事故・災害時における化学物質調査の現状と課題
【研究プログラムの研究実施状況4:「災害マネジメント研究プログラム」から】
「災害環境マネジメント研究プログラム」では、今後の災害に備えるための研究に取り組んでいます。東日本大震災では、放射性物質の環境中への放出が最も大きな問題となりました。化学物質についても同様に、事故や災害の発生時には事業所などで製造・保管されている有害な物質が環境中に放出される事態が起こります。本プログラムでは、このような緊急時に特有の化学物質曝露状況に関するリスク管理を行うための研究を進めています。
従来、化学物質の製造や貯蔵など取扱のある施設や事業所では、環境への放出量や作業者の曝露量を制御するための取り組みが行われており、リスクが十分低くなるよう管理されています。多くの化学物質は排出側の管理により一般公衆への曝露を抑制することが可能です。そのため、一般環境において濃度基準等が定められている物質はそれほど多くありません。しかし事故や災害が発生すると、貯蔵施設からの漏洩などにより、一般環境においても平常時に想定されている状況とは異なる曝露状況となり得ます。近年、NATECH(natural-hazard triggered technological accident)と呼ばれる自然災害起因の産業事故など、平常時と異なる状況に想定されるリスクを評価・管理するための研究が進められています。しかしながら、このような事故・災害時のリスク管理手法はまだ十分に体系化されておらず、また、必ずしも事前に想定された状況になるとは限りません。そのため、実際の事故や災害の現場では、リスク要因として「何を調査し、どのレベルで管理すればいいのかわからない」という問題を抱えています。リスクの判定を行うための基準値を作成しておくことで、事前に想定できなかったシナリオに対しても対策が取りやすくなると考えられます。ここでは、いくつかの緊急時における化学物質の基準値や、緊急時の化学物質調査において参考となる情報源の紹介を行うとともに、緊急時調査において有用となる情報の整理の必要性について述べたいと思います。
1. 災害発生から復興にむけた段階別の基準値の概念

2. 緊急時化学物質調査のための情報整理の必要性
緊急時の迅速な調査実施のためには、災害の質や規模などに応じて、様々な情報が必要となります。本研究では緊急時調査を実施する状況として、以下の3パターンを想定し、参考となる情報源の整理を行っています。ここでは「緊急時」の考え方として、被害の場所が明確な状況を「事故」、被害が広域でサンプリング地点やサンプリング対象(大気、河川水、地下水、土壌等)の検討が必要となる状況を「災害」と称することとします。
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(1)原因物質が把握可能な事故(事業所や輸送車両からの漏洩、火災・爆発事故など)
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(2)原因物質不明の事故(特定地域での健康被害の増加、魚類の斃死など)
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(3)災害(地震、津波、洪水など)
ここまで緊急の化学物質調査において参考となる情報源を示してきましたが、一言で化学物質といっても、機関や分野によりその分類方法は様々であり、それぞれのデータベース間の対応関係は整理されていません。迅速な緊急時調査の実施のためには、利用可能なデータを緊急時に使用しやすい状態に整備しておくことが重要となります。他にも、迅速かつ適切な緊急時調査の実施のためには、平常時から簡易な測定技術を共有しておくことや自治体間の協力体制を構築しておくことも重要な課題となります。また、既存の緊急時基準については、優先順位の高いヒトへの健康影響のみが想定されていますが、広くは被災地域の生態系への影響なども想定した管理方策へと拡大検討していく必要があると考えられます。
執筆者プロフィール:
2015年につくばに来るまで京都を離れたことがなかったのですが、関東出身の両親のおかげで言葉に違和感を持つことがほとんどありません。無意識のうちに関西弁、標準語を使い分ける自分に驚きました。