持続可能な交通まちづくり政策への社会的支持に関する考察

松橋啓介, 陳鶴, 有賀敏典, 金森有子
2020.2.12

論文情報

 持続可能な交通まちづくり政策への社会的支持に関する考察

著者: 松橋啓介, 陳鶴, 有賀敏典, 金森有子
年:2020
掲載誌:環境科学会誌, 33(1), 1-10

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キーワード

公共政策、一般意志、フューチャー・デザイン、トランジション・マネジメント

要旨

 持続可能な社会への転換を実現するためには、持続可能な社会の方向性(ビジョン)およびその転換過程(トランジション)を提示するだけでは不十分で、転換に関する社会的・公共的な支持・合意を広く得ることが重要になると考えられます。
そこで、多数の市民を対象とするweb調査のデータを用いて、持続可能な移動手段の優遇政策に対する市民の賛否と理由および政策選択に対する考え方や日常的な道徳観との関係を分析し、賛否の状況や特徴を明らかにしました。これを踏まえて、持続可能な政策への支持を増やすために多様な道徳観に応じた働きかけを行うこと等を提案しました。
具体的には、自分の損得を気にする人には政策が自分の生活に関係することを伝えるとともに遵法意識を気にする人には政策の詳細を伝えること、多様な市民が参加する政策選択の機会を積み重ねることでまちの将来は市民がみんなで決めるものという参加意識を底上げすることが挙げられました(図-1,2)。
個人の行動転換と社会の政策転換をあわせて実現することを目指して、「政策として」「市長になったとして」の政策選択を明示的にたずねることによる政策転換の可能性を指摘した2018年の研究2019年の発表(東京財団政策研究所)とあわせて、公共の利益に適う持続可能な社会づくりに資する研究に取り組んでいます。
図1 持続可能な移動手段優遇政策への賛否とその理由(n=3,280)

賛否の割合は,支持する21%,どちらかといえば支持する35%,どちらとも言えない34%,どちらかといえば支持しない3%,支持しない5%,その他1%。

支持の理由としては,「まちづくりには長期的な視野が大切だから」が約半分を占める。次に,「自分の生活に関係するから」が40%弱と続く結果となった。一方,「なんとなく」,「政策を提案している主体を信用できないから」,「他に重視すべき政策があるから」といった理由は,支持しない場合に多く挙げられている。また,「詳細がわからない」ため,「どちらともいえない」とした回答も多いことが分かる。

図2 日常的な道徳観と持続可能な移動手段優遇政策への賛否とその理由(n=3,306)

日常的道徳観の全体の割合は,罰せられないこと3%,自分の損にならないこと10%,自分の得になること11%,周りの人に変に思われないこと6%,周りの人に良いねと認められること4%,法律やきまりに反しないこと19%,社会的に公正であること11%,自分の良心に従うこと28%,なんとなく9%である。

残差分析によると,日常的道徳観を「社会的に公正であること」や「自分の良心に従うこと」とする人は,賛否の理由を「まちづくりには長期的な視野が大切だから」とする一方,「自分の損にならないこと」や「自分の得になること」とする人は,理由を「自分の生活に関係するから」としており,支持の理由に違いが見られた。また,「法律やきまりに反しないこと」とする人は「詳細が分からないと判断できない」から賛否を「どちらともいえない」とする傾向が見られた。