COP25の概要と残された課題

執筆:亀山康子(社会環境システム研究センター 副センター長)
2019.12.27

12/2~12/15の間、COP25(気候変動枠組条約第25回締約国会議)がスペインのマドリードで開催されました。今回の会議の概要と、残された課題についてまとめました。

COP25会場の様子
写真協力 衛星観測センター PANG Shijuan

このTOPICのポイント

 この記事のポイントは4つ。
  • パリ協定6条:詳細決定を持ち越し
  • 2030年目標の見直し:2℃目標の達成に向けて
  • ロス&ダメージに関するワルシャワ国際メカニズム(WIM):先進国と途上国の間のガバナンスの問題
  • 交渉外の出来事:市民の声、米国のパリ協定離脱通告、日本について

気候変動への国際的対処について話し合う気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)が2019年12月2日からスペインの首都マドリードで開催されました。予定閉会日は13日でしたが、交渉は難航し、2日後の15日にようやく閉会しました。ここでは、COP25の概要と残された課題をまとめます。

1)パリ協定6条

 COP21(2015年)で採択されたパリ協定では、2020年以降の各国の取り組みに関する基本ルールが定められていますが、それを実施するための詳細ルールが定められていませんでした。そのため、昨年のCOP24では100頁超にわたる実施指針が採択され、パリ協定は予定通り2020年からスタートする準備が整っています。
(詳しくはこちらもご覧ください/COP24報告記事http://www.nies.go.jp/social/topics_cop24.html

しかし、COP24では、「パリ協定6条」のルールだけは合意できず、先送りとなっていました。6条では、複数の国が協力して両国の合計の排出量を減らしていく制度が想定されています。国家間の排出量取引制度などの市場メカニズムもここに含まれます。市場メカニズムを活用する利点として、先進国の進んだ技術を途上国にいち早く導入するインセンティブが生まれることなどが挙げられます。しかし、デメリットもあります。多くの途上国は2030年目標として、排出量を絶対量で掲げておらず、「何も対策をとらなかった時と比べて〇%」や「先進国の支援があればさらに〇%」といった相対的な目標を立てています。上限が絶対量で決まっていないのに、その一部を6条の規定を用いて先進国に譲渡した場合、先進国では途上国での排出削減に協力した分自国の排出量を増やすことができてしまうのに、途上国では先進国に譲渡した分、より目標を厳しくするといった適切な対応が取れないおそれがあります。そうなると、排出削減努力が両国でダブルカウントされ、帳簿上では減っているのに実際の地球全体の排出量は増えるといったことになりかねません。

また、かつて京都議定書では、クリーン開発メカニズム(CDM)という類似の制度が存在し、そこでは排出削減量(クレジット)を将来に貯蓄することが認められていました。ところが、今回新たにパリ協定が動き出したため、クレジットを多く残している国は、CDMで認められたクレジットをパリ協定6条の下で認めてほしいと主張しました。このクレジットを認めると、地球全体の排出量はその分増加してもよいことになってしまいます。

一方、対策に積極的な国は、6条の利用は最低限度に抑えるべきだと考えていました。最終的にはすべての国が「排出量実質ゼロ」を目指すこととされている中で、市場メカニズムの過度な利用は各国の対策を遅らせてしまいます。これらの国にとって、6条に関する交渉は、合意できなくても困ることはありません。利用を促進する内容で下手に合意してしまうよりは、交渉を長引かせて実質的に利用できない状態を継続させた方が、気候変動抑制の観点からは望ましいとさえ言えます。

COP25では、6条を積極的に活用して自国の2030年排出削減目標をより達成しやすくしようと試みたブラジルやオーストラリア、中国などと、利用を最小限度に抑えるべきとした欧州や小島嶼諸国等との間で歩み寄りが見られず、来年に持ち越されました。日本はすでに「二国間クレジット制度」(Joint Crediting Mechanism : JCM)という独自の制度を2013年に開始し、モンゴルやバングラデシュなど17か国(2019年6月現在)と署名を交わし、相手国の削減分を日本側にも取り込めることを目指していましたが、この実現も来年に持ち越されました。

2)2030年目標の見直し

 パリ協定では、長期的には2℃より十分低い気温上昇幅を目指し、さらに1.5℃に向けて努力することとなっています。しかし、<>bパリ協定が採択された2015年時点で各国から提出された2030年目標を合計しても、2℃達成には不十分であることが報告されています。また、昨年には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から1.5℃特別報告書が公表され、気候変動影響を最低限に抑えるためには1.5℃を目指すべきであることが示されました。結果、今年に入り、2030年目標をより厳しいものに改定すべきだという声が高まっています。

