気候変動適応センター設立1年を振り返って

vol.10-1 肱岡 靖明 室長/気候変動適応センター副センター長
2019.12.10

10人目のインタビューは、肱岡靖明室長(地域環境影響評価研究室/気候変動適応センター 副センター長)にお話しを伺いました。気候変動適応センター設立からちょうど1年経ちました。これからどんなことに取り組んでいかれるのでしょうか。

<前編>気候変動適応センター設立1年を振り返って

適応センターが設立から12月で1年ですね。この1年は主にどんなことを取り組んでこられましたか。

 そうですね、1年です。早かったですね。ごく少人数で始めた気候変動適応の活動も、いまでは研究所に適応センターも立ち上がり、数十名の体制で様々な活動を展開しています。特に、地方公共団体の活動を支援することを目標の一つとし、この一年で、現在設立されている13団体すべての地域気候変動適応センターを訪問させていただきました。これは、現場のニーズをしっかり伺って、役立つ情報を提供するために行ったものです。この訪問で得られたニーズを38項目に整理して、一つ一つ具体的な支援策を検討して準備を進めています。

例えば、ArcGIS onlineを使った地域での気候変動影響情報収集ツールの開発や、関係者に説明するための資料作成まで、必要なものは片っ端から作ってしまおうとみんなで取り組んでいるところです。

もう一つ大きな活動としては、気候変動適応法の施行や気候変動適応センターの設立の核となった、気候変動適応情報プラットフォーム:A‐PLATの大改修にも取り組んでいます。このA-PLATは2016年8月に開設したのですが、コンテンツの大幅な拡充に伴い情報の整理が必要と考えて、Web構築の専門家もメンバーに加わってもらい、センター設立一周年を記念して大リニューアルを今年12月2日に行いました。また、アジア太平洋地域の適応活動支援を目的としたアジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム:AP‐PLATも開発・運営していますが、2020年に正式にオープンするはずだったのですが、今年のG20で正式公開となりました。

今、世界中でこのような気候変動適応に関連する情報プラットフォームが多数公開されています。そこで、A-PLATやAP-PLATのさらなる強化・拡張を目的として、昨年12月に、世界でも先進的なプラットフォームを運営する専門家を招き、第一回専門家会合を開催しました。この活動は継続され、アイルランドチームが2019年10月に第二回をダブリンで、日本チームが2019年11月末に第三回をつくばで開催しました。この活動は今後も続けていく予定です。
このような研究を超えた部分をどうやって進めていくか、世界の専門家に学びながら進めています。すべては、世の中に何か役立つものを創り出したいという思いで突き進んできた1年でした。

地域の適応センターはどのような組織が担っているのでしょうか。

地方公共団体によって様々です。当初は地方環境研究所に設置されると考えていましたが、茨城県のように、茨城大学が母体となって立ち上げたケースや宮崎県のように県の環境森林部環境森林課内に設置したケース、三重県では一般財団法人に設置されたケースもあります。もちろん、長野県や埼玉県のように10年以上適応の研究を実施してきた地方環境研究所が母体となるケースもあります。このように、地方公共団体に状況に応じて、様々な形で地域気候変動適応センターが設立されてきています。また、適応への取り組みもさまざまであるため、我々はどんな形ででも協力できるように一緒に知恵を絞って適応に取り組んでいきたいと考えています。

そういった地方公共団体とのやり取りや、A‐PLATの運営を通じて、適応法の施行後どのような変化がありましたか。

まだ適応法が成立していない時期は、適応策の重要さはわかるけどまだやらなくてもよいのでは?とか、適応策に取り組みたくてもその根拠がないためどうやって関係者に説明すればわからないし、どうやって進めていいかもわからない、など、後ろ向きなコメントがよく聞かれました。我々も、手元にある情報や研究成果を渡す程度で、A-PLATも一方通行だった気がします。法施行後は、気候変動適応法第12条に規定する地域気候変動適応計画も30件近く策定されました。我々も、A-PLATのみならず、意見交換会や研修会などを開催したり、地方公共団体を訪問してニーズを伺ったりと、格段に活動が活発化したと思います。A-PLATのアクセス数も格段に増えました。やはり法律ができたことで、いろんな人が適応に興味を持ってきていると実感していますし、もっと必要な情報を充実させていかなくてはならないと強く感じています。

