論文情報
著者:Yamaguchi, R., Islam, M., & Managi, S.
年:2019
掲載誌:Letters in Spatial and Resource Sciences, forthcoming
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キーワード
包括的富(IW)、人工資本、人的資本、自然資本、持続可能な発展指標、ジェニュイン・セイビング
概要
GDPに代わる、国の豊かさの指標がいろいろと提案されています。その指標の一つである包括的富(IW)は、一国の富が(1人当たりで)増えているかどうかを測るもので、持続可能性の指標の一つとされています。具体的には、道路・港湾等のインフラ、住宅、企業が持つ機械設備等の「人工資本」に加えて、人々が教育を受けて蓄積した「人的資本」や、化石燃料や生態系サービスをもたらす「自然資本」も含めて、国の富を包括的にとらえようとするものです。国レベルでの測定は、世界銀行と国連環境計画(UNEP)が個別に行っています。この度、筆者らが執筆に関わったUNEPによる2018年版(第3弾)の包括的富報告書が公表されました。本稿では、報告書の主要なメッセージをまとめ、その後のコメント等も踏まえたさらなる分析を行っています。
図2の通り、自然資本を減らしつつ、人工資本や人的資本を増やすことで、全体の富を増やしてきた国がほとんどでした。自然資本もIWも減少している持続不可能な国は、アフリカに多いこともわかります。世界全体で集計しても、1990年比で人工資本は+94%、人的資本は+28%だったのに対し、自然資本は34%のマイナスでした。世界全体で集計したIWの構成比は、人工資本24%、人的資本64%、自然資本11%となっています。トマ・ピケティ『21世紀の資本』(2014年)では、GDPに対する富の比が数倍に拡大してきていることが、不平等につながりかねないとして問題視されています。ところが富を包括的に測ったIWを使うと、世界平均で富はGDPの12倍にも上ることがわかりました。人的資本は平等につながりやすい等、資本の種類によって平等に対する影響は異なるため、新しい富が不平等にもたらす意味を考える必要があります。また本稿とオンライン補遺では、世界銀行による富の計測との方法・結果の比較も行っています。