について説明。その後、研修員は2班に分かれ、実際にExSSを用いて、架空の国家を対象に、将来の経済発展や人口変化、脱炭素に向けたさまざまな取り組みなどのパラメータを自分たちで設定し、シミュレーション分析を行いました。増井領域長は、「一つの正解を求めるのではなく、できるだけ多くのケースを想定してシミュレーションを実施し、議論を重ねていくことが何よりも重要です」と話し、研修員はExSSにさまざまな前提を入力してその結果を確認するなど、自ら体験しながら理解を深めていきました。

写真2 どのような国家を想定してシミュレーションを行うか、真剣な表情で議論するJICA研修員と、議論のアドバイザーとして参加した社会システム領域の特別研究員

 研修に参加した、フィリピン大統領府直下で気候変動対策の計画策定を行う「気候変動委員会」のEVANGELISTA Aimeeさんは、「楽しんで研修を受けることができました。モデルを用いることで政策への理解が深まることも分かり、フィリピンでも、私たちの統合評価モデルを開発すべきだと感じました」と話しました。

 AIMプロジェクトのメンバーは、開発途上の各国において、将来シナリオの作成や気候変動対策の実施を自国でできるようにするための人材育成に力を入れており、今後も国内外で、AIMの活用法を学んでもらうトレーニングワークショップを行ってまいります。

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