社会の変化とともに歩む影響・適応研究

vol.6-2 高橋 潔 室長<後編>
2017.7.7

インタビュー対象

 6人目のインタビューでは、引き続き広域影響・対策モデル研究室の高橋潔室長にお話を伺います。

後編では、地球温暖化影響・適応研究がこれから取り組むべき課題について高橋さんのお考えを教えてもらいました。もう一歩進んだ研究活動のためには、何が必要なのでしょうか。

 
 

インタビュー内容<後編>

これまで卒論からずっと影響の分野に関わってこられた中で、この分野の状況はどう変わってきましたか。例えば最初はあんまり研究している人がいなかったとか、そういうものが今どう変わってきたかとか。

  そうですね。自分の研究テーマが温暖化の影響評価ですという人は、やり始めた頃は、あまりいないと思ってました。人付き合いの範囲も学生としてのものなので、今に比べると狭かったのかもしれないですけど。そうだとしても、国内でその種の研究やっている人は、あまりいなかったのだと思います。

 当時、欧米は、実はもう一足先に進んでいて、僕がやっていたようなことは、実は先に大方やられていたんです。それをなぞるような形で、自分の研究をしました。ただし、なぞるけど、そのときに新たに利用可能になったデータを使って分析し直すといったアレンジをしながら、研究に仕立てていましたね。今は、温暖化の影響研究、かなり成熟してきて、競争相手は増えていると思います。スケールとしても全球スケールだけじゃなくて、もっと小さいスケールで、より詳細に現場のデータと照らした研究も裾野が広がっています。影響予測研究に従事する人の数は非常に増えている印象があります。

 ただ、変わってない部分もやっぱりあります。変わってないというのは、まだ依然としてうまくできてない部分があるということです。

 どうしても影響の研究は、農業の影響なら農学の人、植物や動物への影響なら生態学の人といった感じで、それぞれの部門の専門家が、その従来からの研究の応用として、気候条件が変わった場合どうなるかを試算するわけです。人間の健康にしてもしかり、水の流れにしても。

 ところが、農作物の生産性の問題が、波及的に人間の食料摂取、栄養状態にどう影響を及ぼすのかということや、河川の流量が変わったとして、それによって水不足が起きるのか起きないのかとかということについては、実は人間社会側の話も一緒に考慮しないと、答えが出ないんですね。

 例えば、河川の水の流れについては、雨が降った場合に、地面に浸み込んだり蒸発したり、あるいはいずれでもなくて地表面を流れたり、というようなプロセスを考慮して、物理的なモデルで計算できます。しかしその河川を水源として、そこからいろんな用途で水を引き抜いて使って、さらに余った水や使って汚れた水をまた河川の違う場所に戻していくといったことは、人間活動が今後どうなるかという想定がきちんとできていないと見通せないし、そのメカニズムの理解に関しても、自然系のデータだけでなく社会経済的なデータも把握しておかないとできない。しかし、いわゆる理系の各部門の専門の研究者の人たちは、やっぱり、素性の良くわからない社会経済のデータなんか、あまり手を出したくないわけです。問題をシンプルにするために、現在の社会経済条件が将来も変わらない、というような仮定を置いたりします。

 そのような研究状況は、以前と比べたら少しずつ良くなってはいるけど、すごく大きくは変わっていない。ここが変わっていないことで、現場の意志決定とか、将来の計画、対策検討とかへの有用度がどうしても限定されてしまう側面があります。温暖化の影響の研究に取り組む人の数は増えたのですが、社会経済的な条件についての扱い方については、あまり大きく変わってないと感じます。少しずつは良くなってきてるけど、まだ課題として残っているところです。

人間社会、経済の変化を組み込んだものとして、どんどん変えてく必要があるということですね。変化が遅い一番大きな原因としては何があるのでしょうか?

 将来の社会経済の道筋がどう変わっていくかが、理詰めで予測しづらいんですね。いろいろな想定を置くことはできるのだけど、そのうちのどれが一番確からしいかといったことを論じづらいと思います。理詰めで予測できない将来の想定とか、そういうあやふやなものを、自分の研究の枠組みの中にあまり積極的に入れ込みたくないという意識が、多くの自然科学の研究者、あるいは研究者コミュニティーにはあり、それが進みを遅くさせている原因なのかなと思います。社会的な意志決定のために、政策決定のために役に立つ情報を作り出すっていう意味では、そこに踏み込まなければいけないはずなんですが。各分野の専門家であるがゆえに、不得手であやふやな社会経済の部分について踏み込んだ扱いをすることに、ためらいを感じるのではないかなと思います。

影響の研究をするにも、いろんな専門分野があって、それがつながらないことには、たぶんできない。高橋さん自身も、いろんな分野分野の専門家と一緒に仕事をする中で、大事に思ってることはありますか?

