【最終回】将来世代を考慮する世の中の仕組みとは

執筆:田崎 智宏 (資源循環社会システム研究室室長、Beyond Generationプロジェクト・リーダー)
2026.4.22
2021年度から2025年度までの5年間の研究プロジェクトの総括として、「将来世代考慮レジーム」というものを提起しました。これは、将来世代の幸せと現世代の幸せを共に大切にしていく社会の仕組み・体制のことです。どのような仕組みが考えられるのでしょうか。連載記事の最終回をどうぞ。

この記事のポイント

  • 「将来世代考慮レジーム」の原則として、6つの指導原則案を示した。
  • 基盤となる制度は、監視的、醸成的、支援的制度の3つで構成される。人々の意思決定が短期志向になりがちな現実を認めつつも、自分達と将来世代の両方を大切にすることを実現させやすくする制度である。
  • 制度という基盤の上で、人々による将来世代考慮の議論と行動が実践される。目標設定と支援ツールの開発と活用を行って実践の有効性を高める。

1. Beyond Generationプロジェクトの3つの研究の柱を1つに~将来世代考慮レジーム

 Beyond Generationプロジェクトの3つの柱は、規範研究、指標研究、制度研究でした(この他、これらを支える意識調査研究がありました)。それぞれに研究成果を得ることができましたが、研究プロジェクトとしては、それらの知見、ならびに他の研究者や実践者の方々の知見一つ一つを積み木のように組み立てて、大きな絵姿として示していくことも大切です。

 そのような絵姿が、図1に示す将来世代考慮レジームです。図1の全体構造を見てみると、上から①原則、②目標と実践、③支援ツール、④基盤制度という構成をしています。一つ一つがどのようなものか①→④→②③の順に見てみましょう。

図1 提案する将来世代考慮レジーム

2. 将来世代と現世代のための指導原則

 ①の原則ですが、基本的人権に象徴されるように、人類は、人々が大切にすべきことを少しずつ合意し、発展させてきました。
 このような国際的な宣言や条約などにおいて、既に将来世代についてはかなりの程度言及されてきました(例えば、国連の将来世代宣言(2024)1) や人間環境宣言(1972)、環境権に関する国連決議(2022)、気候変動枠組条約(1992)やオーフス条約(1998))。そこで、既存の国際的な宣言や条約から、将来世代に関するキーとなる文章を取り出し、それを将来世代考慮レジームの6原則案(専門的には「指導原則」といいます。)として書き改めました。少し簡略して示すと、次のとおりです(詳細版は資料を参照)。

1. 将来世代がニーズを満たす能力を損なわない
2. 世代間の連帯が人類の繁栄の基盤として不可欠
3. 全ての人は、現在及び将来の世代のため環境を保護し改善する責任がある
4. 世代間の共通だが差異ある責任を考慮する
5. 貧困等の不平等と不公正の世代間伝播をなくす
6. すべての人は、公的機関が保有する世代間問題の情報にアクセスする権利がある

 平たくいえば、将来世代にマイナスになることはしないようにしましょう、現世代と将来世代との間の見過ごせない差異(格差)とともに同じ世代内の格差を是正しましょう、「よい環境」は誰にとっても大切です、将来にどんな影響があるかの情報にはみんながアクセスできるようにして、どうしたらよいかを考え議論できるようにしましょう、といったものです。このような原則が社会の羅針盤となるものです。

3. 将来世代考慮の3つの基盤制度

 続いて、④の基盤制度についてです。もし、原則があって、それだけで世の中がうまくいくのであれば制度は要りません。例えば私たちは、いろいろな法制度などがあることによって、それらの制度がないときよりもはるかに他の人から危害を受けることを心配しない生活などを営めることができます。それらは必ずしも法律によるものだけとは限りません。いろいろなルールや決まり事が、羅針盤たる原則を実現する制度として実際に使われ、役立っています。

