世代をまたぐ社会的営みとしての災害復興

執筆:辻 岳史(福島地域協働研究拠点 主任研究員)
2023.9.19

 災害復興は、基本的には、その時被災した人々の生活を再建するために進められるものです。しかし、将来世代も災害復興と無関係であるわけでは決してありません。この記事では、災害復興に関するさまざまな政策や研究を手掛かりに、災害復興が将来世代に及ぼす影響や、現世代が気を付けるべきことについて考えました。

この記事のポイント

  • 大規模な災害からの復興は長期にわたって進められるため、その影響は将来世代にまで及ぶ
  • 現世代は将来世代のために災害に強い社会システムをつくるだけでなく、それを将来世代に引き継ぐための慣習や仕組みをつくることも大事
  • 将来世代のために災害復興を進めるべきと考える被災地域の人々は、約半数という調査結果がある。地域によっては、少数派になる可能性も

1. 災害復興の影響は将来世代にまで及ぶ

 2011年に発生した東日本大震災のような大規模な災害から、被災した地域が復興を遂げるまでには、とても長い時間がかかります。事故が起こった福島第一原子力発電所の廃炉は、2011年から数えて最長40年かかる見込みです 1)。また、福島県内の除染に伴って発生した土壌や廃棄物などを最終処分までの間、安全かつ集中的に貯蔵するために整備されている中間貯蔵施設(写真1)の使用期限は、使用開始の2015年3月13日から30年以内(2045年3月12日まで)と法律で定められています 2)

 今から30~40年先の日本社会は、廃炉については原子炉から取り出した大量の放射性廃棄物の処分、中間貯蔵施設については土壌や廃棄物などの福島県外への最終処分という「難問」に直面していることが予想されます。つまり、廃炉や中間貯蔵施設の終盤で、この難問に取り組むのは、私たちではなく、私たちの次の世代、あるいはその次の世代かもしれないのです。

 また、災害復興にかかる費用を、将来世代が負担しなければならなくなるかもしれません。福島第一原子力発電所の廃炉には8兆円、中間貯蔵施設の整備には1兆6000億円の費用がかかると試算されています 3) 。この原発事故の処理費用とは別に、2011〜2022年度の12年間で支出された東日本大震災の災害復興費用は40兆1780億円に上ります(復興庁発表) 4)

 東日本大震災からの復興の基本方針(2011年8月11日改定)には「復旧・復興のための財源については、次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合うことを基本とする」と明記されています。この方針に則して、復興の費用は所得税などに上乗せして徴収される復興特別税や、償還期限が他の公債より短い25年間となっている復興債などにより賄われ、現世代が負担することが基本となっています。

写真1 中間貯蔵施設(土壌貯蔵施設)の遠景(2018年8月30日筆者撮影)

 とはいえ、2011年に全国知事会が示したとおり、「復興事業の多くは将来世代も使用する社会基盤(道路や公共住宅、各種公共施設など)の整備であるため、復興費用の全額を現世代が負担することは必ずしも妥当ではなく、将来世代も負担すべき」という考え方もあります 5) 。今日、日本全体の財政状況がいっそう厳しくなっている中で、復興費用を将来世代が負担することの是非についての議論が将来的に本格化するかもしれません。

 このように災害復興は、要する時間が世代をまたぐということだけではなく、財政的な負担ということからも、その影響が将来世代にまで及ぶ社会的な営みであるといえます。

2. 将来世代は現世代の災害対策をそのまま受け入れるしかない

 災害復興が将来世代に及ぼす影響について、倫理的な視点から考えてみましょう。環境倫理学者の寺本剛は、将来世代は現世代の災害対策をまずはそのまま受け入れるしかなく、現世代がまともな災害対策をしていなければ、将来世代は選択の余地なくそのリスクを引き受けなければならないと指摘しています(寺本 2022)。

 現世代が「まともではない災害対策」を進めた結果、災害に弱い社会が将来世代に引き継がれてしまうことがあります。例えば、2005年に発生したハリケーン・カトリーナの被災地、ルイジアナ州・ニューオーリンズ市では、災害前から低所得者が多いアフリカ系アメリカ人は特定の地区に集住し、高所得者が多い白人系住民と居住地区が分断されていました。災害後にルイジアナ州が実施した「ロードホームプログラム(Road Home Program)」という被災者の住宅再建支援事業は、住宅の市場価値を基準に補助金が算出される仕組みであったため、市場価値が高く、主に白人系住民が住む地区の被災者が十分な補助金を受け取って住宅を再建した一方で、市場価値が低く、主にアフリカ系アメリカ人が住む地区の被災者が十分な補助金を受け取れず、後者の地区では住宅の再建が滞り、荒廃してしまいました(Gotham 2014)。

