陸上空中風力発電システムの理論的および技術的エネルギーポテンシャルの世界規模評価

執筆:SILVA HERRAN Diego (社会システム領域 主任研究員)
2025.8.21

論文情報

Assessment of the global theoretical and technical energy potentials of onshore airborne wind energy systems
(陸上空中風力発電システムの理論的および技術的エネルギーポテンシャルの世界規模評価)

著者: SILVA HERRAN Diego
発行年: 2025
掲載誌: Environmental Research Letters, Volume 20, Number 5, pp 1-10.
DOI: https://doi.org/10.1088/1748-9326/adc319

キーワード

陸上空中風力発電システム(AWES)、エネルギーポテンシャル、世界的な評価、再生可能エネルギー

論文の紹介

 陸上空中風力発電システム(AWES)は、従来の風力発電機(陸上に設置された風車)と比較して、いくつかのメリットがある新しい発電技術です。飛行装置と地上に固定された電気エネルギー伝達テザーで構成され、 凧もしくは飛行機のような飛行装置がテザーに及ぼす牽引力、または飛行装置に取り付けられたプロペラの回転によって発電します。地上数百メートルの高さで動作し、約50〜150メートルの高さで動作する従来の風力発電機よりも強く安定した風を利用できます。さらに、従来の発電機と比べて使用する材料の量が少なく、景観や鳥やコウモリへの影響もほとんどありません。

図1 陸上空中風力発電システム(AWES)の仕組みイメージ(著者作成)

 本研究では、世界におけるAWES(陸上設置型のみ)による発電量を把握するため、風速や地形(標高、傾斜度、土地被覆)といった地理空間データと共に、風速から発電量への変換に関するデータを使用し、分析しました。なお、AWESについては現在市販されているAWES(地上設置型発電機にソフトカイトを取り付けた構造)を前提としています。

 研究の結果、土地利用の制約(設置場所は最大標高・最大傾斜度以下に限定され、森林、氷で覆われた地域、河川、湖は避ける)を無視した場合、AWES は 2022 年に世界全体で消費された電力の 1.5 倍に相当する量を 1 年間で世界全体で発電できることが分かりました(理論的エネルギーポテンシャル)。土地利用の制約を考慮した場合、AWES は 2022 年の世界全体の電力消費量の約半分を発電できます(技術的エネルギーポテンシャル)。この結果は、AWESによる発電ポテンシャルを世界規模で初めて評価したものであり、将来のエネルギー脱炭素化において、新たな再生可能エネルギー技術がどの程度貢献できる可能性があるかを評価する研究にも活用できます。

図2 設備利用率グレード別の世界の技術的エネルギーポテンシャル(上)と空間分布(MWh/年/セル)(下)
上図は世界で AWES によって発電可能な電力量を示しています(土地の制約も考慮)。各設備利用率(capacity factor)レベルに対応する値は、年間平均設備利用率が横軸に示される閾値より大きい場所で AWES によって年間に発電される電力の合計を表しています(例:32%以上の設備利用率の場合は1年間に約10,000 TWhが発電できます)。なお、設備利用率は発電設備の最大発電容量に対して実際に発電されている容量の割合を意味します。
下図は、世界のエネルギーポテンシャルの分布を示しています。濃い青色の場所は、年間の発電量が多い場所を示しています。セルの大きさは0.25度(~28km)です。
(licensed under CC BY-NC-ND 4.0)

陸上空中風力発電システムをもっと知りたい方のために(いずれも英語のみ)

1Energypedia. "Introduction to Airborne Wind Energy". https://energypedia.info/wiki/Introduction_to_Airborne_Wind_Energy.

2Airborne Wind Europeホームページ. https://airbornewindeurope.org/.