北半球中高緯度の陸域生態系でCO2吸収量が減少、
2023—2024年の大気CO2濃度上昇に寄与
—GOSATデータを使ったCO2放出・吸収量推定から—

 国立環境研究所の研究チームは、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測データを用いて、大気中の二酸化炭素(CO2)の放出・吸収量を推定しました(図1)。
 研究チームは、この解析から2023—2024年に観測された大気中CO2濃度の大幅な上昇の要因について調査しました。その結果、この大幅な濃度上昇は、化石燃料起源の排出量の増加ではなく、陸域生態系による正味のCO2吸収量の減少によって引き起こされたことがわかりました。この正味CO2吸収量の減少の大部分は、従来理解されているとおり、エルニーニョ現象に応じた熱帯地域におけるCO2放出・吸収量の変動で説明されますが、さらに本研究では、エルニーニョ現象への応答が比較的弱いとされる北半球中高緯度においても、例年と比べて顕著に正味CO2吸収量が減少し、これがCO2濃度の大幅な上昇を引き起こした可能性があることを示しました。なお、本研究で推定された2023—2024年の2年間に陸域生態系によって追加的に大気中に増えたCO2の量は、熱帯から22.2億トン、北半球中高緯度からは8.4億トンでした(炭素換算)。また、北半球中高緯度における正味CO2吸収量の減少は、主に気温が上昇したことによって陸域生態系で引き起こされたものであり、森林火災からのCO2放出増加の寄与は限定的であることもわかりました。この結果は、中高緯度の陸域生態系も気候変動に対して敏感であり、大気中のCO2濃度上昇に対して重要な役割を果たし得ることを示唆しています。
 本研究では、衛星観測の広い観測範囲と速報性(継続的な月単位のデータ公開)を活かし、迅速に地球全体のCO2フラックス変動(放出・吸収量の時間・空間的な変化)を解析する手法を確立しました。研究チームは、今後もこの手法を用いて地球規模のCO2フラックス変動を監視していきます。
 本研究成果は、2026年6月27日付で、米国の学術誌『Geophysical Research Letters』に掲載されました。

図1. GOSATから得られるカラム平均大気CO2濃度(いわゆるXCO2)のデータと「逆解析システム」と呼ばれる数値シミュレーションを組み合わせて、地球表面のCO2フラックスを推定。本研究では、大気モデルNICAMをベースとした逆解析システムNISMON-CO2を使用した。

1. 研究の背景と目的

二酸化炭素(CO2)は重要な温室効果ガスです。国立環境研究所は、環境省、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、温室効果ガスを観測する人工衛星(以下「GOSATシリーズ」という。)の開発と運用を連携して進めており、GOSATシリーズの1号機である「いぶき」(GOSAT)は2009年4月から17年以上にわたりCO2観測を継続しています。2024年は、このGOSATによって観測された大気中CO2濃度の年増加量が3.5 ppm/年に達し、GOSAT観測史上最大の値として報告されました注釈1。これは、この年、CO2が通常よりもはるかに速いペースで大気中に蓄積したことを示しています。この急激な濃度増加は、2023-2024年に発生したエルニーニョ現象によって陸域生態系の正味のCO2吸収量注釈2が減少したためと考えられていますが、詳細な要因はわかっていません。

このような現象を理解することは、地球全体のCO2の循環(炭素循環とも呼びます)の理解を深め、将来の気候変動を予測するうえで不可欠です。本研究では、GOSATの観測データを用いて、「逆解析」と呼ばれる手法によりCO2フラックス変動(CO2の正味放出・吸収量の時間・空間的な変化)を推定しました。GOSATの観測は地球の広い範囲をカバーしているため(図2)、GOSATのデータを使うことで、地球全体のCO2フラックス変動を推定することができると期待されます。

図2. 本研究で使ったGOSAT XCO2データの分布(2020年のケース)。本研究では陸上のデータのみを逆解析に用いた。

2. 研究手法

本研究では、NICAMと呼ばれる大気モデルをベースとした最新の逆解析システムNISMON-CO2 (NICAM-based Inverse Simulation for Monitoring CO2) を使用しました。このシステムを使って、国立環境研究所によるGOSATカラム平均濃度の標準プロダクト(NIES FTS L2 CO2カラム量 (SWIR) V03.05)のデータ注釈3から、地表面におけるCO2フラックス変動を推定しました。NICAMは、大気の流れを計算するための数値シミュレーションモデルであり、NISMON-CO2ではこのシミュレーションを数百回と繰り返して、観測データをもとにフラックスの最適解を探索します。その膨大な計算を実施するため、本研究ではスーパーコンピュータ「富岳」注釈4を使用しました。