  各分野で培ってきたものが、どれも完成形で誤りもなく、完璧なものであるというわけではありません。どちらかといえばそれぞれの分野で、依然として多くの解決すべき課題が残っています。つなぐ要素となるそれぞれの分野が持ち寄るもの一つ一つに、まだ不完全なところがある。

 その不完全なことがあるものを隠した状態というか、うまくお互いに理解し合わない状態で、ただつなげました、それで新たなことが見えるようになりました、と示したとしても、結局、それは遊びに近いものになってしまいます。

 もしかしたら、そのような連携であっても、新しい視点からの取組みということが評価されて研究論文は書けるかもしれないし、その社会的意義を認めてくれる人もいるかもしれないけれども、本当に環境問題の解決に向けた役に立つ情報を出せる状況になるかっていうと、違うと思うんです。

 一方で、じゃあ、まだ不安が残る道具しかお互い持ち合えていないから、それをつなぐ取り組みは、次の次の段階の話で、今すぐに取り組むべき課題ではないですよね、と話を止めておくと、またそれも良くないんです。それぞれの研究分野ごとに垣根を作って区切って、その枠の外の要素は全て将来変わらないと仮定するとか、切り離して論じるのでは、やっぱり現実味に欠ける分析結果しか示すことができません。各部門のつながりを正しくとらえて、相互のフィードバック効果を考慮して、初めて見えてくる問題もあるわけなので、そこをつながないというのも、また大きな問題といえます。

 その中間の取り組みというか、スタンスとしては、それぞれの持っている道具の強みとか役割を伝えるとともに、その道具の限界とか、その道具で描く推計結果の不確実性などについても、他分野と連携・連結する際には、うまく伝えていかなければいけない。

 そのような弱みや不確実性を伝えることについては、研究者個人個人の自発的な意識の高まりに依存していては、たぶんうまく進まないように思えます。統合的な研究をうまく進めようと思ったら、そこに参加するいろいろな部門の人が、各人の好き嫌いに関わらず、いや応なく各自の持つ道具の問題点とか制約をきちんと伝え合うことが、自然に行われるようなルール作りや仕組み作りが必要なのではないかと考えます。もっとも、それがどういう形で行われるとうまく回るのかは、はっきりとはわかりませんが。例えば、競争的な研究資金を与える際に、その資金を使った研究を実施する際のルールという形で縛れば、うまくいくのかもしれません。あらゆる連携研究をする場合には、紙に一筆、自分の提供する道具にはまだ何が足りてないとか、その道具を使うにあたってはここに注意が必要だとかいうのを書いて連携の相手方に渡すのを科学の流儀にするとか、そういうルールを明示的に作ればいいのかもしれません。どうしたら成功するのかはっきりとは分かりませんが、個人の善意とか努力とかだけに期待するのではなくて、統合研究を促進して役に立つものにするための仕組み作りも真剣に考えるべき時にきてるのかなと思います。

共通の仕組み中で進めるということですね。

 そうですね。それぞれの分野の流儀とか定義とか、分野をまたいで共通化するのが困難なものもあるので、それは各分野の流儀として残すとしても、複数分野の統合に取り組む場合には、最低限こんな情報は互いに伝え合わなければうまくいきませんよ、といったことが、関係者の間で共通に理解されるための工夫が必要と感じています。

なるほど。それでは、影響、適応の分野で、今後もっと大事になっていく、あるいは注目されていくようなテーマはどんなものですか。高橋さん自身が力を入れていきたい研究内容についても教えてください。

  温暖化影響への適応の研究に関していえば、今までは理論の上での適応というか、仮にその適応策を打ったら温暖化の悪影響が理屈上このぐらい小さく抑えることができますよねという予測だったり、そのときに適応策A、適応策B、適応策Cといった異なる対策を実施したら、影響の軽減具合もこのぐらい違いますよね、という試算だったりしました。

 一方で、今、現実に気候が変化しつつある中、生態系保全とか防災とかについて、適応策の検討や実施が喫緊の課題になってきていて、きちんと議論して、優先順位の高い対策を現場で実施していかなければならないということが議論されてるわけです。

 日本の政府も2015年の秋に適応計画を出してますけど、100年後の取り組みとしてではなくて、優先順位の高い適応策に関しては、すぐに実行に移していかなければならないということが共通の理解になってきています。その認識をふまえて、今後、少しずつかもしれないけど、検討の結果優先順位が高いと評価された適応策が、実践されていくことになる状況です。

 そのときに、実践の結果、当初の想定通りに本当にうまく機能したかどうか、あるいはさらなる工夫の余地があったのか。そういう適応策を取ってみた結果に関して、うまくいったか・いかなかったかというのをきちんと事後評価して次に活かすという一連の検討・実施・検証のサイクルを支える研究が、今後大事なものになっていくのではないかと思います。

