妊婦の血中鉛濃度と4歳までの子どものぜん鳴およびぜん息との関連 :子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

国立環境研究所エコチル調査コアセンターの西浜柚季子共同研究員(筑波大学特任助教)らは、エコチル調査の87,041組の親子のデータを用いて、子どもの1歳から4歳までのぜん鳴※1およびぜん息※2を推移パターンによって類型化し、母親の妊娠中の血中鉛濃度と子どものぜん鳴およびぜん息パターンとの関連について解析しました。その結果、子どものぜん鳴およびぜん息のパターンは、ほとんど症状のない群、2歳未満の時期のみぜん鳴もしくはぜん息を示した「早期一過性」群、3歳以降にぜん鳴もしくはぜん息を示した「幼児期発症」群、そして(1歳から4歳まで)持続的にぜん鳴、もしくはぜん息症状を示す「持続性」群の4つに分かれました。母親の妊娠中の血中鉛濃度が高いほど、2歳未満の早期一過性のぜん鳴のリスク、および早期発症・持続性のぜん鳴およびぜん息のリスクが増加することが明らかになりました。
ただし、今回得られた結果をもって、すぐに妊娠中の血中鉛濃度とぜん鳴およびぜん息のリスクとの関連性を結論づけることはできません。その理由は、食事摂取に関する交絡因子が考慮できなかったこと、ぜん息については保護者の自己申告に基づく情報であること、日本語版のISAAC改訂版質問票は乳幼児および未就学児を対象とした妥当性は確認されておらず、アウトカムの誤分類の可能性があることなどが本研究の限界点として挙げられるためです。
本研究の成果は、令和8年3月26日付でElsevierから刊行された学術誌『Environment International』に掲載されました。
※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
※本研究に関する補足説明資料を作成しました。以下のURLも併せて確認ください。
URL:https://www.nies.go.jp/pr/news-and-updates/2026/whatsnew20260605Q&A.pdf

1. 発表のポイント

  • 87,041組の親子のデータを用いて、母親の妊娠中の血中鉛濃度と子どもの1歳から4歳までのぜん鳴およびぜん息の発症との関連について解析しました。
  • ぜん鳴およびぜん息の推移パターンは4つに分かれ、母親の妊娠中の血中鉛濃度が高いほど、2歳未満までに発症しその後消失傾向にあるぜん鳴のパターン、また、1歳から4歳まで持続的なぜん鳴およびぜん息のパターンを示すリスクが増加することが明らかになりました。
  • 一般的な日本人の妊娠女性においても現在または過去の鉛ばく露が、生まれた子どもに影響を及ぼす可能性が示されました。

2. 研究の背景

子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート研究です。さい帯血※3、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしています。

エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。

ぜん息は小児期における主要な慢性疾患のひとつです。世界保健機関(WHO)はぜん息の原因として、低出生体重や、大気汚染、たばこの煙へのばく露、ほこりなどの環境要因を挙げています。一方、鉛へのばく露は、主に大気、ほこり、たばこの煙から生じており、エコチル調査の付随研究によると、日本の妊娠女性における鉛のばく露源は、食事(62.9%)、ハウスダスト(16.8%)、土壌(12.3%)、屋内空気(8.0%)でした。日本の妊娠女性の血中鉛濃度は低レベルですが、妊娠中の母親の鉛濃度と小児のぜん息との関連を調査した研究はほとんどありません。

そこで、本研究では、母親の妊娠中の血中鉛濃度と、生後4歳までのぜん鳴およびぜん息の経過との関連を検討しました。

3. 研究内容と成果

本研究では、エコチル調査に参加した約10万組の親子のうち、妊娠中の血中鉛濃度のデータと、1歳から4歳のぜん鳴およびぜん息の有無に関するデータを有する母子87,041組を解析対象としました。

子どものぜん鳴およびぜん息は、修正版ISAAC(International Study of Asthma and Allergies in Childhood、子どもたちの呼吸・皮ふ・鼻の状態を把握する質問票調査)質問票を用いて評価しました。ISAACは自己回答式質問票であり、本研究では母親(または保護者)が記入しました。

