移動手段を例とした個人的な行動選択と社会的な政策転換の関係

松橋啓介, 陳鶴, 有賀敏典, 金森有子
2018.11.30

論文情報

移動手段を例とした個人的な行動選択と社会的な政策転換の関係

著者:松橋啓介, 陳鶴, 有賀敏典, 金森有子
発表年:2018
掲載雑誌:土木学会論文集G, 74(6), Ⅱ_103-Ⅱ_110

概要

持続可能な社会を実現するためには、個人の行動転換と社会の政策転換をあわせて実現することが課題です。そこで、個人的な移動手段の選択と社会的な交通政策の選択およびその理由について図-1の枠組みで調査を行い、道徳観や個人属性との関係を分析することを目的としました。その結果、現在、図-2,3に示す通り、40%超が主に自動車を利用していて,引越先の手段選択や利便性を向上したい手段としては,自動車よりもバスや鉄道等の公共交通手段の選択が多く,40%を超えることが分かりました.また、図-4に示す通り、市長になったとして進める政策としては,公共交通が過半となる50%を超え、みんなに使いやすいからとする理由が多くを占めるなど、政策転換が起こる可能性が示されました。表-1に示す通り、こうした公共交通を便利にする政策の選択は、環境にやさしいことや使うかもしれないことに加え、法律や決まりに反しないことや自分の良心に従うことなどの道徳観(図-5)が間接的に関係しうることについても示唆されました。

図-1 アンケート調査の枠組み
移動手段の選択については、日常的によく使う移動手段[現状]、今後政策として今より便利にしてほしい移動手段[政策]、将来引っ越すとしたらどの移動手段がいまよりも便利なまちに住みたいか[引越]、市長になったとして今後政策としていまよりも便利にする移動手段[市長]の4点について順に、その選択理由とあわせて設問とした。[現状]では、現況の政策に基づいて行われる移動手段すなわち行動の選択を把握する。[政策]では、[現状]の手段選択を踏まえた比較的に個人的な視点での政策選択がされることを想定し、[引越]では、政策と手段の同時選択がされることを想定した。さらに[市長]では、[引越]での政策と手段の同時選択を踏まえた比較的に広範な視点での政策選択がされることを想定し、それぞれの差と選択理由および道徳観や個人属性との関係について分析・考察することを目指した。
図-2 日常的によく使う移動手段(1番目の選択)
図-3 便利にしてほしい(する)移動手段(1番目の選択)
図-4 便利にしてほしい(する)移動手段の選択理由(1番目の選択)
図-5 日常の選択を行う際の道徳観と年齢階層
道徳性の発達の段階は、罰の回避や損得勘定による前慣習的道徳から、他者からの承認や遵法による慣習的道徳、さらに公正さや良心といった倫理性による脱慣習的道徳までの3段階あるいは6段階に分けられる。このうち、損得と承認については、それぞれマイナス面とプラス面に分割し、詳しくたずねた。日常的な行動選択では前慣習的道徳や周りの人の評判、しくみやまちの計画や決定に関わる選択では遵法や脱慣習的道徳に重点が置かれるような道徳観の使い分けがされていることを想定している。なお、使い分けの状況を確認することは今後の課題である。
表-1 道徳観と個人属性および市長想定時の移動手段選択の理由との関係
数字は回答数を示す。みんなに使いやすいとの理由を挙げた人は、自分の良心に従うことや自分の得になることを考慮している人が有意に多く、罰せられないことやなんとなくとする人が少ないことが分かる。たとえば、環境にやさしいを理由を挙げる人に着目すると、自分の良心に従うことや法律やきまりに反しないこと、周りの人に良いねと認められることを考慮している人が有意に多く、自分の得になることやなんとなくとする人が少ないことが分かる。たとえば、男性には周りの人に良いねと認められること、女性には良心に従うことや法律やきまりに反しないことと併せて統合的に環境面をアピールすることで、効果的な環境意識の向上や環境行動の普及に資する可能性があると考えられる。