 今までのところは、そもそも適応が計画や想定だったりするので、その多くは現場で大規模には実施されていないことから、その効果を事後的に評価するっていうのはできていませんでした。今後は少しずつその実施事例が増えてく中で、どうやって事後評価したら良いか、その事後評価の結果をさらに次の優先順位の検討をする際にどう反映していったら良いか、といった問いに答える研究へのニーズが高まるのではないかと考えています。

理屈とか計画だったものが実例になって、それを評価して、次の策を練っていくわけですね。

  そうですね。対策の実践そのものは研究ではないですけど、実践された事例について、その効果について評価する。あるいは、それを打ったときに、もともと想定していなかったような波及的な影響や副次的な影響が、その対策を取ることによって生じたりする可能性もあるので、それらをきちんと押さえていくことが必要かと思います。

 波及影響や副次的影響などは、議論を机の上でしてるだけでは、なかなか見えてこない。実際に対策を打ってみたときに、当初の想定どおりに機能するのか、実は他のところに悪さをしたりしないか、そういったものを一つ一つ確認していくことが、評価手法、予測手法を改善していくためにも必要です。適応策を小規模に試行する段階から、より社会に役に立つ形で広く展開していく段階に移るためにも、その事後評価の適切な手法や手順を確立して、研究事例を重ねることが大事になるんじゃないかと思います。
あと、自身の関わっている影響の予測研究については、将来の社会経済、あるいはその他の気候以外の、関連因子の将来想定について、現在の状況から一切変わりませんという非現実的な想定ではなくて、まだ現時点では読み切れないかもしれないけども、将来に起こりうる幅として、きちんと変化を想定した形での評価を今後充実させていく必要があり、そこは依然として大事な研究課題と思います。

ありがとうございます。最後に若手研究者や、この分野の研究に携わっていくような人たちに期待することやメッセージはありますか。

 日ごろから目先の仕事に汲々としている私が言うのも何ですが、短期的に身近なところで評価される、褒められるっていうのだけを過剰に意識せず、自分の大事と思う研究にじっくりと取り組む姿勢が大事かと思います。研究がこじんまりとしないように。そのための一つの意識の持ち方としては、地域的な話題を研究するにしても世界規模の話題を研究するにしても、その成果については国際的な研究者間の競争の場で存在感を示せるかどうかという観点で常に自分で捉え直すことが大事なのではないでしょうか。自身の研究の取組や成果を時々一歩引いて眺めてみて、研究者として国際的な競争力を高める方向に向かって取り組めているかどうかを確認する、ということです。たぶん、それが目先の評価に捉われず、長期にわたって研究をしっかりと続けていくための、具体的な方法の一つだと思います。

コラム:「不確実性」について

影響の予測をしたときに、「不確実性」があるといいます。その不確実性があることとか、予測からいろんなリスクが考えられますなんて言うときに、そういったものをどう捉えたらいいのでしょうか。結局、不確実性があるといわれたら、そこで思考が止まってしまう人もいるんじゃないかと思うんです。どう考えて、どう備えればいいのかというところ、お考えがあれば教えてください。

 そうですね。なかなか難しいですね。ケースバイケースっていうのが答えです。よく言われることで、研究者は研究で分かったこと自体よりも、その不確実性について、より多くの時間を割いて説明しようとします。一方で、一般の方が、研究者の話を、例えば温暖化の影響予測の話などを聞くときは、不確実性については実はあまり興味はなくて、ずばり将来どうなるか言ってほしい。そうじゃないと、どうアクションをとったらいいかとか考えられないということだと思います。

 その点でも話の最初からお互い伝えようと思ってるものと、伝えてもらいたいと思ってるものにズレがある。そこのギャップがなかなか埋めづらいので、いくら丁寧に時間をかけて易しい方法で話したとしても、うまくいかなかったりします。

 そこで、研究者のほうとしては、話すときの意識として、不確実性について正確さを期して説明する必要はあるにしても、極力それを説明のメインにおかず、どちらかといえば、そういう不確実性があるにも関わらず頑健な結論として言えることを明確にして、その点を分かりやすい言葉で伝える努力が必要なのではないでしょうか。逆に聞き手のほうとしては、不確実性なんていうまどろっこしいことを言ってないで結論だけ伝えてよというのでなく、研究者が何かしらの情報を示すときには、その情報には必ず何らかの不確実性がついているということを理解する必要があります。研究の主たる結論だけでなくて、それに伴う不確実性の性質や大きさについても常に意識し、興味を持つ姿勢が、特に将来予測の研究結果などを受け取る際には、今まで以上に必要になるんじゃないかと思います。

最後に

 第6回スタッフインタビューは、高橋潔室長に地球温暖化影響研究の今後の課題について話していただきました。これからは影響予測だけでなく、その予測から導かれた対策がどれくらい効果があるものなのか評価していくことも大事なのですね。


(聞き手:杦本友里 社会環境システム研究センター)
(撮影:成田正司 企画部広報室)
インタビュー実施:2017年5月11日