The oxymoron of carbon dioxide removal: Escaping carbon lock-in and yet perpetuating the fossil status quo?
(二酸化炭素除去をめぐる語義矛盾:カーボンロックインから逃れながら化石燃料依存の現状を永続させる?)

朝山慎一郎
2021.7.13

論文情報

The oxymoron of carbon dioxide removal: Escaping carbon lock-in and yet perpetuating the fossil status quo?
(二酸化炭素除去をめぐる語義矛盾:カーボンロックインから逃れながら化石燃料依存の現状を永続させる?)

著者:朝山慎一郎
年:2021
掲載誌:Frontiers in Climate, 3: 673515

キーワード

carbon dioxide removal, negative emissions technologies, carbon capture and storage, carbon lock-in, mitigation deterrence, fossil fuels, decarbonization

概要

二酸化炭素除去(CDR)技術をめぐる論争は、一見すると、大きな矛盾をはらんでいるように見えます。一方で、CDRは、化石燃料の使用に伴い排出される、削減が困難な二酸化炭素の残余排出分を相殺し、エネルギーシステムの脱炭素化への移行を促し、ネットゼロ排出を達成するための重要な技術オプションであると専門家の間では広く認識されています。しかしその一方で、CDRは必要不可欠な早期の排出削減を逃れて、現状の化石燃料に依存したエネルギーシステムを継続させるための手段に過ぎないのではないかという深刻な懸念も同時に投げかけられています。しかし、このCDR技術をめぐる矛盾は、技術そのものの問題というよりも、現在のエネルギーシステムがあまりに強く化石燃料に依存することで、そこから脱却を困難にしている構造的な要因(それを一般的に「カーボンロックイン(carbon lock-in)」と呼ぶ)に根差していると考えられます。実際のところ、脱炭素化の課題とは、化石燃料の生産と消費を永続させるようなロックインの構造を解消することなのです。

本稿では、カーボンロックインを克服するためにCDRがどのような役目を果たしうるのかを考察しました。カーボンロックイン克服におけるCDRの役割を理解する上で、CCS(Carbon Capture and Storage)をめぐる過去の議論を振り返るのが参考になります。というのも、CCSはCDRと同様に、化石燃料依存の現状を維持するための手段であると批判されているからです。しかし、CCSとCDRの両者には決定的な違いがあります。CCSとは異なり、CDRの実施は化石燃料の使用から物理的に切り離すことができるために、CCS導入に伴うような「強化されたロックイン(reinforced lock-in)」のリスクを避けることができると考えられます。それでもなお、CDRには、化石燃料の使用を不正に継続させるような「不当な代替(undue substitution)」の手段に陥ってしまうリスクがあります。このようなCDR技術をめぐる矛盾を解消するためには、フレーミングの問いを大きく変える必要があります。すなわち、CDRを脱炭素化に向けた政策の中に正しく位置づけるためには、CDRの技術開発を化石燃料からの撤退とどのように組み合わせ、適合することができるのかをもっと問うべきなのです。