福島県新地町における統合的エネルギーモニタリング解析と電力消費量推定手法の構築

執筆:平野 勇二郎(社会システム領域 主幹研究員)
2023.1.4

論文情報

福島県新地町における統合的エネルギーモニタリング解析と電力消費量推定手法の構築

著者: 平野 勇二郎, 牧 誠也, 中村 省吾, 藤田 壮
発行年: 2022
掲載誌: 地球環境 Vol.27, No.1, pp.31-40

キーワード

持続可能な地域づくり,需要予測モデル,情報通信システム,地域エネルギー解析,電力モニタリング

論文の紹介

 本論文では、福島県新地町における電力消費量のモニタリングのデータを用いた研究事例を紹介しています。新地町は東日本大震災後、復興の過程で内閣府の「環境未来都市」に選定され、国立研究開発法人国立環境研究所と連携・協力に関する基本協定を締結しました。この協定に基づいて国立環境研究所では、さまざまなかたちで復興まちづくりの支援を進めています。その一環として、住宅や工場、水処理センターを対象とした電力消費量のモニタリングとそのデータを用いた研究を行いました。

 まず初めに、電力モニタリングのデータを用いたこれまでの研究成果を紹介しました。例えば、新地町の下水処理施設「新地浄化センター」では、モニタリングデータを用いて電力消費量の予測モデルを構築しました。この研究では流入水質の悪化と電力消費量の増加関係を明らかにし、下水処理場の処理状況の確認による省エネルギー運用につながる可能性を示唆する結果を得ました。また、住宅では、機器や活動ごとの電力消費量の予測モデルを構築する研究や、居住者の省エネルギー行動支援に関する研究について事例を紹介しました。

 次に、住宅における電力消費量のデータを活用し、気温変化を踏まえて電力需要を予測する手法を検討しました。これは新地町の研究で得られた知見を他の地域に展開し、さまざまな地域で再生可能エネルギー等を活用した地域のエネルギー事業を計画する際の需要予測に用いることを目的とした手法です。

 本研究で構築した手法の概要を図1に示します。

図1 電力消費量推計手法の概要

 この手法では、まず住宅の電力モニタリングのデータと気温のデータを用いて、世帯人数別・時刻別の世帯あたり電力消費量推定式を作成します。本研究では気温に応じて夏季・冬季を区別し、それぞれの電力消費量の変化と気温の変化を対応させることにより推定式を作成しました。次に、対象地域の気温データを設定します。本研究では、対象地域として福島県全域を選定し、簡易の気象シミュレーションにより月別・時刻別の気温分布データを作成しました。ここで得られた電力消費量推定式と気温分布から、世帯人数別・月別・時刻別世帯あたり電力消費量を推定しました。さらに、これに世帯人数別の居住世帯数を乗じることで電力消費量を推計しました(図2)。図2から、福島市や郡山市のある中通り地域や、いわき市付近、会津若松市付近の人口密集地域に大きな電力需要が生じている状況が読み取れます。

図2 福島県における電力消費量推定結果

 この手法では気温変化を踏まえて時刻別の電力需要を推定することもできるため、再生可能エネルギーの発電量予測と結び付ければ、需給バランスを踏まえた地域エネルギー事業の計画や評価も可能になると考えています。本論文では福島県を対象地域とした事例を紹介しましたが、ここで提案している手法は汎用的なので、他の地域でも同様の計算が可能です。今後は、これまでに新地町で得られた知見を他地域へ展開し、再生可能エネルギーの導入拡大と地域の脱炭素化に向けて研究を進める予定です。

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