Spatial discounting of ecosystem services
(生態系サービスの空間割引)

Rintaro Yamaguchi, Payal Shah
2020.10.26

論文情報

 Spatial discounting of ecosystem services
(生態系サービスの空間割引)

筆者:Rintaro Yamaguchi, Payal Shah
年:2020
掲載誌:Resource and Energy Economics, 62

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キーワード

空間割引、距離減衰、生態系サービス、自然資本、支払意思額(WTP)、便益移転

要旨

 生態系の機能のうち、生態系が私たちの暮らしに与えているさまざまな恵みを「生態系サービス」と呼んでいます。生態系サービス評価においては、発生源から遠ざかるにつれてサービスが減ることが知られており、距離減衰(Distance decay)、空間価値減衰(Spatial value decay)、地理的割引(Geographical discounting)などと言われています。ただ、発生源から遠ざかるにつれてサービスの量が減るのか、それとも価値が減るのか、往々にして曖昧でした。


そこで本研究では、気候変動の政策分析で使われる時間軸での割引率の理論を空間軸に適用し、生態系サービスへの支払意思額(WTP)が空間軸でどう変化するかを理論的に検討しました。WTPは、環境評価や保全・開発政策評価でよく使われます。この変化率を「空間WTP割引率」と呼ぶことにします。たとえば、森のそばに住んでいる人、森から10㎞離れたところに住んでいる人、それぞれの人にとっての森の恵み(たとえば大気汚染物質を減らすサービス)の量が100、50だとして、どちらのWTPが高くなるでしょうか。主な結果は以下の通りです。

・空間WTP割引率は、いくつもの要因によって決まる。中でも、人口密度、生態系サービスの量の変化率、生態系サービスの変化に対してどれだけ人々の満足度が変化するか(=生態系サービスに対する限界効用の弾力性)、一般の財の消費の変化率、消費の限界効用の弾力性などが重要である。
・また、WTP割引率は、生態系サービス割引率と消費割引率との差に等しい(WTPは、消費や所得に比べて生態系サービスがどれくらい希少かによって決まるため)。
・生態系サービスの減少を上回るほど人々の満足度が増えるのであれば(=生態系サービスの限界効用の弾力性が1より大きければ)、発生源から遠ざかってもWTPは減少しない。
・また発生源から遠ざかっても、所得や人口密度が十分に増えていけば、やはりWTPは減少しない。

このように、生態系サービスは発生源から遠ざかっても、その価値が減るとは限らないことが理論的に示されました。この枠組みは、近年研究が進んでいる便益移転(ある研究で得られた環境評価を他の環境評価に使うこと)の理論とも整合しています。

ここで用いられた枠組みを使って、生態系サービスの価値を空間軸で集計し、さらに(将来発生するサービスも合計することで)時間軸上でも集計すると、自然資本としての森林などの価値を計算できます。このように空間軸・時間軸上で集計した自然資本の価値をモニタリングすることによって、対象地域の持続可能性を判断する目安が得られます。

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