「将来世代」と一括りにしてもよいのだろうか

執筆:林 岳彦 (社会システム領域 主幹研究員)
2024.3.29

 「将来世代」とはどのような人々でしょうか。一括りに考えてしまってもよいのでしょうか。「将来世代の意見や選好」を一括りに考えられないとき、私たちは「将来世代のため」に何をすることを選ぶべきでしょうか?

この記事のポイント

  • 私たちは「将来世代」を一括りに考えていることが多い
  • 気候変動への認識の各国データを見ると、現世代のうち、同じ「若い世代」でも国により認識の傾向はまちまちであり、必ずしも一括りにはできないようである
  • 「将来世代のため」に何かをするときには、将来世代の意見や選好のあり方には依存しないような、規範的な原則に基づいて考えるべきだろう

1. はじめに

 「将来世代」とはどのような人々でしょうか。改めて考えてみると、例えば私たちが「将来世代のために」と言うときには、「将来世代の人々には何かしらのまとまった意見や選好がある・・・・・・・・・・・・・・・・・」ことを暗黙の前提として、それに応えることを考えていることが多いように思います。しかし、現世代の中でも個人や集団によっていろいろな意見や選好があるように、「将来世代」の意見や選好も決して一括りにはできないかもしれません。

 「将来世代」の意見を直接聞くことはできないので、この記事では一つの例として、現世代の気候変動への認識を取り上げてみます。ご存じのとおり、気候変動は長期的な問題であり、現世代の中でも、相対的に若い世代であるほど長く強くその影響を受けると予想されます。ニュースなどでも、気候変動への対策を求める若者たちのデモの光景がしばしば映されます。そのため、一般に「若い世代ほど気候変動の影響をより深刻に捉えている」と一括りに認識されていることが多いと思われます。しかし、本当にそう一括りに言えるのでしょうか?

2. 「若い世代ほど気候変動の影響を深刻に捉えている」のか?

 論より証拠ということで、アンケート調査で気候変動への認識を調べたデータを見ていきます。ここでは、近年の最も信頼性の高い国際調査データの一つである国際比較調査グループ(International Social Survey Programme、以下「ISSP」と呼びます)の2022年の調査データに基づいて議論します1)-3)。以下の図は、「気候変動の影響」への認識を尋ねた質問に対する若い世代の回答分布のデータです(この記事では便宜上、25歳未満を「若い世代」として、それ以外の世代と区別しました)。

図1 「気候変動の影響」への認識を尋ねた質問に対する25歳未満の回答結果

 質問は「気候変動が世界全体に与える影響について、0は『極めて悪い影響がある』、10は『極めてよい影響がある』とした場合、あなたのお考えは0から10のどこになりますか。」で、回答は0から10の11段階から数値で選択する形式になっています2)。この図では、悪い影響があると相対的に強く認識している0から2の回答について「高リスク回答」と定義し、「高リスク回答」を選んだ割合が少ない国を上から順に並べています。同じ25歳未満の若い世代でも、国によってその高リスク回答割合には一定以上の違いがあることがわかります。例えば、ニュージーランド、台湾、ドイツでは50%以上が高リスク回答をしているのに対し、中国、インド、ロシアでは25%ほどにとどまっています。このことは、同じ「若い世代」であっても、高リスク回答の割合には国によって大きな違いがあることを示しています。

 上の図での傾向は国ごとの事情の違いも反映しており、「国によって回答に違いがある」のは、特に「若い世代」に限った話ではないかもしれません。もし「若い世代ほど・・気候変動の影響をより・・深刻に捉えている」かどうかが見たいならば、それぞれの国内での「若い世代」と「それ以外の世代」の間での高リスク回答の差を比較・・・・したほうがよいかもしれません。ではそうした、高リスク回答の割合の「世代間での差」(=「25歳未満の高リスク回答の割合-25歳以上の高リスク回答の割合」)のグラフも見てみましょう。

