福島県立新地高校「先駆けの地における再生可能エネルギー教育推進事業」報告記事

福島県新地町の高校生と再生可能エネルギーとまちの未来を考える
2018.6.15

1.事業概要

写真1「先駆けの地における再生可能エネルギー教育推進事業」に参加する高校生たち

国立環境研究所は、2017年度に福島県立新地高校が実施した福島県の「先駆けの地における再生可能エネルギー教育推進事業」に協力しました。この事業は福島県が推進するもので、福島県が目指す循環型社会の形成に向けて、児童・生徒の発達段階に応じた再生可能エネルギーと資源の利用に関する意識の醸成を図り、先駆けの地の県民として主体的に行動する態度や資質、能力を育成することを目的としたものです。新地高校での取り組みにおいては、気候変動の影響の顕在化や、国際社会と日本での低炭素取り組みの背景を学ぶとともに、地域でのエネルギーシステムの重要性の中で、福島のエネルギー事業の理解を深めることを目指し、実施されました。事業の中で関連するトピックについて学習し、その成果の発表もしました。

2.事前学習

3回にわたる事前学習では、気候変動の仕組みや影響について、まちづくり、スマートコミュニティ、新地町で進んでいるエネルギーに関する取り組みなどについて学びました。具体的には、環境未来都市としての新地町の現在の取り組みや将来展望について、藤田センター長と、新地町の都市計画課と企画振興課の方々から講義がありました。また、国立環境研究所が新地町で実施している「くらしアシストタブレット」(*)を活用した地域全体での省エネ化の取り組みについて、中村研究員らから話題提供がなされました。
普段学校では習わない内容ばかりで戸惑う様子もありましたが、特に新地町のエネルギーに関する取り組みについては、新地町にいながらも知らなかったので勉強になったという感想がありました。
(*)「くらしアシストタブレット」とは?:各家庭にその過程の消費エネルギーがリアルタイムで見ることができ、省エネに取り組みやすくするために導入した専用のシステム。配布したタブレットでは、エネルギーの消費状況の他、新地町でのくらしに関連する情報も見ることができます。

写真2事前学習の様子

3.学習成果の発表:「環境教育フェスティバル」と「新地町地域エネルギーフォーラム」

写真3発表準備の様子
写真4環境教育フェスティバルの看板
今回の事業では学習内容をもとに、高校生たちが新地町の未来について考え、その内容を高校生からの提案として発表する機会が2回ありました。
まずは、平成29年8月5日(土)に福島県三春町の福島県環境創造センターで開催された「環境教育フェスティバル」において、「気候変動の影響と地域発信のエネルギーシステムの環境経済効果について」というテーマで発表を行いました。普段人前で発表することはほとんどないという高校生たちは、とにかく緊張したとの感想でした。
 続いての発表の舞台は、9月5日(火)に新地町農村環境改善センターを会場として開催された「新地町地域エネルギー国際フォーラム」です。本フォーラムは、地域エネルギーを活用する街づくりの先進国であるドイツにおいて、再生可能エネルギーや地域暖房で街の活力を呼び込んでいるノルトライン・ヴェストファーレン州ザーベック町長らが日本を訪問する機会に、町長および気候変動計画局長らの参加をいただき、地域エネルギーで街を活性化するための住民参加の方式やビジネスモデルについて、新地町民らと意見交換をすることを目的として行われたもので、環境省、新地町、国立環境研究所の主催により開催されました。新地高校生たちは事前の準備も念入りに行い、環境教育フェスティバルでの経験も活かした効果か、聴衆が100人以上という場でも落ち着いて発表する姿は頼もしかったです。
 今回発表された高校生からの提案は次の3点に着目したものでした。

①スマートコミュニティを活用する未来へ
②エネルギー自給200%のまちづくりへ
③町全体に広がるまちづくりへ

①スマートコミュニティを活用する未来へ、については、農業・医療・交通の低炭素化・駅周辺の開発・教育など新地町の具体的な将来課題についてICT技術が解決できるのではないかという発想から考えました。②エネルギー自給200%のまちづくりへ、については、新地町が進めている地域エネルギー事業と再生可能エネルギーの導入を組み合わせてエネルギー自給率のより高い地域づくりを目指すこともできるのではないか、という提案です。最後に、③町全体に広がるまちづくりへ、とは、現在駅周辺の開発は進んでいますが、そこだけではなく観光地の鹿狼山(かろうさん)・周辺農地・工業エリアなども含めて、新地町全体が活性化するようなまちづくりをしていくことが重要ではないかという提案です。
事前の準備を頑張った甲斐もあり、ザーベック町からの来賓の方からも激励のメッセージをいただきました。 
写真5新地町地域エネルギー国際フォーラムのゲストであるドイツ・ザーベック町長と

4.事業を終えて:「自分のまちに貢献したい」

事業が終わりを迎え、改めて高校生たちに今回の学びと感想を聞いてみました。三者三様の答えが返ってきましたが、その根底にある想いには共通するものが見えてきます。

『駅周辺の開発ができるだけ早く進んでほしい。将来的には、駅周辺だけでなく町全体が活性化していけば良いと思う。』 

『研究者のように何かを追及できるというのはすごいと思う。また、(進学で地元を離れるけれども)、これからは自分のまちのために何かしていければ良いなと思う。その土地に行って、その土地のものを買うとか方法はいろいろあると思う。』

『(太陽光パネルを切断する専用のワイヤーを製造する会社に就職するので)これから就く仕事を頑張って、間接的に再生可能エネルギーの普及に貢献できればと思う。新地町に住んでいながら、これまで新地町のことを考える機会はあまりなかったけど、今後は町内の活動にもかかわっていきたい。』

それぞれの形で学びがあったようですが、『新地町がもっと活性化してほしい』、そして『自分のまちに貢献したい』という想いが共通しているように見えます。

最後に、今回事業運営を担当された高村先生にもお話を伺いました。
高村先生は、参加した3人には良い変化があったと言います。一方で、この事業は単年度のものなので、継続性は課題として残っています。継続していくことで、学校の特色を引き出したり、町民から新地高校はおもしろいことをやっていると認識されるので、こういうことに挑戦することは重要だと指摘されました。新地町が環境未来都市として今後も取り組みを進めていくのであれば、(地域エネルギーフォーラムで紹介のあったドイツ・ザーベック町でもあったように)、学校も協力しながら新地町全体としてエネルギー教育のモデル都市になっていければ良いのでは、というアイディアも。環境やエネルギーに関して人材育成やUターンの流れを作ることができれば、地方都市が抱える過疎などの問題の解決にもつながるかもしれません。

『まあ失敗するかもしれないですけど、その(やってみる)過程が非常に大事で、やらなければ何もでないじゃないですか。』
 
写真6事業を終えての集合写真

新地町の高校生が、自分たちのまちの未来を考える機会として今回の事業を実施しました。高校生も、またそこに関わった研究所としても学びの多い事業でした。参加した高校生たちが、新地町でこれからも生活していくにあたって、また新地町以外で生活していくうえでも、今回の学びが町の将来を考え、そこに貢献していくきっかけになればと願っています。

(文:杦本友里 社会環境システム研究センター)