 ニューオーリンズ市では、災害前からみられた人種や居住地区の分断が、ロードホームプログラムという災害復興事業によって、災害発生後にかえって大きくなってしまいました。社会的・空間的に分断されたニューオーリンズという都市の構造が、災害復興を経て、将来世代に意図しないかたちで引き継がれてしまったともいえます。

3. 災害復興において、被災地域の人々はどのように将来世代を認識しているか?

 それでは、被災地域の人々——被災地域で災害復興に取り組む現世代の人々——は、どのように将来世代を認識しているのでしょうか。

 東日本大震災で被災した地方自治体(被災自治体)が策定した復興計画(被災地域の災害復興に関する理念・目標、目標を達成するための政策をまとめたもの)をみると、「子ども」など、次世代に関する言葉がキーワードになっていることが珍しくありません(小林 2017)。たとえば、福島第一原子力発電所事故後に放射性物質による環境汚染のため住民が避難をした被災自治体の多く(双葉町・浪江町・飯舘村・楢葉町など)は、次世代への地域継承を第一次復興計画の目標に定めていました(辻・松薗 2023)。災害復興を進めて、望ましい状態で地域社会を将来世代に引き継ぎたいという認識は、少なくとも被災自治体の行政が定める災害復興の目標にはみられるようです。

 他方で、被災地域の住民に目を向けると、災害復興における将来世代への認識には温度差があるといえるかもしれません。私は、東日本大震災で大きな津波被害をうけた宮城県女川町(写真2)で、2015年に町民を対象とするアンケート調査を行いました 6)

 このアンケート調査では、「復興は、まず被災者が自分自身の生活を取り戻すことを優先するべきだ」をA(現世代重視)、「復興は、自分たちのためでなく、子や孫の世代のことを考えて進めるべきだ」をB(将来世代重視)として、回答者の考えがA・Bのどちらに近いかを4段階で質問しました。その結果、回答者の割合は「Aに近い」(20.0%)「どちらかといえばA」(35.9%)「どちらかといえばB」(27.5%)「Bに近い」(16.6%)でした(回答者総数は669名)(辻 2018)。4段階の選択肢をAとBの2つにまとめると、両者はほぼ半々という結果でした。

写真2 津波被災直後の女川町の中心市街地(鈴木浩・福島大学名誉教授提供)

 私がこの質問をしたのは、災害復興における将来世代への意識(将来世代をどの程度重視するか)が、被災住民の生活再建意向(被災後の地域にどのぐらい住み続けたいか)や行政が進める復興事業への評価に影響を与えているのではないかと考え、それを確かめたいという意図があったためです。解析した結果、意外にも災害復興における将来世代への意識は、生活再建意向や復興事業への評価に影響を及ぼしていませんでした。しかし、災害復興において現世代を重視するのか、それとも将来世代を重視するのかというこの質問への回答が分かれたことは、強く印象に残っています。

 私が行った女川町のアンケート調査は、女川町という一つの被災地域で行ったもので、この調査の結果をもって被災地域の人々の将来世代に対する認識がこうであると、一般的に言えるものではありません。しかし、女川町のアンケート調査の結果から、将来世代のために災害復興を進めるべきと考える被災地域の住民は、必ずしも多数派とは言えない可能性があるという「仮説」が導き出された、とは言えるかもしれません。
 
 大規模な災害を受けて、生活の再建に奔走しなければならない被災地域の人々が、将来世代を思いやることは簡単ではないはずです。こうした状況の中、女川町のアンケート調査結果に限って言えば、約半数「も」の人々が、将来世代のために災害復興を進めるべきと考えていると解釈することもできます。
 
 私自身は、災害復興はそれぞれの被災地域で、被災された現世代の人々が望ましいと考えるものであるべきと考えています。同時に、現世代が進める災害復興に対して意見を言うことができない将来世代の権利は十分に補償されるべきと考えています。しかし、いまの日本における災害復興の法制度には将来世代の権利がはっきりと位置づけられておらず、不十分だと言わざるを得ないと思っています。

 特に、一度損なわれたら再建・回復することができない(あるいは、とても難しい)もの——自然環境や有形・無形の文化遺産など——については、災害復興をきっかけに損なわれることがないよう、将来世代のために、現世代が保護の手立てを講じる責任があると考えています。

4. 将来世代を考慮した災害復興の取り組みとは?