図2 気候変動のリスクを高く認識している回答者の割合における「25歳未満-25歳以上」の差

 この図の横軸でプラスの値、つまり棒グラフが右の位置まで伸びている国は「若い世代ほど気候変動のリスクをより深刻に認識している」ことを、マイナスの値はその逆を意味しています。全体的に見るとプラスとなっている国が多いことから、平均的には「若い世代ほど気候変動のリスクを深刻に認識している」ことを支持している結果と言えそうです。しかしその一方で、その差が+10%を超える国は全体の3分の1ほどにとどまっており、中には日本のように若い世代の方が楽観的な国もあることが分かります。

 このことから、それぞれの国内での「若い世代」と「それ以外の世代」の傾向の差を見ても、国ごとにかなり大きな違いがあることが分かります。(なぜこのような違いが --- 特に日本において突出して --- 生じているかは興味深い問題であり、現在その背景要因についての調査を別途進めているところです。なお、本調査の他の質問項目の結果も見てみると、似たような内容の質問に対して同じ国での回答結果の傾向が一貫していない場合も散見されるため、一つの質問の結果から各国の一般的な傾向を議論することには一定以上の慎重さが必要です。また、上図の各国内でのデータに含まれている世代の割合は、各国の年齢分布を反映したものであるため、例えば、同じ「25歳以上」のカテゴリーでも高齢者の多い国では高齢者が多く含まれていることに注意が必要です。)

3.一括りにできない「将来世代のため」に何を選ぶべきなのか

 ここまで、気候変動の認識を例に、(たとえ現世代内の話であっても)国によって「若い世代」の回答結果には大きな違いがあり、その意見や選好を一括りに語ることは難しいことを見てきました。この議論を踏まえて考えると、さらに遠い存在である、まだ存在すらしていない将来世代の意見や選好を一括りに考えることはさらに難しいものと考えられます。例えば、私たちはやや無根拠に「将来世代は現世代に対して気候変動対策をより優先すべきだと望むだろう」と考えがちですが、もし未来に行って実際に聞いてみたら、私たちの予想とは違う反応が返ってくる可能性も否定はできません。(例えば、将来世代の一番の願いは「とにかく戦争の火種を撒くのはやめろ」というように、気候変動対策のことがかすんでしまうくらい別の問題のことを憂慮しているかもしれません。)

 では、私たちは「将来世代のため」に何をすることを選ぶべきなのでしょうか。また、「将来世代」を一括りにできないとき、その世代内にありうる意見や選好の違いについてどう考えるべきでしょうか。これはなかなか難しい問題です。現在のところの私の考えは、「将来世代の意見や選好にはどうしても不明な部分が残るので、将来世代の意見や選好のあり方には依存しないような、ある種の“一般的な原則”に基づいて何をするべきかを検討するべきである」というものです。そうした“一般的な原則”として参考になるのは、倫理学・法哲学・公共政策学・厚生経済学などで検討されてきた分配の公正性などを巡る議論になります。

 私たちのBeyond Generation プロジェクトでは、「将来世代のため」に、そうした視座や原則を(例えば)気候変動対策への政策立案においてどう盛り込んでいくべきかの具体的なアイデアを提供することを目指して研究を進めています。

執筆者プロフィール: 林 岳彦(はやし・たけひこ)
博士(理学)。環境データを用いたリスク分析や因果推論に従事してきた。現在は、科学的エビデンスと共同体および個人のナラティブの間に橋を架けるような集団的意思決定に向けての研究を深めたいと考えている。研究への想いを語ったインタビュー記事はこちらから。

記事へのご意見やご感想をお聞かせください。執筆者からの質問にも答えていただけると嬉しいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。ご意見などをからお寄せ下さい。
今回の執筆者から皆様への質問:あなたは今、(あなたの今の年齢のまま)1974年に生きていると想像してみてください。1974年にいるあなたの視点から見て、50年後の2024年の「将来世代」は何に一番困っていると思いますか?