10年ぶりに日本へ飛来した「冬の黄砂」の発生要因を解明
冬でも起こりうる黄砂——強風・少雪・気候条件が重なった結果

ポイント

2022年12月に日本では10年ぶりとなる「冬の黄砂」が発生しました。

ゴビ砂漠で積雪が少ないことに加え、北極の寒気が発生源域へ流れ込みやすい気候条件が重なることで、低気圧が発達して強風が起こり、冬でも大規模な黄砂が発生する仕組みを解明しました。

明らかにされた「冬の黄砂」の発生メカニズムは、黄砂予測の精度向上や経済・健康被害の軽減に貢献することが期待されます。

概要

 東アジアの黄砂(砂じん嵐)は主に春に発生し、冬の飛来は非常に稀でした。しかし、2022年12月には日本で10年ぶりとなる「冬の黄砂」が観測されました。これまで、冬の大規模な黄砂がどのような要因で引き起こされるのか、詳細なメカニズムは未解明でした。
 九州大学応用力学研究所(原 由香里助教)と国立環境研究所地球システム領域(神 慶孝主任研究員)の研究グループは、ダスト予測モデルや各種観測データおよび大気再解析データを統合した解析を行いました。その結果、2022年12月の黄砂は、発生源であるゴビ砂漠の積雪が少なかったことと、温帯低気圧に伴う強風が引き起こしたことを明らかにしました。
 さらに、1970年以降の約50年間(1970年〜2022年)の冬の黄砂を解析した結果、積雪の少なさに加え、地球規模の気象変動である太平洋十年規模振動(PDO)(※1)や北極振動(AO)(※2)がともに「負の位相」となることが重要であることを突き止めました。この状態(北極の寒気が流れ込みやすく、偏西風が蛇行しやすい状態)になることで、ゴビ砂漠付近に低気圧が形成されやすくなり、冬の黄砂が誘発されます。
 今回の発見は、地球温暖化による積雪の減少や早期の融雪が、冬から春にかけての深刻な黄砂の引き金となる可能性を示唆しています。本成果は、気候変動下での黄砂リスク評価や、季節を問わない注意喚起・予測精度の向上に役立つことが期待されます。
 本研究成果は国際的な学術誌「Atmospheric Environment」に2025年9月12日(オンライン版)に掲載されました。

気象衛星ひまわり8号によって観測された2022年12月の黄砂。赤色が飛来する黄砂を表しています。中国東部を東進する黄砂の様子が捉えられています。

研究者からひとこと:
黄砂は春の現象として知られていますが、2022年12月には冬としては珍しい規模で日本に到来しました。本研究では、低気圧による強風という“気象側”の要因に加えて、発生源の雪の少なさという“地表側”の要因、さらにPDO/AOといった大規模な気候変動指標との対応も整理しました。冬季黄砂の理解が進むことで、季節を問わない注意喚起や予測精度の向上につながることを期待しています。
(原 由香里)

研究の背景と経緯

 東アジアの黄砂(砂じん嵐)は、主に春に発生します。家畜への被害や人間の健康(呼吸器・循環器系疾患など)に悪影響を及ぼし、気候変動にも影響を与えます(※3)。近年、中国の排出規制強化により、人為的な大気汚染物質は減少傾向にあります。一方、黄砂のような自然由来の微粒子は気象や地表面の状態に依存するため、気候変動の影響を強く受けます。
 これまで黄砂の研究は、春の現象に集中していました。冬に発生する稀な黄砂については、気象メカニズムや発生要因が十分に解明されていませんでした。そのような中、2022年12月に日本で10年ぶりとなる「冬の黄砂」が観測されました。そこで本研究グループは、この冬の大規模な黄砂現象がどのような要因で引き起こされたのかを調査しました。

