後編では、地球温暖化影響・適応研究がこれから取り組むべき課題について高橋さんのお考えを教えてもらいました。もう一歩進んだ研究活動のためには、何が必要なのでしょうか。
後編では、地球温暖化影響・適応研究がこれから取り組むべき課題について高橋さんのお考えを教えてもらいました。もう一歩進んだ研究活動のためには、何が必要なのでしょうか。
将来の社会経済の道筋がどう変わっていくかが、理詰めで予測しづらいんですね。いろいろな想定を置くことはできるのだけど、そのうちのどれが一番確からしいかといったことを論じづらいと思います。理詰めで予測できない将来の想定とか、そういうあやふやなものを、自分の研究の枠組みの中にあまり積極的に入れ込みたくないという意識が、多くの自然科学の研究者、あるいは研究者コミュニティーにはあり、それが進みを遅くさせている原因なのかなと思います。社会的な意志決定のために、政策決定のために役に立つ情報を作り出すっていう意味では、そこに踏み込まなければいけないはずなんですが。各分野の専門家であるがゆえに、不得手であやふやな社会経済の部分について踏み込んだ扱いをすることに、ためらいを感じるのではないかなと思います。
そうですね。それぞれの分野の流儀とか定義とか、分野をまたいで共通化するのが困難なものもあるので、それは各分野の流儀として残すとしても、複数分野の統合に取り組む場合には、最低限こんな情報は互いに伝え合わなければうまくいきませんよ、といったことが、関係者の間で共通に理解されるための工夫が必要と感じています。
日ごろから目先の仕事に汲々としている私が言うのも何ですが、短期的に身近なところで評価される、褒められるっていうのだけを過剰に意識せず、自分の大事と思う研究にじっくりと取り組む姿勢が大事かと思います。研究がこじんまりとしないように。そのための一つの意識の持ち方としては、地域的な話題を研究するにしても世界規模の話題を研究するにしても、その成果については国際的な研究者間の競争の場で存在感を示せるかどうかという観点で常に自分で捉え直すことが大事なのではないでしょうか。自身の研究の取組や成果を時々一歩引いて眺めてみて、研究者として国際的な競争力を高める方向に向かって取り組めているかどうかを確認する、ということです。たぶん、それが目先の評価に捉われず、長期にわたって研究をしっかりと続けていくための、具体的な方法の一つだと思います。
そうですね。なかなか難しいですね。ケースバイケースっていうのが答えです。よく言われることで、研究者は研究で分かったこと自体よりも、その不確実性について、より多くの時間を割いて説明しようとします。一方で、一般の方が、研究者の話を、例えば温暖化の影響予測の話などを聞くときは、不確実性については実はあまり興味はなくて、ずばり将来どうなるか言ってほしい。そうじゃないと、どうアクションをとったらいいかとか考えられないということだと思います。
その点でも話の最初からお互い伝えようと思ってるものと、伝えてもらいたいと思ってるものにズレがある。そこのギャップがなかなか埋めづらいので、いくら丁寧に時間をかけて易しい方法で話したとしても、うまくいかなかったりします。
そこで、研究者のほうとしては、話すときの意識として、不確実性について正確さを期して説明する必要はあるにしても、極力それを説明のメインにおかず、どちらかといえば、そういう不確実性があるにも関わらず頑健な結論として言えることを明確にして、その点を分かりやすい言葉で伝える努力が必要なのではないでしょうか。逆に聞き手のほうとしては、不確実性なんていうまどろっこしいことを言ってないで結論だけ伝えてよというのでなく、研究者が何かしらの情報を示すときには、その情報には必ず何らかの不確実性がついているということを理解する必要があります。研究の主たる結論だけでなくて、それに伴う不確実性の性質や大きさについても常に意識し、興味を持つ姿勢が、特に将来予測の研究結果などを受け取る際には、今まで以上に必要になるんじゃないかと思います。