COP21決定では、2020年までに、2030年目標を見直すことが求められているため、COP25では、来年に向けてできるだけ多くの国が2030年目標を見直すよう呼びかける文案が議論されました。ここでも小島嶼国などは、すべての国に対して目標の見直しを強く求める表現を希望しましたが、今から2030年目標を国内で協議する予定がない国も多く、「チリ・マドリード行動の時」と題された最終合意文書では、shall(しなければならない)といった強い表現は用いられず、COP21決定に言及し、目標見直しを推奨するに留まる表現となりました。

3)ロス&ダメージに関するワルシャワ国際メカニズム(WIM)

 これは、COP19にて気候変動枠組条約の下に設置された組織で、今回この活動のレビューが実施されました。現在すでに海面上昇等の影響で被害(ロス&ダメージ)が出ている小島嶼諸国は、このメカニズムの下で、被害を補填する資金を求めており、緑の気候基金(GCF)に対し、ロス&ダメージへの支援を求めましたが、既存の枠組の中で検討を続けることになりました(現在、GCFは緩和策と適応策のみを支援対象としています)。

また、パリ協定の8条でも、ロス&ダメージ対応としてWIMが言及されていることから、WIMをパリ協定の下に位置づけようとする米国と、条約の下に設立された経緯を重視する途上国との間で、ガバナンスが問題となりました。ロス&ダメージの議論は、原因者(加害者)としての温室効果ガス排出大国(先進国)と、被害を受けている途上国との間の南北問題の性格を有しています。後述のとおり米国は1年後のパリ協定離脱を通告しており、過去の最大の排出国である米国としては、ロス&ダメージに関して批判される立場にあるWIMから抜け出せることは望ましいことになります。逆に、途上国からしてみれば、この議論は米国抜きではできず、あくまで条約の下で議論を続けたいということです。

COP25 交渉外の出来事

1)市民の声

 今年はかつてないほど、気候変動に対する声が高まった一年でした。その発端は、言うまでもなくスウェーデンの16歳少女グレタ・トゥンベリさんです。彼女の行動が広まり、世界各地で若い世代がスクールストライキや気候マーチを実施しました。COP25でもグレタさんが登壇し、各国の交渉担当者に対して、対策を前倒しするよう呼びかけました。COP25議長だったカロリーナ・シュミット氏(チリ環境大臣)も、おそらく会場外の市民の声に応えるべく、少しでも前向きなメッセージを出せるよう努力するために会期を2日延長したのだと推察されます。最終的には十分応えられる成果が得られたとは言えませんが、今後、この声はさらに大きくなっていくことが予想されます。

2)米国のパリ協定離脱通告

 COP25が始まる1か月前に離脱を正式に通告しニュースとなりました。トランプ氏はすでに2017年6月、その意向を示していたため、想定されていたことではありましたが、COP25に消極的な流れを持ち込んだ点は否めませんでした。交渉会議と並行して行われた様々なサイドイベントでは、パリ協定に賛同する米国議会の議員たちが米国内でのさまざまな取り組みをアピールしていました。米国の離脱は来年の大統領選次第であり、その結果を見てから国際交渉の妥協点を決めても遅くないという気持ちが多くの交渉担当者にあったのではないかと思われます。

3)日本について

 日本国内では、国際交渉の争点よりも、日本が2回NGOから「化石賞」(*1)を受賞したことが話題となりました。いずれも日本の石炭火力発電所に対するスタンスが受賞の理由となっています。まず、国内では、新規の石炭火力発電所を建設する計画が多数あります。今後、2050年に向けて温室効果ガス排出量を実質ゼロにすべく、世界が舵を切っている中で、なぜ今からさらに石炭火力発電所を建てようとしているのか、という点が、国外から見ると不思議なのでしょう。同様に、日本は海外の石炭火力発電所建設にも多額の投融資を行っています。従来の石炭火力と比べると発電効率が良いということが強調されていますが、いくら効率が高くても石炭を燃やす限り二酸化炭素が排出されることには変わりなく、炭素回収・貯留(CCS)などと併せて進める必要があります。

*1)「化石賞」とは?
地球温暖化対策に前向きな取り組みを見せない国に対して、NGOがバッドジョークとして与える不名誉な賞。1999年のCOP5(ドイツ・ボン)において始められ、以来、恒例のセレモニーとして、継続的に実施されています。「化石」とは化石燃料を指すとともに、化石のような古い考え方との揶揄も入っています。
(EICネット 環境用語集「化石賞」より
http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=412

残された課題

 上述のとおり、COP25は会期を2日も延長して閉会しましたが、脱炭素社会に向けて明快なメッセージが出せたというには心もとない結果となりました。その間にも世界中では多くの異常気象が起きており、その一因が気候変動であることは疑いようがない水準にまでなっています。200近い数の国が集まる国際交渉の場は、数か国が反対しただけで合意が成立できなくなるため、大胆な決定をしづらくなっています。


今後はむしろ、自治体や産業界、市民といった国以外のさまざまなアクターの自律的な動きがますます重要になると思われます。自分たちが何をすべきか。科学の声を聞いて自分で判断するという新しい時代に移行しているのです。