論文情報
(電力モニタリングデータと強化深層学習法を適用した住宅における自動更新型時空間電力需要予測システムの開発)
著者:Seiya Maki, Minoru Fujii, Tsuyoshi Fujita, Yasushi Shiraishi, Shuichi Ashina, Kei Gomi, Lu Sun, Sudarmanto Budi Nugroho, Ryoko Nakano, Takahiro Osawa, Gito Immanuel, Rizaldi Boer
年:2022
掲載誌:Applied Energy, Volume 324, 15 October 2022 , 119652
論文へのリンク(英文のみ)
キーワード
エネルギーモニタリング, 深層学習, データフュージョン, 深層強化学習, ベイズクリギング法, インドネシア
(Energy monitoring, Deep Learning, Data Fusion, Deep Reinforcement Learning, Bayesian Kriging method, Indonesia)
概要
エネルギー需給における緩和措置は、ネットゼロエミッションを達成するための重要な課題の一つです。エネルギー消費のモニタリングは、省エネ・温暖化対策に関する効果的な政策立案の基礎となるものですが、多くの途上国は、現在のエネルギー需要やその需給を把握することが困難な状況にあります。これまでに著者らは電力消費のモニタリングシステムを開発するための取り組みを行い、モニタリング装置を設置した家庭の電力消費量とパターンを分類してきました。しかし、これらのデータはあくまで個別世帯のものであり、都市全体の電力消費の実態を把握するためには、これらのデータを基に、モニタリングされていない世帯の電力消費量やそのパターンを推定できることが重要です。都市全体、あるいは地域全体にシステムを拡大することで、より詳細な電力消費パターンの把握が可能になると期待されています。
しかし、プライバシー保護の観点から十分なサンプル数を容易に確保することは困難です。そこで、別種のデータを統合し、欠測データと別種データの共通する変数に基づいて欠測データを補完し、データ数を増加させる「データフュージョン」という手法を用います。本研究では、モニター世帯を含む複数世帯を対象にアンケート調査を実施し、データフュージョンによりモニター世帯に対応するデータを模倣したデータを生成しました。
ただし、模倣されたデータは少数のモニタリングポイントに基づくものであるため、そのデータのみに基づいてモデルを構築することは適切ではありません。そのため、時系列のエネルギー需要を予測・推定する深層強化学習システムを開発し、モニタリングデータを用いて理論サンプル数が増加した際に推計モデルを自動的に改善するアルゴリズムを実現しました。この手法では、エネルギー統計の整備が進んでいない途上国において、実際のエネルギー需要を監視・管理するための基盤として特に重要になると考えられます。
本研究は、インドネシア・ボゴール市を対象に、各デバイスからのモニタリングデータと、対象都市の各世帯のアンケート回答をもとに、深層強化学習システムで多段階の分析システムを開発しました。その概要は以下の通りです。1)モニタリングデータを用いたエネルギー需要量および時系列パターンの分析、2)モニタリング対象世帯を含む多数の世帯へのアンケート調査、3)モニタリングデータとモニタリング対象世帯のアンケート回答の組み合わせによるエネルギー需要量およびパターンの推定、4)データフュージョンによる 3)の結果を拡張した深層学習モデルの開発、および アンケートのみ対象世帯へのモニタリング世帯を模倣した電力消費データの推計、5)空間統計学を用いたボゴール市の模倣データによる全家庭のエネルギー需要特性の空間内挿です(図1)。このシステムでは、将来的には都市全体の電力消費量を推定することが可能になると考えられます。また、このシステムは、都市の脱炭素化を進めるために、どこに機器を設置すればいいのか、という議論を行うための基礎情報を提供できる可能性があります。
今後、モニタリング対象世帯を増やしていく必要がありますが、このモデルをディープラーニングで構築することで、アンケートなど比較的入手しやすいデータ手法から擬似的にデータを解析するツールを開発することができました。図2は、本推定システムによる推定結果と、ピックアップした3世帯のマッピングを示したものです。
図3は、ボゴール市の全世帯のエネルギー需要、エネルギーパターン、機器所有のデータを空間的に補間して統合した結果を示しています。ベイズクリギング法を用いてエネルギー需要、エネルギー需要パターン、機器所有の空間補間を推定し、ボゴール市の家庭の日々のエネルギー需要変動を推定することができました。この結果から、ディープラーニングを用いた本推定システムは、モニタリングデータなどからの少量の詳細なデータを基に、都市規模でのエネルギー需要の推定に利用できる可能性が高いと考えられます。 今後、モニタリング地点の増加やデータベースの構築により、本システムの有用性をさらに高め、一般化することが可能であると考えられます。本研究で構築したシステムは、自治体の脱炭素化計画を支援し、調査地点の計画策定を支援するために有効に活用されると考えています。