 それでは、将来世代が大変な思いをしないようにするような災害復興は、どうすれば実現できるでしょうか?

 寺本は、現世代が十分な災害対策を行い、災害に強い社会システムをつくるだけではなく、その社会システムを有効なかたちで将来世代に引き継ぐための慣習や仕組みを作り出すことが、重要な倫理的課題であると指摘しています。そして、将来世代のために災害復興を進めて、将来世代のために良い社会基盤(道路や公共住宅、各種公共施設など)をつくるハードの取り組みだけではなく、将来世代が納得して受け入れられやすい慣習や仕組みをつくるソフトの取り組みも重要だと指摘しています(寺本 2022)。

 災害復興において、将来世代を考慮した慣習や仕組みをつくるためのソフトの取り組みとは、どのようなものでしょうか。例えば、先に述べた女川町では、震災後、「津波伝承女川復幸男」が実施されています。東日本大震災が発生した3月に毎年開催されている女川町復幸祭(2023年現在は、「おながわ春のまつり」)というお祭りの中の行事です。町が津波に襲われた午後3時32分に、「逃げろ」の掛け声をきっかけに、参加者が浸水した地点からスタートして、津波が到達しなかった高台のゴール地点まで走り、一番早くゴールに到達した者が「福幸男」として認定されます 8) (「女川 復幸の教科書」編集委員会 2019)。東日本大震災で女川町の人々が身に付けた「津波から逃げる」という「身体の動かし方」をお祭りの中の行事にすることで、津波被害の記憶と教訓を将来世代につなげようとする試みです。知識や情報を伝えようとするのではなく、毎年震災の時期、津波が起こった時間に、繰り返して同じように「身体を動かす」というのがポイントです。こうすることで、「津波から逃げる」ことを、将来世代に慣習として伝えようとしているのです。

 また、気候変動に伴って発生する気象災害(洪水など)に対して弱い立場に置かれる将来世代の権利を保障するために、国家に気候保護を義務付けたドイツの気候保護法は、広い意味で将来世代を考慮した社会的な仕組みの代表的な例と言えます 7)

5. 最後に

 「将来世代が大変な思いをしないようにするような災害復興は、どうすれば実現できるのか?」という問いは、未解決のまま残されているようです。災害復興において将来世代の権利を保障するための取り組みも、さまざまな方法が考えられそうです。災害復興の研究者として、この未解決な問いを、より多くの人たちと一緒に考えたいと思っています。

執筆者プロフィール: 辻 岳史(つじ・たかし)
博士(社会学)。福島第一原子力発電所事故をきっかけに2016年に開設された国立環境研究所の福島地域協働研究拠点(福島県三春町)で研究をしています。津波や原発事故の被災地域でフィールドワークを行い、地域で活動するさまざまな集団や組織がどのように関わりながら災害復興を進めるのかを記録・分析しています。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。ご意見などをからお寄せ下さい。
今回の執筆者から皆様への質問:あなたは被災地の災害復興にかかる費用を、誰が負担するべきだと思いますか?

1)東京電力ホールディングス(株)「福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ(案)」(2019年12月27日改訂)

2)中間貯蔵・環境安全事業株式会社法(2014年12月24日施行)・第三条の2

3)経済産業省資源エネルギー庁「平成28年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2017)」第1章・第5節「東電改革」

4)共同通信「震災復興費12年で40兆円超 住宅・まちづくり最多」(2023年7月31日配信)

5)全国知事会「第1回地方税財政特別委員会」(2011年6月11日開催)資料3「東日本大震災の復興財源について(論点)」

6)20歳以上の女川町民(女川町選挙人名簿登録者[2014年12月2日時点])6182名を母集団として、等間隔抽出法を用いて1545名の標本を抽出しました。調査票の配布・回収は郵送で実施し、不達・調査拒否を除く1473名のうち731名を有効票として回収しました(有効回収率49.6%)。

8)「福幸男」とありますが、中学生以上であれば性別を問わず誰でも参加できます。「福男」で知られる兵庫県・西宮神社の行事からヒントを得て、町の若手商工業者の方々が企画した行事です。