科学者とアーティストの対話  一ノ瀬俊明×澤崎賢一

執筆:一ノ瀬 俊明(社会システム領域 主幹研究員)
2022.7.12


研究者のフィールドワークを素材として研究者の目線を映像作品の形に表現することを得意としている澤崎賢一監督と、都市環境のフィールドサイエンティストである一ノ瀬俊明のコラボレーションにより2つの動画作品が制作されました。それぞれの動画タイトルをクリックして、動画をご覧ください。


◆ 対話の記録:科学者の研究について
 
 
 「身の回りの都市空間から何が読み取れるのか」をテーマに、一ノ瀬が都内を歩きながら考えます (75分, 2022年制作
◆ 対話の記録:アーティストの作品について  
 上記「対話の記録:科学者の研究について」を振り返り、澤崎監督と一ノ瀬が対談します(36分, 2022年制作)


これらの作品は、2022年3月19日~ 3月25日にJR上野駅13番線ホームにおいて、『ファンダメンタルズフェス mini - アーティストと科学者 交流の過程の展示』として公開されました。https://www.fundamentalz.jp/post/20220319-fzfestivalmini(外部サイトに移動します)
また、2022年3月16日より、上記 YouTube Living Montage で公開されています。
 企画/制作:一般社団法人リビング・モンタージュ https://livingmontage.com/(外部サイトに移動します)

この記事のポイント

  • 科学者とアーティストのコラボレーションによる新しい成果とは
  • 研究者はフィールドで何をどう見ているのか ー 自然から主体的に知見を読み取るのは簡単ではない
  • 身の回りの都市空間から何が読み取れるのか

科学者とアーティストのコラボレーションによる新しい成果とは

ファンダメンタルズ:科学者とアーティストのためのプラットフォーム

科学技術広報研究会(JACSTJapan Association of Communication for Science and Technology )は、研究機関や大学などの広報担当者が、所属する組織の枠をこえて、広報活動における課題を共有し、それらを通してお互いに助け合い、共に成長していくことを目指したインデペンデントな互助組織です。2007年に設立され、現在136機関から約200名の広報担当者が参加しています。

ファンダメンタルズはJACST隣接領域と連携した広報業務部会による、最先端科学を中心とした分野の研究者と現代の美術を中心とした作家のためのプラットフォームです。このプログラムにおいては、サイエンティストとアーティストのコラボレーションにより、新しい成果が生まれることが期待されています。

参考:ファンダメンタルズ https://www.fundamentalz.jp/ (外部サイトに移動します)

澤崎賢一監督と一ノ瀬のコラボレーション

澤崎賢一監督は、研究者のフィールドワークにおいてノンエッセンシャルなものとして研究成果の周縁に位置づけられるものを生きた資源や発見として捉え直すための映像作品を制作しています。

一ノ瀬は、従前アジアの都市をフィールドに都市の気候変動適応に関する環境観測に取り組んできましたが、コロナ禍が未だ続いている現在、アジアでのフィールドワークを記録する事が難しい状況です。代わりに、澤崎監督とのコラボレーションにより、私たちが気軽に訪れることが可能な東京駅周辺地域を対象に、都市生活に役立つ学術的知見や研究者のまなざしを視聴者と共有できるような作品が誕生しました。

普段フィールドサイエンティストに同行して彼らのまなざしを記録し続けてきた澤崎監督ですが、環境学・地理学の研究者である一ノ瀬の着眼点(目の前の自然現象を脳内で数式化したり)には新鮮さを感じたポイントも少なくなかったようです。逆に一ノ瀬自身も、映像作家が重視するポイントを大いに学ぶこととなりました。これは、研究者がアウトリーチ活動を行う際に、自分たちのポテンシャルをいかに見せるか、という点で役に立つものと思われます。

 

研究者はフィールドで何をどう見ているのか — 自然から主体的に知見を読み取るのは簡単ではない

一ノ瀬は学部生時代、自然地理学を専攻しました。当時の学生便覧には、「自然から主体的に知見を読み取るのは簡単ではない。相当の覚悟を持つべし。」という記述がありました。

山を歩く時、地表を覆う植生や露頭のほか、河原の様子を観察し、その地域の景観のなりたちや、自然環境の変遷を考えてみましょう。正しい理解には十分な知識が欠かせません。漫然と眺めているだけで見えてくるものは限られています。今回の作品では建物や地面など、都市空間を構成する物体の表面温度を観察できるサーモカメラを用い、東京駅周辺の都市環境について、その特徴や人間に与える影響を考察してみました。このような計測機器を使う場合、観察対象たる「自然」は機器によって数値化(客観化)されるので、学生便覧において要求されていた「主体性」はそこまで必要ではないのかもしれません。

身の回りの都市空間から何が読み取れるのか

下の画像からは、高速道路の橋梁の金属部分が日射を受けて高温になっている様子や、内部を流動する水の存在により、送水管の表面が低温なままになっている様子が確認できます。このように、市街地の景観を構成する様々な要素の表面温度分布から、都市の表面を構成している物質の種類や、そこにおける熱・エネルギーの動きを考察することができます。

サーモグラフィで見る市街地風景

この作品の中では、気象学、建築学、生態学、土木工学などの広範な知見を総動員して、対象地域の環境を読み解く試みを行っています。NHK「ブラタモリ」でのタモリさんのリアクションは視聴者をうならせますが、番組におけるフィールドワークの積み重ねがあってこそできるわざなのです。