Income inequality and the distributional effects of elevated carbon dioxide on dietary nutrient deficiency
(所得不平等と二酸化炭素濃度上昇に伴う食料栄養不足の分布効果)

Wenchao Wu, 高橋潔, Lin Zhou, Shaosheng Jin
2020.8.31

論文情報

 Income inequality and the distributional effects of elevated carbon dioxide on dietary nutrient deficiency
(所得不平等と二酸化炭素濃度上昇に伴う食料栄養不足の分布効果)

著者: Wenchao Wu, 高橋潔, Lin Zhou, Shaosheng Jin
年:2020
掲載誌:Journal of Cleaner Production, 265, 121606


論文へのリンク(英文のみ)

キーワード

Distributional effect; Elevated atmospheric CO2; Nutrition

要旨

全球平均の大気中二酸化炭素(CO2)濃度は、その増加を抑制する取り組みが無かった場合、2050年前後に550ppmに達すると見込まれている。圃場実験によれば、CO2濃度が増加した環境下において食用作物中の蛋白質、鉄分、亜鉛等の微量栄養素含有量が低下することが懸念されており、従来から指摘されてきた気候変化に伴う作物収量減少に上乗せされる形で、人間の栄養摂取状況に悪影響をもたらしうる。全球規模のモデル研究を通じて、そのような栄養摂取状況への影響が、栄養不足人口の増加の形で顕在化することも指摘されている。そこで本研究では、大気中のCO2濃度の増加に伴う農作物中の蛋白質、鉄分、亜鉛の含有量の減少が食料消費を通じた栄養摂取に及ぼす影響についての分析を実施した。より具体的には、中国を評価対象地域として、同国内での所得階層別の食料構成を考慮した分析を実施した結果、全体が摂取する蛋白質、鉄、亜鉛が約2.17〜4.75%少なくなり、栄養不足人口率が1.35〜4.42%増加することが示された。

Fig. 1 CO2濃度550ppm条件下での所得階層別の栄養摂取減少率に関するモンテカルロ解析の結果

さらに、CO2濃度増加に伴う上記栄養素の摂取減少の大きさが所得階層により異なること、もとより所得階層により上記物質の摂取に差があるところ、CO2濃度増加に伴い階層間の格差がより広がる傾向があることについて見出した。下位10%の所得層の上記栄養素の接種減少率は、上位10%の所得層の減少率の1.37~1.54倍となると見積もられた。低所得層では、蛋白質、鉄、亜鉛すべての栄養素の摂取量が同時に減少し、健康リスクに対してより脆弱になる。この研究は、CO2濃度が上昇した環境下で著しい社会的不平等が存在することを明らかにした。この社会的不平等を解消するためには、低所得層を明確に対象とする栄養政策の実施を検討すべきである。

Fig. 2. 蛋白質・鉄分・亜鉛それぞれの間での栄養摂取減少率の相関