より良い暮らし指標における重みの分析と持続可能発展指標への拡張の試み

松橋啓介、永野亜紀
2017.6.30

論文情報

 より良い暮らし指標における重みの分析と持続可能発展指標への拡張の試み

著者:松橋啓介、永野亜紀
発表年:2017
掲載雑誌:社会技術研究論文集, 14, 1-8

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概要

  社会の豊かさや幸福度を測る指標の一つに、経済協力開発機構(OECD)が作成した「より良い暮らし指標(BLI)」があります。本研究では、この指標を拡張して、持続可能発展指標として利用することの可能性を検討しました。
 具体的には、OECDのより良い暮らし指標の11項目について、国別の状況を示す評点と、各国のユーザーが付与した重み(関心度)とのそれぞれについて基準化を行い、両者の国別順位の関係を図-1に示すように図示しました。たとえば、日本(JPN) の指標値を全体的に上げるためには、評点と関心度がともに高い、安全、所得、教育を強化することが効率的であることが分かります。その一方、国民の関心度からは、社会とのつながり、環境の質、市民参加に重点的に取り組み、評点を向上させる余地が大きいことが明らかになりました.
 また、BLIの「環境」に不足している地球環境を含む観点のデータを追加して、日本国民が相対的に重視する項目をアンケートで調査しました。その結果、気候変動や生物多様性、資源循環といった持続可能性に関する項目についても一定の重みが与えられることを示しました。
 地域や生活の豊かさを向上させる指標体系を構築する際にも、気候変動、資源効率性、生物多様性といった環境面の持続可能性に関する指標項目を加えることを検討して、持続可能な発展の促進に役立てることが重要かつ効果的と考えられました。なお、持続可能な開発目標(SDGs)を受けて、持続可能性指標と幸福度指標を統合的に測ることが注目されているため、包括的な視点から具体的な項目の選定と共有を進めることが望まれます。

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図-1 OECD各国のBLIの評点と関心度の関係
たとえば、環境の質の日本(JPN)をみると、評点の順位より関心度の順位が高いことがわかる
図-2 重みの比較
OECDのBLIのページにアクセスした人に比較して、本webモニタ調査では教育よりも所得や雇用を重視する傾向が見られた。環境の質や地球環境にも一定の重みが与えられた。なお、項目間の重みが平均化されて著しい差が生じにくい場合は、項目の数が全体に占める重みの割合に影響してしまう。こうした面からも、できるだけ包括的な項目をバランスよく挙げた指標を採用することが重要。