NISMON-CO2では、初期推定値となるCO2フラックスのデータセットを用意し、これをNICAMに入力して大気中のCO2濃度を計算します。なお、ここでは気象庁の客観解析データJRA-3Qを使って、過去の大気の流れを再現しています。このシミュレーションされたCO2濃度の値が、想定される誤差の範囲内でGOSATの観測値とできるだけ一致するようにフラックスデータを修正し、最適な解を求めることを「逆解析」と呼びます。NISMON-CO2では、繰り返しフラックスデータを修正していくことで最適解を得ることができます。

3. 研究結果と考察

図3は、GOSATの観測データを用いて算出された地球全体のCO2フラックスと、従来よく使われる地上の現場観測(以下「IS」という。)に基づいて得られたフラックスを比較したものです。使用した観測データは異なるものの、GOSATによって推定されたフラックスの変化はISの推定値と整合的であり、衛星ベースの推定値の信頼性を示しています。また、この図から、化石燃料起源の放出量が増加している傾向が見えますが、地球全体のCO2フラックスの年々の変動に対しては、陸域生態系の寄与が支配的であることがわかります。その中でも、2023年から2024年にかけてのCO2フラックスは解析した期間の中で最大であり、これが、当該期間の大気中CO2の増加量を大きく引き上げたものでありますが、これは陸域生態系起源の正味CO2吸収量の減少によるものと推定されています。このことから、大気中CO2濃度の変動には、陸域生態系が大きな役割を果たしていることがわかります。

図3. 2009年から2025年までの地球全体のCO2フラックスの年々変動。(a)フラックスの合計値、(b)化石燃料からの放出、(c)陸域生態系フラックス、(d)海洋フラックス、(e)森林火災からの放出。地上の現場観測データ(青)とGOSATの観測データ(緑)を使った逆解析の結果、また、それらの初期推定値(灰色)を示す。正の値は大気への放出、負の値は大気からの吸収を示す。

2023年から2024年にかけてのCO2フラックスの急激な上昇の要因を調べるため、エルニーニョ・ラニーニャ現象との関係を解析しました(図4)。エルニーニョ・ラニーニャ現象は、地球の様々な地域の気象に強い影響を及ぼす現象として知られています。熱帯域(北緯30度—南緯30度)では、エルニーニョ期には高温・乾燥化によりCO2の吸収が減少または放出が増加し、ラニーニャ期にはその逆になるというCO2フラックスの応答が見られていますが、これは過去研究からも示唆されている現象です。一方で本研究では、もう一つ顕著なシグナルが中高緯度地域(北緯30度—90度)で確認されました。この地域は、正味でCO2を大気から吸収する重要な地域となっていますが、過去のフラックス変動とエルニーニョ・ラニーニャ現象には有意な相関は見られませんでした。しかし、2023—2024年には顕著なCO2放出の増加(またはCO2吸収の減少)があったことが示唆されました。本研究で推定された2023—2024年の2年間に陸域生態系によって追加的に大気中に増えたCO2の量注釈5は、熱帯から22.2億トン、北半球中高緯度からは8.4億トン(炭素換算)であり、北半球中高緯度は陸域生態系全体の正味CO2吸収の減少に対しておよそ4分の1を占めていました。

図4. 化石燃料起源以外のCO2フラックスの平年値からの偏差とエルニーニョ・ラニーニャ現象の指標(MEI v2)との関係:(a)地球全体、(b)北半球中高緯度(30°N–90°N)、(c)北半球熱帯(0°–30°N)、(d)南半球熱帯(30°S–0°)、(e)南半球中高緯度(90°S–30°S)。赤(青)の●および線はそれぞれ、GOSAT(IS)の逆解析の結果を表す。なお、エルニーニョの状態がピークとなる北半球冬季を十分にカバーするため、ある年の7月から翌年の6月までを平均・積算した値でプロットしている(”2023-2024”の場合、2023年7月から2024年6月までの期間を表す)。過去に起きた大きなエルニーニョ(2015–2016年)および、今回、対象としたエルニーニョ(2023–2024年)に対応する年にはラベルをつけている。正の傾きはエルニーニョ現象に伴ってCO2放出が増加、または吸収が減少することを示す。陰影部分は、回帰直線の95%信頼区間を示す。(b)の北半球中高緯度では回帰直線の傾きが小さいことから、エルニーニョ・ラニーニャ現象との関連性は小さいことがわかるが、2023–2024年の値が陰影部分を超えて回帰直線の上に位置しており、この時期に従来よりも大きなフラックス変動が起きたことが伺える。