その結果、子どものぜん鳴およびぜん息のパターンは、ほとんど症状のない群(ぜん鳴:全体の69.3%、ぜん息:全体の90.7%)、2歳未満の時期のみぜん鳴もしくはぜん息を示した「早期一過性」群(ぜん鳴:18.9%、ぜん息:1.3%)、3歳以降にぜん鳴もしくはぜん息を示した「幼児期発症」群(ぜん鳴:5.8%、ぜん息:6.3%)、そして1歳から4歳まで持続的にぜん鳴もしくはぜん息症状を示す「持続性」群(ぜん鳴:6.0%、ぜん息:1.7%)の4つに分かれました。母親の妊娠中の血中鉛濃度を五分位※4に分けると、濃度が高い第三~五分位では、2歳未満の一過性のぜん鳴、また、(1歳から4歳までの)持続的なぜん鳴およびぜん息のリスクが増加することが明らかになりました。

4. 今後の展開

本研究の結果は、低レベルの鉛ばく露が、公衆衛生上、依然として問題であることを示しています。日本の妊娠女性における鉛ばく露の主要源は食事、屋内空気、ハウスダストであることが報告されていますが、血中の鉛濃度を低減する方法については十分な情報がありません。妊娠期間を含めた鉛ばく露を低減するための継続的な研究が必要です。

また、今後の研究では、ぜん鳴・ぜん息にも関わる免疫調節、酸化ストレス、エピジェネティック※5な変化など、基礎となる生物学的メカニズムを解明するとともに、幼少期以降も長期的に呼吸器への影響を検討する必要があります。

5. 参考図

図1:1歳から4歳までのぜん鳴の推移パターン(上図)と妊娠中の母親の血中鉛濃度と1歳から4歳までのぜん鳴との関連(下図)

 下図については、鉛濃度が最も低いグループ(Q1)に比較し、Q2、Q3、Q4、Q5と鉛濃度が高くなるにつれて、早期一過性のリスク(緑)と持続性リスク(赤)が高くなる傾向を示している。

図2:1歳から4歳までのぜん息の推移パターン(上図)と妊娠中の母親の血中鉛濃度と1歳から4歳までのぜん息との関連(下図)

下図については、鉛濃度が最も低いグループ(Q1)に比較し、Q2、Q3、Q4、Q5と鉛濃度が高くなるにつれて、持続性リスク(赤)が高くなる傾向を示している。

6. 用語解説

※1ぜん鳴:気管や気管支が狭くなることで、呼吸時に、ゼーゼーやヒューヒューという音がする状態です。

※2ぜん息:気管支の慢性的な炎症が原因で、少しの刺激でも腫れたり、痰(たん)がでたり、周りの筋肉が縮み、気管支が狭くなることで、呼吸が苦しくなる状態を繰り返す病気です。

※3 さい帯血:妊娠中の母親と子どもを結ぶへその緒を「さい帯」と言い、さい帯血は、さい帯と胎盤に含まれる血液です。

※4五分位:データの値を小さい順に並べて、一つのグループが同じ人数になるように、五つのグループに分けるときの範囲をいいます。

※5 エピジェネティック:遺伝情報(DNAの塩基配列)は変化させずに、化学的な修飾によって遺伝子の働きを制御する仕組みのことをいいます。

※6 ぜん鳴/ぜん息確率:年齢時点でのぜん鳴およびぜん息「あり」に該当する確率

7. 論文情報

題名(英語):Associations between maternal blood lead concentration during pregnancy and trajectories of wheezing and asthma in offspring: the Japan Environment and Children’s Study (JECS)
著者名(英語):Yukiko Nishihama1,2, Tomohiko Isobe1, Yukihiro Ohya3,4,5, Tsuyoshi Murata6,7, Shoji F. Nakayama1 and the Japan Environment and Children’s Study Group8
1西浜柚季子、磯部友彦、中山祥嗣:国立研究開発法人国立環境研究所
2西浜柚季子:筑波大学医学医療系生命医科学域
3,4,5大矢幸弘:名古屋市立大学医薬学総合研究院、藤田医科大学総合アレルギーセンター、国立成育医療研究センターアレルギーセンター
6,7村田強志:エコチル調査福島ユニットセンター、福島県立医科大学産科婦人科学
8グループ:エコチル調査運営委員⻑(研究代表者)、コアセンター⻑、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成
掲載誌:Environment International
DOI:10.1016/j.envint.2026.110219

8. 発表者

国立環境研究所
環境リスク・健康領域 曝露動態研究室
主幹研究員
磯部 友彦
エコチル調査コアセンター
次長
中山 祥嗣

9. 問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
次長 中山祥嗣
jecs-pr(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所
企画部広報対話室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)