研究の内容と成果

 本研究グループは、ダスト予測モデル(※4)、地上観測データ(LIDAR(※5)など)、衛星観測データ(MODIS)、および大気再解析データ(※6)を統合して解析を行いました。その結果、2022年12月の冬の黄砂は、ゴビ砂漠を通過した温帯低気圧に伴う強風によって引き起こされており、ダスト発生のメカニズムは春季の黄砂ととても類似していることがわかりました。
 通常12月のゴビ砂漠は、安定したシベリア高気圧に覆われ風が穏やかです。しかし、2022年は、10m/sを超える強風の発生頻度が有意に増加していました。また、衛星データの解析から、ゴビ砂漠の積雪が極端に少なかったことが判明しました。この積雪の少なさが、冬の黄砂を大量に巻き上げる重要な要因であることを明らかにしました。
 さらに、1970年以降の約50年間(1970年〜2022年)の気象データを解析した結果、冬の黄砂が発生した年には、地球規模の気象変動である太平洋十年規模振動(PDO)と北極振動(AO)がともに「負の位相」となっているという共通の特徴があることを突き止めました。この2つの負の位相が重なることで、シベリア高気圧が西に偏り、北極からの寒気が中緯度に流れ込みやすくなるとともに偏西風が蛇行し、発生源であるゴビ砂漠付近で低気圧が形成・通過しやすい条件が整うことが分かりました。

今後の展開

 本研究成果は、地球温暖化などの影響による発生源地域での積雪の減少や早期の融雪が、冬から春にかけての深刻な黄砂の引き金となる可能性を示唆しています。
 黄砂は、PM10(※7)などの大気汚染物質による呼吸器疾患などの健康被害を引き起こすだけでなく、近年導入が進む太陽光発電システムの発電効率を低下させるなど、日本における経済的な影響も懸念されています。
 今回明らかになった「極端な積雪の少なさ」や「PDO・AOの負の位相に起因する気圧配置の変化」といった冬の黄砂の発生メカニズムは、将来の黄砂飛来予測システムの精度向上に大きく貢献することが期待されます。今後は、気候変動要因が温帯低気圧の発生や黄砂にどのように寄与していくのか、さらに詳細な解析を進めていく予定です。

参考図

図1 (a)ERA5再解析データを用いて算出した、12月におけるゴビ砂漠領域(北緯36°–47°、東経95°–110°)の地上10 m風速の分布、(b)2022年12月のMODIS/Terraによる積雪分布、(c)2022年12月の積雪の平年からのずれ(偏差)。(a)では、2022年を緑、過去の代表的な黄砂年の平均を赤実線、黄砂の少ない年を黒線、ゴビ領域の風は弱いが黄砂日が観測された年は赤破線で示している。(c)の網掛けは統計的に有意な領域(t検定、p < 0.05)を示す。

2022年12月は、ゴビ砂漠で強風の発生頻度が統計的に有意に高く、特に10 m/sを超える強風の割合が平年より増加していました。この強風は低気圧の通過に伴うものであり、2022年の冬季黄砂の発生に重要な役割を果たしました。さらに、同時期にはゴビ砂漠周辺で積雪が平年より少なく、地表が露出しやすい状態であったことも、黄砂の発生を助長したと考えられます。(図1)。

図2 1970年から2022年12月の(a)日本における黄砂観測日数、(b)大気再解析データから得られたゴビ砂漠領域(36°-47°N, 95°-110°E)平均の地上10m風速の強風発生頻度、(c)衛星観測から得られたゴビ砂漠平均積雪被覆率、(d)気候インデックス(PDO, AO)。黄色い陰影(1976,1982,2000,2009,2010,2022)は論文中で定義した黄砂年。

1970年以降の約50年間の12月の日本における黄砂観測日数は、ゴビ砂漠の強風発生頻度と非常によい対応を示します(図2)。また、衛星観測が利用可能となった2000年以降について、ゴビ砂漠における積雪被覆率との対応を見ると、比較的雪の少ない年に飛来していることもわかります。冬の黄砂が観測された年の気候インデックスとの対応については、特に2000年代以降、PDOとAOが負の位相にあるという特徴が見られます。