 それでは、将来世代考慮においては、どのような制度が必要でしょうか。

 私たちのプロジェクトでは、3つの制度があるとよいという考えに至りました。人々が将来世代のことを考えることができない、というような性悪説にたった監視的制度がその一つです。監査のようなことを行う人や組織・部署を用意して運営する制度です。しかしながら、監視的制度には限界があるとも私たちは考えています。「監視されているから将来世代を考慮するという社会」と「自発的に将来世代を考慮しようとする社会」とでは、どちらがアイデア豊かに将来世代と現世代の両方を考えることができるでしょうか。
 そこで、人々は将来世代のことを考えることができるという性善説にたち、人々が将来世代のことを議論する「場」を作ることも大切で、そのようなことを担保する制度を「醸成的制度」と呼ぶことにしました。将来世代の考慮の仕方が醸成されると同時に、関わった人々のマインドがさらに醸成されるということを想定しています。日本ではフューチャー・デザインの考えに基づくワークショップが幅広い分野で行われてきています2), 3), 4) が、そのような「場」を想定しています。
 プロジェクト期間の最後の方で、これら2つの制度だけでは足りないのではないか、という疑問が湧いてきました。監視的制度のもとで監視を行う人にも、醸成的制度のもとで議論する人にも、将来がどうなるかの情報が必要だからです。私たちプロジェクトメンバーの関心事でいえば、気候変動の影響がどうなるか、その影響の程度がうまく人々に伝わっているか。また、それらの情報を読み解くにはある程度のリテラシーも必要となります。国連の将来世代宣言の第31条では「予見的計画、将来予見、将来リテラシーといった多様な能力を開発する」と述べられるに至ったように、未来を考えるリテラシーや能力を育む教育も必要でしょう。そこで、監視的制度と醸成的制度を運用していくためには、情報へのアクセス権と教育を提供・確保する「支援的制度」が必要になると考えたのでした。

4. 制度の運用と社会における実践を有効にするために~目標と支援ツール

 最後に②と③を説明します。それでは、基盤的制度が整備されれば、それだけで十分でしょうか。法律ができたら、それを施行していき、できるだけ有効な結果が得られるようにします。そして不十分な場合には見直しがされます。将来世代考慮レジームでも同様なことが行われることとなります。これが②の実践の部分です。

 有効な結果を得るために、しばしば用いられるアプローチが目標を設定することです。典型的な例は、持続可能な開発目標(SDGs)です。私たち研究グループは、SDGsの目標年である2030年が近づいていることから、ポストSDGsとして将来世代に関する目標を設定することを提案することとしました。当面は④の基盤制度の確立と普及が大切であることから、将来世代考慮制度の導入国数(あるいは導入国が占める割合)の目標を設定するのがよいと考えています。
 
 実践するうえでは、支援ツールが存在することも大切です。

 これまでの連載記事を読んでお気づきかもしれませんが、現世代と将来世代の両方を考慮することは、それほど簡単なことではありません。例えば、何をもって世代間衡平が確保されているかの判断基準を考えてみても、これまでの哲学の議論からは答えは一つではありません。あるモノをみんなで分け合うことを考えた場合に、一人一人への配分量を均等にする平等主義の考え方もありますし、そのときに生活に困っている人に多く配分する優先主義の考え方もあります。ある最低水準までは全員が満たされるようにする十分主義の考えもあります。

 このように、あらかじめ答えが決まっている問題ではないのが世代間の問題なので、人々が議論をすることは欠かせません。私たちのプロジェクトの規範研究では、どこにどのような世代間の見過ごされてはいけない格差や不衡平など(世代間コンフリクト)が生じるのかを多くの人が認知しやすい形で示すことで、将来世代のための議論が少しでも円滑に進み、また参加者の理解を深めることを支援することを目指しました。指標研究では、世代間の衡平性を示す指標5) や図解の方法6) の検討も行いました。多くの人が議論に参加しやすいようにデジタルプラットフォームで議論をする可能性も検討しました7)。これらのツールが③として位置付けられます。

5. 終わりに

 2024年には未来サミットで「未来のための協定」や「将来世代のための宣言」が採択1) され、将来世代考慮の気運が高まる一方で、2025~2026年には超大国が国際ルールを守ろうとせず、他国の主権を脅かし、民間人が死に至るという出来事を経験することとなってしまいました。将来世代どころか、現世代の幸せさえも、一部の人たちの判断で失われてしまっただけでなく、国際社会にとっても将来に禍根を残す出来事が起きてしまったのです。

 だからこそ、私たちは今一度、本当に大切にすべき原則やルールを回復し、一部の人たちによる危害を回避できる制度を創り上げる必要があります。将来世代考慮レジームは、そのような社会が築かれていくなかで、いつかは導入されるべき仕組みだと考えています。実際に導入できるかは、私たちの諦めない努力にかかっているでしょう(先日、将来世代考慮の年表8) を公表しています。長い歴史からみれば、この数十年で大きな進展があります)。

 未来のための協定では、将来世代は守られるべき存在だけでなく、「若者と子供達は、持続可能な発展、人権、平和と安全保障を推進する重要な変化の担い手である」としている点も見逃せません。彼ら彼女らとしっかりと取り組むことも大切です。

 これまでの連載記事を読んでいただき、ありがとうございました。
 Beyond Generationプロジェクトは終了しますが、他の環境研究や社会との実践活動のなかで、得られた知見を生かしていければと考えています。

執筆者プロフィール: 田崎 智宏(たさき・ともひろ) 博士(学術)。システム工学と政策科学の二つの専門性を活かし、時代の変化の先を見据えながら、社会の仕組みをより良く変えていく研究を行いたいと考えている。

参考文献