地域の適応センターはこれからもどんどん増えて、47都道府県で設置されるのでしょうか。

それはわかりませんが、個人的にはすべての都道府県で設置してもらうことを期待しています。できれば市町村レベルでも。もちろん、地域の適応センターが必要な情報をすべて自ら集めたり、独自に活動していくのは容易ではないと思います。そこで、我々ができるだけ多くのセンターを下支えできる体制を整えて、一緒に地域の適応を推進していきたいと考えています。特に、国環研は研究に関する情報を責任をもって整理して伝える役目、地域の適応センターはその情報を地元にしっかり伝えていく、地元で必要とされる情報は地域の適応センターと国環研が一緒になって創造していくという緊密な連携が取れたらと思っています。

あと、適応策の観点だけでずっと取り組まなくても良いだろうとも思っています。最終的には持続可能性とか安心安全の確保のための対策の中に、気候変動もこうやって対策しているから大丈夫だろうという、一つのパーツになればいいかなと思っていますね。それはまだ今の段階では理想論なので、まずは適応の考え方を知ってもらって、最終的に適応策もきちんと実施できて、気付かないうちに適応できていて良かったっていう世代になるといいかなと思います。それこそ、昔はこんな苦労していたらしいよと思われるかもしれませんね。今はちゃんと大丈夫なとこに住んでるし、2100年まで考えた生活してるし、いろんな災害の準備もできてるよとか。でもCO2はちゃんと減らしていかないとね、みたいな未来になるために、今のうちに適応するための準備を考えられたらなって。もちろんそんなに被害を受けずというか、気温も上がらずに雨も強くならなくなればそれに越したことはないんですけど。

まとめると、法律ができて地方公共団体の意識や状況が変わってきて、地域の人が自分の言葉で伝えられるようになる手助けを国環研がしていくという流れですね。

 そうですね。地方のみなさんが気候変動影響から守っていきたいものや、自分たちでこういうことを守っていきたいという時のための基礎情報をちゃんと出して、自分の県はやっぱり農業をしっかりやりたいとか、別の所だったら都市を守って産業を守りたいとかいろいろあると思うので、どういう社会にしたいかそれぞれに考えてもらうのですが、それも根拠がないとまとまらないと思うので、これからの社会像を考えてもらうための材料出しをしていければと思っています。

分かりました。それでは2年目以降のミッションといいますか、さらに力を入れていきたいことはなんですか。

 今、科学的知見も2014年ぐらいに出した推進費のS8の結果を活用していますが、来年度からS18というプロジェクトも始まります。やっぱり研究者として科学的情報をしっかりとつくることも欠かせません。自分たちもそういう研究をするし、外の研究者ともチームを組んで、オールジャパンでやるぐらいの勢いでやっていく。

A‐PLATをつくった元々の理由も、S8の時に、自治体からデータがほしいという問い合わせが多かったことがあります。ウェブサイトにデータを載せてダウンロードできるようにしたいというのを他の先生たちにも相談して、OKが出たので作ってみたら意外とうまくいったというのが背景です。

 そういう流れもあったんですけど、これからは中身になるデータを更新したり、これまでにはわかっていなかったような、適応したらどれぐらい被害が減るのかなどを示せると、適応すれば得するじゃないかとか、じゃあ先んじてやっていこうとなるかもしれませんよね。かといって、例えばミカンがダメになるからリンゴにしようと、簡単には転換できません。転換するとどれぐらい大変だけど何十年単位で見るとどれだけ得するのか、といった点を見せられるようになるといいなと思っています。前はその被害とか、影響がどうなるか、ということばかりだったので、その次の段階の科学的知見を出したいなと思っています。それを5年間、来年度からできるので、それはうまくいくといいなと思っています。あとは、(地域の適応センター設立のために)47都道府県全部巡ろう、というところですね。

 先日、企業向けのワークショップやシンポジウムで講演しましたが、企業は動くと早いと思うので、そういうところもフォローしていきたいですね。事業者の数も多いので。だから自治体はもちろんですが、民間企業にも興味を持ってもらえたらいいですけど、そこは収益との関係が難しかったりもします。

後編へ

 前編では気候変動適応センター設立後最初の一年にどんなことに取り組んできたかを伺いました。2年目以降もどのような動きがあるのか楽しみです。

後編ではこれからの適応研究についてお話しを伺いました。