さらに解析を進めた結果、この北半球中高緯度における正味CO2吸収量の減少は、主に気温が上昇したことによって陸域生態系で引き起こされたものであり(高温によって、植物の呼吸は増加、土壌有機物の分解は促進される一方、光合成によるCO2吸収は抑制されます)、森林火災からのCO2放出増加の寄与は限定的であることもわかりました。この結果は、大気中CO2濃度の変動に対して、北半球の陸域生態系の気候変動に対する応答が、熱帯域におけるエルニーニョ・ラニーニャ現象への応答と並んで、重要な役割を持っていることを示唆しています。

4. 今後の展望

今後は、GOSATシリーズの2号機(GOSAT-2)や3号機(GOSAT-GW)などの衛星ミッションの観測データを取り入れることで、この解析を拡張し、精度・観測範囲・モニタリング能力の向上を図っていきます。

また、本研究では、衛星観測の広い観測範囲と速報性(継続的な月単位のデータ公開)を活かし、迅速に地球全体のCO2フラックスを解析する手法を確立しました。研究チームによる2025年末までの逆解析結果は、国立環境研究所の地球環境データベースから公開しています(https://www.nies.go.jp/doi/10.17595/20260414.001.html)。今後もこの手法を用いて定期的に逆解析を行うことで、地球規模のCO2フラックス変動を監視し、炭素循環や気候変動に関する研究の発展に貢献していきます。

5. 注釈

注釈1:2025年2月6日 国立環境研究所報道発表「地球全体の二酸化炭素濃度の年増加量が過去14年間で最大に 〜いぶき(GOSAT)による2024年の観測速報〜」
https://www.nies.go.jp/pr/news-and-updates/2025/20250206/20250206-2.html

注釈2:陸域生態系は生物の呼吸や分解によってCO2を放出し、光合成によってCO2を吸収していますが、その量は場所や季節によって様々に変化しています。しかし、地球全体で、長期にわたって平均的にみれば、陸域生態系はCO2を吸収しており、化石燃料からのCO2放出による大気CO2濃度の増加を軽減していると考えられています。

注釈3:GOSATデータは以下のウェブサイトで公開されています。
https://data2.gosat.nies.go.jp/

注釈4:スーパーコンピュータ「京」の後継機として理化学研究所が設置し、2021年3月から共用を開始した計算機。スーパーコンピュータの主要な世界ランキングの一つであるGraph500で11期(~2025年6月)連続1位を獲得し、以降も世界トップレベルの性能を有しています。

注釈5:CO2フラックスの2023—2024年の間の平均値から2010—2024年の平均値を差し引いた値は、熱帯、北半球中高緯度でそれぞれ11.1億トン/年、4.2億トン/年(炭素換算)であり、2023-2024年の2年間に陸域生態系の正味吸収量の減少によって大気中に”余分に”残ったCO2の量はこれらの2倍の量となります。

6. 研究助成

本研究は、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF24S12200)により実施した。また、本研究の数値計算は、HPCI システム利用研究課題(課題番号:hp250024 , hp260016)を通じて、スーパーコンピュータ「富岳」の計算資源の提供を受けて実施しました。

7. 発表論文

【タイトル】
 Drivers of 2023-2024 atmospheric CO2 growth: role of northern mid-to-high latitude land carbon cycle
【著者】
 Maity, S., Niwa, Y., Saeki, T., Someya, Y., Yoshida, Y.
【掲載誌】Geophysical Research Letters
【URL】http://dx.doi.org/10.1029/2026GL122221(外部サイトに接続します)
【DOI】10.1029/2026GL122221(外部サイトに接続します)

8. 発表者

本報道発表の発表者は以下のとおりです。

国立環境研究所
地球システム領域 エミッション統合評価推進室
特別研究員
MAITY Suman
主幹研究員
丹羽 洋介
地球システム領域 衛星観測センター
主任研究員
佐伯 田鶴
地球システム領域 衛星観測研究室
主任研究員
染谷 有
主任研究員
吉田 幸生

9. 問合せ先

【研究に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 地球システム領域
エミッション統合評価推進室 主幹研究員 丹羽 洋介

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報対話室
kouhou0(末尾に“@nies.go.jp”をつけてください)