A novel method for acquiring rigorous temperature response functions for electricity demand at a regional scale
(地域スケールにおける電力気温感応度関数の新しい特定手法の提案)

Yuki Hiruta, Lu Gao, Shuichi Ashina
2022.3.17

論文情報

A novel method for acquiring rigorous temperature response functions for electricity demand at a regional scale

著者:Yuki Hiruta, Lu Gao, Shuichi Ashina
年:2022
掲載誌:Science of The Total Environment, Volume 819, 1 May 2022, 152893

キーワード

気温感応度、電力需要、気温、人間活動、Multivariate adaptive regression splines (MARS)、気候変動

要旨

電力需要は、刻々と変化する環境条件に対する人間の応答を反映するため、日々の気象条件や将来の気候変動は電力需要の多寡に影響を与える。一方、電力需要の多寡も発電に伴う温室効果ガス排出等を通じて将来の気候に影響を与える。将来の気候変動が電力需要や電力システムに与える影響を評価し、気候変動への対策を講じるうえでは、気温 1°Cあたりの電力需要の変化量を示す気温感応度関数(TRF:temperature response function )を正確に把握する必要がある。しかし、電力需要の多寡は多くの要因が複雑に関連して決まるため、正確なTRFの特定は容易でない。

本研究は地域スケールの正確なTRFを特定する手法の提案を目的とする。提案手法では、まず、電力需要を多様な変数で説明する包括的なモデルを構築する。そして、構築したモデルを使ったシミュレーションにより、気温以外の要因の影響をコントロールしたうえで、気温と電力需要との関係を特定する。モデル構築にあたっては、6種類の回帰アルゴリズムを予測精度、汎化性、解釈可能性、計算コスト等の観点で評価し、最良の評価が得られたmultivariate adaptive regression splines (MARS)を採用した(図1)。

結果、構築したモデルを用いた時間帯別のシミュレーションによって、日中と夜間とでは、電力需要の値だけでなく、TRFのパラメータ(傾き等)、TRFにおいて電力需要が最低となる気温であるBalance point temperature(BPT)も異なることが明らかとなった(図2)。また、季節によるTRFの違いは殆ど気象指標や暦によって説明でき、それ以外の人間活動の季節周期がTRFに与える影響は僅かであることも明らかとなった。さらに、本研究では、全国10地域を対象として、昼夜のTRFを特定し、これをシンプルな回帰式で近似することでそのパラメータも提供した。以上より、気候変動影響予測等に際しては、昼夜で異なる2種類のTRFを適用すること、また、技術的に可能な場合にはTRFに代わって、現象全体を包括的に捉えた回帰モデルを直接適用することを提案した。

図1 評価指標MAPE (%)による6種類のアルゴリズムの評価. (論文[1] Fig. 4より)


      
図2 時間帯ごとのTRF. (論文[1] Fig. 4より)
日中と夜間とでは、TRFの形状(a)、電力需要の値(b)、BPT(c)が異なる.
[1]    Hiruta Y, Gao L, Ashina S. A novel method for acquiring rigorous temperature response functions for electricity demand at a regional scale. Science of The Total Environment 2022;819:152893. doi:10.1016/j.scitotenv.2021.152893.