用語解説

(※1) 太平洋十年規模振動(PDO:Pacific Decadal Oscillation)
太平洋全域で海面水温や大気圧の偏差が、10年〜数十年規模の周期で変動する現象です。「負の位相」の時期には、北太平洋にあるアリューシャン低気圧が弱まり西側に偏るなどの特徴があり、冬の黄砂発生と関連していることが本研究で示されました。

(※2)北極振動(AO:Arctic Oscillation)
北極域と中緯度域の気圧が連動して変動する現象です。「負の位相」の時期には、北極周辺の強風(極渦)が弱まり、中緯度に極域からの寒気が流れ込みやすくなります。これにより上空の偏西風が大きく蛇行し、低気圧が発達しやすい条件を作ります。

(※3)黄砂の気候変動への影響
黄砂のような細かい粒子は、太陽の光を散乱し、雲に影響することで、大気や地表の温まり方を変えます。そのため、気温や雨の降り方などが変わり、気候にも影響を与えることが知られています。
(※4) ダスト予測モデル(MASINGAR)
気象研究所(MRI)などが開発した全球エアロゾル化学輸送モデルのことです。黄砂の発生量や輸送経路を予測するもので、本研究では冬の黄砂の発生メカニズムの解明に用いられました。

(※4)ダスト予測モデル(MASINGAR)
気象研究所(MRI)などが開発した全球エアロゾル化学輸送モデルのことです。黄砂の発生量や輸送経路を予測するもので、本研究では冬の黄砂の発生メカニズムの解明に用いられました。

(※5)LIDAR(ライダー):Light Detection and Ranging
地上から上空に向けてレーザー光を照射し、大気中のチリ(エアロゾル)などに当たって散乱し戻ってくる光を捉える観測手法です。本研究では、国立環境研究所の観測網(AD-Net)のデータが用いられ、飛来した冬の黄砂の高度や濃度の立体的な構造を捉えるために使用されました。

(※6)大気再解析データ(ERA5)
過去の膨大な気象観測データ(地上観測や衛星観測など)と最新の気象シミュレーションモデルを統合し、過去に遡って地球全体の大気の状態(風、気温、気圧など)を三次元的に詳細に再現したデータのことです。本研究では欧州中期予報センター(ECMWF)が作成した第5世代のデータ(ERA5)を使用し、過去53年間(1970年~2022年)のゴビ砂漠周辺の気象状態を解析しました。

(※7)大気中に浮遊する粒子のうち、直径が10マイクロメートル以下の微粒子のことです。呼吸器などの奥深くまで入り込みやすく、健康への悪影響が懸念されています。世界保健機関(WHO)は24時間平均のガイドライン値を45 μg/m3と定めており、2022年の冬の黄砂では西日本の観測局でこの基準値を大きく超える濃度が観測されました。

謝辞

本研究の一部は、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20205001、JPMEERF20255001)、および日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業(課題番号:JP22H00562、JP23K03493)の支援を受けて実施されました。
本研究で使用したエアロゾル予測モデルのプロダクトは、気象庁気象研究所および九州大学によって開発され、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のP-Treeシステムを通じて提供されたものです。

論文情報

掲載誌:Atmospheric Environment, Volume 362, 121544
タイトル:Factors behind the rare winter Asian sand and dust storm in December 2022
著者名:Yukari Hara*, Yoshitaka Jin, Atsushi Shimizu, Tomoaki Nishizawa, Keiya Yumimoto
DOI:10.1016/j.atmosenv.2025.121544(外部サイトに接続します)

発表者

九州大学応用力学研究所
助教
原 由香里
国立環境研究所
地球システム領域 大気遠隔計測研究室
主任研究員
神 慶孝

お問合せ先

<研究に関すること>
九州大学 応用力学研究所 助教 原 由香里(責任著者)

国立環境研究所 地球システム領域 大気遠隔計測研究室 主任研究員 神 慶孝

<報道に関すること>
九州大学 広報課
koho(末尾に“@jimu.kyushu-u.ac.jp”をつけてください)

国立環境研究所 企画部広報対話室
kouhou0(末尾に“@nies.go.jp”をつけてください)