気候変動による低栄養と健康負荷の経済的含意

長谷川知子・藤森真一郎・高橋潔・横畠徳太・増井利彦
2016.1.29

論文情報

 Economic implications of climate change impacts on human health through undernourishment
(気候変動による低栄養と健康負荷の経済的含意)

著者:長谷川知子・藤森真一郎・高橋潔・横畠徳太・増井利彦
発表年:2016
雑誌名:Climatic Change, Volume 136, Issue 2, pp 189–202, DOI 10.1007/s10584-016-1606-4 (2016)

論文へのリンク(英文のみ)

概要

将来の気候変化(気温上昇や降水量の変化)は、農業に負の影響をもたらし、将来温暖化対策をとらない場合、世界全体でみると作物の生産は減少すると予想される。作物生産の減少は食料価格を上昇させ、一部の貧困層の人々が食料にアクセスできなくなり、食料消費が減少する。その結果、栄養不足や低栄養(Hasegawa et al., 2014; Nelson et al., 2010)(Hasegawa et al., 2014; Nelson et al., 2010)、さらには、子どもの発育不全や深刻な疾病を引き起こし、最悪の場合、死亡に至るケースもある(Ishida et al., 2014; S. Lloyd, Kovats, & Chalabi, 2014; S. J. Lloyd, Kovats, & Chalabi, 2011)(Ishida et al., 2014; S. Lloyd, Kovats, & Chalabi, 2014; S. J. Lloyd, Kovats, & Chalabi, 2011)。
私たちは、このような気候変化がもたらす低栄養に起因する健康負荷を経済的に評価した。今回の評価では次の2つの影響を取り上げた。第一に、医療サービス費用の増加と人の死亡によって失われる労働力がもたらす経済損失。第二に、失われる生命の経済的価値である。結果として、低栄養起因の死亡により失われる価値が相対的に大きいことを明らかにした。すなわち、i) 気候変化による低栄養起因の死亡・疾病がもたらす医療費と労働力の減少がもたらす影響は、地域的ばらつきがあるものの、微小(世界GDP比-0.1~0.0%, 2100年時点)である。それに対し、ii) 低栄養により失われる生命の経済的価値は2100年時点で世界全体では-0.4~0.0%、地域によって-4.0~0.0%のGDP損失に相当する。本研究は、初めて低栄養由来の健康リスクを経済的に評価した。この成果がまだ評価されていない気候変化の影響の把握の第一歩となればと期待する。

図 異なる社会経済条件と気候条件におけるa) 食料消費カロリー, b) 栄養不足人口 c) 千人あたり障害調整生存年数(Disability-Adjusted Life Years; DALY) 。レンジは気候モデル、作物モデルによる不確実性を示す。黒の実線は気候変化がない場合の数値を示す。SSPは将来の社会経済状況を表すシナリオで、SSP2はなりゆき社会, SSP3は分断型社会を表す。RCPは将来の代表的な温室効果ガス濃度パスを示し、RCP2.6は地球温暖化が抑制されたパス、RCP8.5は地球温暖化が進行したパスを描く。SSPについて詳しくは(O’Neill et al.)、RCPについては(van Vuuren et al., 2011)。