これから求められるイノベーションとは?:個人の努力から技術での仕組みづくりへの転換

vol.9-3 藤井 実 室長<後編>
2019.11.5

最後の後編は、昨今話題となることが多い「イノベーション」について。私たちの社会に必要なイノベーションとはどのようなものだと考えるか、聞いてみました。

<後編>これから求められるイノベーションとは?:個人の努力から技術での仕組みづくりへの転換

インドネシアのプロジェクトや産業廃棄物リサイクルIoT導入促進協議会などに取り組まれていますが、昨今話題に上がることの多い「イノベーション」について、藤井さんはどのようにとらえられていますか。

 イノベーションといっても、例えば生命科学の分野だと、少なくとも一般の人には思いもよらないような、まったく新しい技術イノベーションが起こり得ると思うんですけど、エネルギーとかCO2削減の分野では、熱力学的な原理には逆らえないので、夢のような技術が生まれることはありません。逆に言うと技術はすでにあるんですよ。例えば太陽光発電の発電効率が2倍に増えるとか、リチウム電池の寿命がもっと延びるとか、そういうレベルでの技術の進歩はあるにしても、今の水準で駄目かっていうとそんなこともなくて、割と今の価格とか技術レベルでも、みんながそれらにそれなりに投資をしてくれれば、それで何とかやっていけるぐらいの技術は、もう既にわれわれは持っているんですね。

 でもやっぱり化石資源を持っている人たちはそれを売りたいわけですよね。でも化石燃料を使ってしまうとCO2が出てしまう中で、みんなが如何にちゃんとこの技術に投資しましょうと思うようになるか、ただ化石燃料が売れなくなってそれで困る人たちがいるとしたら、そこに何か経済的なインセンティブを与えるとか、そういうみんなで合意できるような仕組みが多分必要で、そういうイノベーションが一番求められているのかなと思います。

 先ほどのエネルギーシェアリングと言っている仕組みも、1つはエネルギー供給のインフラをシェアすること、それからエネルギー自体をみんなでシェアして効率的に利用するんですが、あとはエネルギーに関わる情報をシェアしましょうと言っています。今行われていることだけでなく、将来のポテンシャルもみんなで共有し合うことも含めて、どこでどれだけの熱供給が可能かという情報と、それを使える施設がどこにどれだかあって、みたいな情報とを組み合わせて需給のマッチングができれば、そこで何か新たな熱のネットワークができ得ることを見つけられたりするので、そういう情報シェアを進めていくことが大事かなと思います。

 熱を共有して使うことは、技術的にはそれほど難しい話ではないんですが、それがなかなか社会に実現していかない中で、情報をみんなでシェアしてこれがいいんだということを理解して、例えばシミュレーションすればこれぐらいの経済や環境面での効果があるということが分かるので、そういった情報全体を多様な主体同士でシェアすることで、対策が進んでいくようになるといいと思いますね。

情報やポテンシャルを共有していくというイメージですね。それでは、今後力を入れていきたいことは何ですか。

 そうですね。まさにさっきお話ししたシェアできる仕組みを、まずは世の中に実現したいと思っていますね。日本で難しいならまず海外でやってしまおうということもあるかもしれません。結局、「ほら、こんなふうにすれば上手くできますよ」という実例を示さないと、なかなか話を聞いてもらえず、その気になってもくれないということもあります。小さなことからでよいので、何か社会で実際に実現して上手くいけば、次はどんどん進んでいきやすくなります。その最初の1つを作るというところにまず注力したいと思いますね。

そのパイロットプロジェクトとして実現しようとしていることが今の研究になっているわけですね。

例えばインドネシアでは、一部の政府や研究機関の方々はとても乗り気になって下さっているので、まずはフィージビリティースタディーをして実行可能性を追求することから始めようかなと思っています。他のアジアの国々でも、意見交換する中で可能性があれば、例えば中国でも進めていきたいと思っています。中国は最大のCO2排出国なので、彼らがまずは減らしていける仕組みを作ることが大事かなと思うので、共同研究を継続してやっていきたいと思っています。

日本にとどまらず海外でも進めていくんですね。いろいろと進めていく中で、一番難しいことは何ですか。

 研究だけであればある程度自分でコントロールできますが、社会実装を進めようとすると、自分が主役ではありません。結局、関係者の間の信頼関係が大事なんだと思います。CO2を削減するにはまとまった初期投資が必要で、仮に収益が上がる可能性が高い事業であったとしても、やはり確実ということはないので、誰が投資をしてそのリスクを誰が取ってくれるのか。工場同士の関係もありますし、研究者と工場の人との関係もあります。研究者と行政という関係もあると思いますが、それぞれに信頼関係がちゃんとできていないと、なかなか進んでいかないのだろうと思います。安心できる要素の一つとして、上手くいっている例があります、という成果を見せられることは大事なので、先ほどのような話にもなってくるんですけどね。

例えば、仮に火力発電所に「蒸気を送ってくださいよ」って言っても、「今は発電で手一杯です」となってしまう場合もありますが、さっきの九州の事例のように日中発電を抑制しなくてはならないぐらい再エネが増えている場合もある。発電を抑制するのは無駄ではありますが、脱炭素化を進める過程では避けられないことでもあります。火力発電の電気が売れない状況になると、じゃあ蒸気を送るかということを考え始めると思うんですよね。そういう意味では、追い風になっているのかもしれません。

 廃棄物の焼却も今までは発電に偏重していましたけど、電気をつくっても、「再エネの電気が十分にあるよね」となってしまうと、やっぱり熱として使わざるを得なくなってきて、それは社会全体として見たときは、資源の効率的な利用に繋がるのだと思います。

ちなみに、こういった変化にはいつごろから着目してされていますか。

廃棄物のエネルギーを工場で有効活用するという話はもう何年も前からやっています。ただ、産業スマートエネルギーシェアリングなどと言いだしたのは1年ぐらい前です。

こういった研究を初めた当初から今にかけて、どういう変化が見られていますか。

 今までは割と机上の理論で論文書くところまでにとどまっていたところがあります。もちろん、新しい何かを創造することは研究者の務めなので、論文も大事なんですが、論文をいくら書いてもそれで世の中が変わらないのでは意味がないので、実際に何かアクションを起こさなければと思うようになったところがあります。これは世界全体としての流れでもあると思うんですが、単に研究にとどまらずそれを社会実装につなげていくというのが、世の中の潮流になってきています。そういう状況なので、企業の方とか自治体の方とお話する機会を意図的に増やしてきましたし、世の中のニーズも増えていて、そういう機会が自ずと増えている面もあるんだと思います。そこがだんだん変わってきたのかなという気がしますね。

机上の研究だけではなく、実際のアクションや社会実装も追求しつつあるわけですね。

そうですね。ただ一方で、あまりケーススタディーばかりやっていてもいけないので、研究全体をちゃんと包含するようなコンセプトを打ち出すことも大事です。それはそれでやってはいますけども。

両輪で取り組んでいくわけですね。
ちなみに研究活動を進める上で、やりがいを感じるときはどんなときですか。

やりがいを感じるとき、何でしょうね。これからやりがいを感じたいと思っているっていう感じですね。ちゃんと自分の成果が社会の役に立つと、そのとき、やってよかったなって思うんだと思うんですが。そういう意味では、まだまだです。やりがいを感じたくて今やっているという感じですね。

なるほど。社会の役に立ったと実感できたときにやりがいを感じたい。では本当にこれからますます頑張らなくてはというところですね。以上で終わりたいと思います。ありがとうございました。

 ありがとうございました。